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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
終章 帰還、そして旅立ち

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第47話 帝国の残照

 「ただ、そばにいてほしい」

 その想いが、森に帰る道標になった。

 


 ——

「ナナ、トキ!」

 

 レアが二人に駆け寄ってくる。

 

 サリルも笑っている。

 

「お二人とも、ありがとうございました」

 

 トキがそう言って頭を下げた。

 

「う、うん。よかったわね」——レアが照れながらそう言った。

 

「疲れたわね、お風呂でも入ってゆっくりしたいわ」——サリルがそんな事を言う。

 

「お風呂と言っても……」

 

 ナナは周りを見渡す、かつて帝城だった場所はほぼ廃墟と化している。ただ、頑丈な遺跡を利用した帝城と城壁だけが、そこにそそり立っている。


 最後に上空で戦ったおかげで、帝都の市民たちには大きな被害がでてなさそうなのを見て、ナナは安堵した。


「とりあえず疲れたし、どこか離れたとこで休みたいわね」

 

「あ、ナナ、昨日行ったあそこはどう?」——レアが思いだしたように言った。

 

「ああ、あそこなら人目も避けられるね、サリルさま、レアを運んでいただけますか? 私はトキと飛びますので」

 

 ナナは朝の帝都を飛んでいき、少し離れたところから低空を飛んで人目につかないように、レジスタンスのアジトを目指した。

 

 サリルもレアを運びながら、ナナの後ろをついてくる。



 隠された洞窟に入り、人工の入り口までくる。見張りのレジスタンスに伝言を頼むと、あわてて、ゲハルトとヴェルンが出てきた。


「いやあ、派手にやってくれたなぁ、おかげでこっちは警備が減って楽に仲間を助けられたよ」

 

 ヴェルンが笑いながら礼を言う。そしてゲハルトはこれからの事を話し始める。

 

「帝国の中枢が吹き飛んだ以上、もう軍は形を成せん。だが……だからこそ、俺たちはこれから『国をどうするか』を話し合わなきゃならない。争いばかりの国に戻すつもりはない」

 

「先の話はまたにして、とりあえず部屋を一部屋貸してくれない? 流石に疲れたのよね」

 

 レアがそう急かすと、慌ててゲハルトは部下を怒鳴りつけながら、休むための部屋をあけてくれた。

 

「おやすみトキ」

「おやすみナナ」

 

 こんな言葉を言うのも久しぶりのこと。二人は手をつなぎながら一つの寝床で横になると疲れていた二人はあっさりと寝息をたてて寝てしまった。

 

「ねえ、サリル様は『恋』って何かわかります?」——レアが小声で尋ねる。


「私に知らない事なんて……あるわね魔女には殆ど関係のない事だもの」——肩をすくめながらサリルがため息をついた。

 

「でも、この二人見てると悪くなさそう……って思いません?」

 

「そうね、そう思うわ。それに希には恋をして子供をつくる魔女もいないではないらしいわね。でも私たちもとりあえず休みましょう。疲れているのは私達もだしね」

 

「はい、おやすみなさい」

 

 ——眠りにつくナナとトキの顔を見ながら、サリルはそっと心の中つぶやく。

 

『まず夫を見送り、そして子供が魔女でない限り、先に子を見送らねばならない。そんな悲しいお話ばかりなのよね……魔女の恋は。でもあの子達なら……古代人の寿命も魔女と同様だったと言うしね……」

 

 やがて四つの寝息が聞こえてくる。

 帝城を廃墟にした4人の眠りを妨げる勇気をもつものは誰もおらず、4人はぐっすりと寝て夕方目を覚ました。

 

「よお、おはよう、よく眠れたかい?」

 

 ヴェルンが4人を迎えてくれた。妙に人が少ない。

 

「ほとんど出払ってしまっててね、私はゲハルトに言われて顔見知りだからって残されたんだ」

 

「何かあったの?」

 

 ナナが問いかけると、ヴェルンが顔を歪めながら答えた。

 

「どうも、国境のあちこちが混乱がおこってるようでね、解放したレジスタンスのリーダーと生き残った帝国軍の幹部とで会談が行われる事になったんだ」

 

「それは『人の子』の未来よ。私たちが口を出す事ではないわ」

  

 そうサリルは雪解け水のように冷たい声で、そう伝えた。

 

「あ、ああそうだな、すまない。あんたたちは、他の誰もできない事をしてくれたんだ、あとは我々の力で、なんとかやっていくよ」


 そうヴェルンは気を取り直して言って、ナナにあらためて頭を下げた。

 

 自分たちのしたことがどんな波紋をこの国に起こしたのか、ナナとトキはそこに責任を感じないではなかった。しかし、サリルがそう言い切っている以上、それ以上何も言えなかった。

 

「私達は、これで還ることにするわね、ナナ、レア、いきましょう」

 

 そう言って、サリルは扉から出て行く。

 

 あ……とレアはヴェルンとサリルの間に視線を動かしたあと、サリルについて出て行く。

 

 ナナとトキは、ヴェルンにぺこりと頭を下げた。


「帝城まで案内してくれて、ありがとう」

 

「ありがとうございました」

 

 そうして四人は外にでると、レジスタンスの兵がナナたちが乗ってきた二頭の駆鳥(かけどり)を連れてきてくれた。

 

「ありがとう、トキ、またこの子たちで帰ろうか?」

 

「そうだね、ずっと二人と二頭で旅してきたんだからね」

 

「サリルさま、レアと先に帰ってもらってよいでしょうか? 私たちはずっと旅してきたこの子たちと一緒に帰ろうと思います」

 

 やれやれというように肩をすくめたレアが、二人を見て冷やかす。


「そんなこと言って、二人でゆっくり一緒にいたいんじゃないの?」

 

 ナナとトキは顔を見つめ合って真っ赤になる。

 

 それを見て微笑ましそうに笑うサリル。

 

「うふふ、いいわよ。二人とも……無理はしないこと。また湖にもいらっしゃい。いつでも歓迎するわ」——そういうとサリルはさりげなくナナの耳元に口元を寄せた。


「この辺り一帯の魔力が希薄になってるの、あの力、安易につかっちゃだめよ、魔力を吸い尽くされたら、小さい命から消えていってしまうわ……」

 

 そう言い残すと、サリルはレアを連れて、水の上を滑るように、南の空へ去って行った。


 二人は、ぎゅっと一度抱きしめ合うと、それぞれに鞍上に登ると、南へ向かい出発する。

 

「森へ帰ろう」


「森へ行きましょう」


 帝都がすこしずつ小さくなり、二人は時々お互いを見合っては、笑顔を見せる。


 また、二人での旅がはじまったが、もうその旅は、逃避行ではない。——やわらかな風の中で。

 それはもう、逃げるための旅ではなく、『森へ帰る』ための、穏やかな旅立ちだった。


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