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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
終章 帰還、そして旅立ち

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第48話 風の帰る場所

 愛を知らなかった魔女見習いと、光に選ばれた少年が辿り着いたのは、誰よりささやかで、誰より尊い日常だった。



 ——

 森の館の縁側で、軒下においてある粗末な椅子に座り、ウリルがゆったりとお茶を飲んでいる。

 金の髪が陽光に照らされてきらきらと輝いている。


 その髪をあたたかい風がふわっとさらった。

 髪に手をあてて、ウリルが視線をあげると、そこに懐かしい姿が目に入った。


 二頭の駆鳥(かけどり)に乗った、金髪の少女と銀髪の少年。こころなしか、二人の頭の位置が、あの森が燃えた旅立ちの夜よりも、ぐっと近づいていた。


「おかえり、ナナ……それに、トキ」

 

 鞍を降りると、ナナとトキが走り出し、ウリルの前まで全力で駆けてくる。

 

「……はぁ、ただいま、お師匠さま」

 

「おひさしぶりです、ウリル様」


「よい旅だったようだね、二人ともいい顔をしているよ。お入り、あたたかいお茶を淹れよう。ゆっくり休むといい」



 お茶が入りテーブルを囲む三人。


「ちゃんと取り戻したね、ナナ」


 ウリルがどこまでも優しい笑顔で、声をかけた。

 

「はい、やっと取り戻しました」


 誇らしげにナナが胸を張る。


「ありがとうございました。二人で旅立たせてくれて。放り出してもよかったはずなのに」

 

「そんなこと、できやしないさ。全部うまくいったんだ、それに、もう過去のことは言わなくていいさ。大事なことは、これからのことだよ」


 そう言って、ウリルはナナとトキをじっと見回した。

 

「私はトキと自分の居場所を探したいと思います」

 

 ナナはウリルの顔を見て、力強くそう言い切った。

 

「僕はナナさんを支えてこれからもずっと一緒に生きていきたいです」


 トキは、ナナの横顔を見ながら誇らしげにそう言った。

 

「そうかい……ちょっとまっていなさい」


 ウリルはそう言うと、奥の部屋へ向かっていく。


 どうしたのだろうと二人が顔を見合わせていると、何かをもってウリルが戻ってきた。

 

 しばらくウリルは、ナナとトキを見つめ続けた。

 その瞳に、わずかな寂しさと深い誇りが宿る。

 

「これをもっておいき」

 

 ウリルは、翠色の手の平に載るくらいの丸い石を、ナナに差し出した。それは磨き上げられていてナナと影をその表面に映している。


「これは何ですか?」

 

「これはお前の為の結界石だよ。これを置くお前の、いやお前達の『家』を探しなさい」


「これが、結界石……」


「いつか、お前が一人前の魔女になる時の為に、探しておいたものだよ。もってお行き」

 

「ありがとうございます。……お師匠さま」

 

 言葉の最後が、少し擦れた。ナナの眼には光るものがあった。

 

「とりあえず、今夜はゆっくり休んでいきなさい、今夜は久しぶりに私が腕を振るうよ」


 成長して以降、食事の準備はナナの役目だった。最後に食べたのは、ナナが病気をした時くらいだったろうか。懐かしい味を思い出して、ナナの喉が小さくなった。

 


 その日の、森の庵の食卓は、久しぶりに賑やかな声に包まれていて、ナナは帰ってきたんだという想いを抱いて、心から落ち着ける一夜を過ごした。もちろん、その隣には今日もトキがいた。



 翌朝、森は今日も翠の風をさわさわとナナに届けていた。


 トキとナナは、再び旅装に身を包んで、森の館を出ていく。

 

「自分の根を張る場所をしっかり探しておいで。たまには遊びにくるんだよ。いつになっても、お前は私の弟子なんだからね」——ウリルが二人を見送る。その瞳は小さく潤んで光っていた。

 

「いってきます、お師匠さま」

 

「ありがとうございました」


 二人は自分達の根を探す、新しい旅立ちをする。


「ねえ、トキ、どんなところがいいと思う?」


 ナナがトキを見つめて問いかけた。

 

「そうですねえ、静かな風の吹くところがナナさんには合っていると思います——でも、僕は、ナナさんの横ならどこでもいいですよ」

 

 そう言って悪戯っぽく微笑むトキ。

 

「もう、そんなこと言ったら——嬉しくて何も言えなくなるよ」

 

 と、くちびるを尖らせるナナ。

 

 その瞬間、トキがすっと身を寄せると、ついばむように、そのくちびるに自分のくちびるで、チョンとつついた。

 

「愛してます、いつまでも。あらためて、守ってくれてありがとう。でも、これからは二人で行きましょう」


 そうトキが強い眼差しをナナに向ける。

 

「私も愛してるよ‼」

 

 ナナはそういうと、風をまとってふわりと宙を舞うと、トキに抱きついて、今度は少し長いくちずけをかわした。


 重そうに顔を後ろに向けながら歩く、二人を載せた駆鳥(かけどり)と、足取りが軽くなった駆鳥(かけどり)が、二頭並んで歩いていった。


 ——風が二人をやさしく包み、新しい旅路へとそっと背中を押してくれた。



『森の魔女見習いは、光の少年に恋をした』 完


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