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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第九章 はじまりの魔女

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第46話 白き魔女と灰色の魔女

 共鳴した風が白い輝きとなり、ナナとトキは『白き魔女』として立つ。

 最後の戦い——灰色の魔女との決着が、ここに始まる。



 ——

「その姿、ナナなの?」

 

 レアが驚きながら聞いてくる。

 

「ナナであり、トキでもあるわ」 

「ナナであり、トキでもあるよ」


 ナナとトキの声が同時に、白い鎧の魔女から発せられた。

 

 

「なんだ、その姿は、知らぬ。まがい物だというのに、なんだその魔力は!」

 

 はじまりの魔女が、はじめて感情らしきものをみせる。

 

『世界は、あなたではなく、私たちを選んだ』


 ふたりの声が唱和する。

 

「そんなことはあり得ぬ」——はじまりの魔女が魔力を放出し、身体にまとう。その魔力は形を成し、ナナたちと同じく鎧の姿へと変わっていった。ただその色は、灰色だった。

 

 灰色の光と、白い光が、神殿の壁を照らした。



「行くよ、トキ」

「うん、いこう、ナナ」

 

 白い魔女の右手が灰色の魔女の方に向き、そこに魔力が集まる。

 その魔力は白銀の風となって、灰色の魔女へ向かう。

 

 灰色の魔女の手に炎が燃え上がる、そして白銀の風を炎で散らそうとしたが、簡単に散らない。

 

  あわてて、反対の手に金色の光をだして、重力をねじ曲げて、風を辛くも逸らした。壁にあたった風が壁を抉り、大きな亀裂がはしる。


「く、やるではないか、退屈しのぎくらいにはなりそうじゃのう、貴様らまがい物と違う、すべての属性の力を操る、我の力をみせてくれようぞ」

 

 そう言うと、灰色の魔女は、魔力を放出する。鎧の右手が赤、左手が金、右足が青、左足が緑の光につつまれ、四色の魔力が混ざり合い、遺跡全体がそれに鳴動し始めた。

  

「これは、ちょっとまずそうね、レア、私に掴まりなさい、あなた自由に飛べないから」

 

「は、はい」

 

 レアが、サリルに掴まって一緒に宙に浮く。

 

 灰色の魔女が4つの光を収束させる。

 光が混ざり合い、やがて漆黒の球に変わる。

 

 「消え失せよ」

 

 白い魔女にむかって黒い球が放たれた。

 

 それは周りの空間そのものを吸い込みながら、白い魔女に向かっていく。


 白い魔女の胸の内でナナとトキが相談する。

「ナナ、これは消すことはできない」 

「じゃあ、どうすれば?」

「魔力を喰らいにいってるように感じる、だからこちらも溜めた魔力を送って、寸前で上へ上へ向かわせてみて」

「わかった」

 

 白い魔女は、銀翠の魔力球を放つ。それは黒い球の寸前で、上へむかっていく。

 それに惹かれたように黒い球も天井へ向かっていく、そして……遺跡が地上まで食い尽くされた。

 

「やっばいわねぇ、これ」——レアがあっけに取られて上を見る。

 

「ナナ、できたら広い外に行きましょう、ここじゃ被害が大きすぎる」

 そうサリルは言うと、地上に向かって、水のレールをすすんでいく。

 

『外で、本気でやりましょう、ついてきなさい』——白い魔女がナナとトキの声で、灰色の魔女を挑発する。

 

「我にむかって、何たる態度を、よし、いいじゃろう」

 

 灰色の魔女も、空へ向かって飛び立った。



 帝都の上空、雲の上まで、4人はあがっていた。

 

 夜が明け、空が白んできている。


「地下より、自然に近いこちらの方が、魔力をいっぱい感じられますね」——レアがサリルに言う。

「そうね、力は使いやすい、でもそれはきっと向こうも同じ」——サリルがこの先を案じて言った。 


 

『ここなら、邪魔も入らないわ、本気でやってあげる、あなたの昔の境遇に思う事が無くはないけど、力に飲まれているあなたをこのままにしてはおけない』

 

「まがい物の分際で、よくほざいたものよ、こちらも本気をみせてやるわ」

 

 灰色の魔女が、炎と水の柱を伸ばしてきたのを、白い魔女が銀色の風で吹き飛ばす。

 風が空を満たした。 


 銀色の刃が跳んできたのを、灰色の魔女が、金色の盾をだして弾き飛ばす。

 その時、風が震えた。

 

 世界の決着をつける、神々の争うが如き光、それは帝国だけでなく、その周りの国々からも見えたという。

 

 

 轟音とともに、帝城が破壊され、天に神が争う光が輝き満ちる。

 帝国首都の民は、深夜に起こった破壊の音に怯えて、明るくなって見た帝城の惨状に絶句し、今は、さらに恐れながら空を眺めていた。

 

 収容所の混乱など、それに比べれば小さいものだった。

 

「陽動を頼んだんだけど、どう見てもあっちが本命だよな、俺たちはなんだろう?」

 ゲハルトがそう愚痴る。

 

「火事場泥棒ってとこじゃないですかね?」 

 ヴェルンがそう返した。

 

「ちがいない、まぁ、火事場泥棒でもいいから、俺たちは俺たちのできる事をしよう」


 

 王国と帝国の争う最前線の戦場からも、その輝きは確認できた。

「帝国軍が急に撤退を始めたかと思うと、あの光だ。どうも帝都の方角のようだが、神罰でも食らったのだろうか?」そうロランが呟く。

 王命に逆らった罪で、最前線で死闘をさせられていた聖騎士に訪れた、久々の休息だった。



 森の館の窓から北東を眺めるウリルは、遠くの空に光る魔力の煌めきを、花火でも見るかのように眺めていた「あの子の風があんなに大きくなるなんてねえ。ナナや、あなたはあなたの思うままに、やりなさい」


 白い魔女の心でまた二人は話す。

「ナナ、小細工はもういらないよ、相手の魔力の減りは僕らよりも早い」

「そうなんだ、じゃあいけるね」

「それに、僕らは今、世界の魔力と繋がっている、向こうより先に尽きる事はないよ」

「そう、じゃあ最後は思いっきりいきましょうか、トキ」

 

『ふたりで力をあわせて』——ふたりの声がまた調和する。

 

 大きく手を開くと、魔力をすべて身体の前に集中する。

 

「ぼくたちの」

「わたしたちの」

 

『全力をくらえ』——ふたりの声がまた揃い、銀翠の光が灰色の魔女めがけて、大気の渦となって向かっていく。

 

「く、これはいかん、わらわが避けるなど、口惜しいが仕方……」——そう灰色の魔女が言って動こうとしたその鼻先に、蒼と紅の光がぶつかり、一瞬、はじまりの魔女の動きが遅れた。

 

「ごめんなさいね、そのままでいてくださらないと困るのよ」——サリルの清流の流れるような声がする。

 

「逃がさないんだからね」——レアの元気な声が響く。

 

 銀翠の渦ははじまりの魔女を飲み込んだ。

 

「ば、ばかな、なんだこの力は、我の身体が、このままでは……ゆるさん、ゆるさんぞおおおおおお!!!」

 

 光の中に、灰色の鎧が朽ちるように剥がれていく。

 

「我が魂は滅びん……この恨みは必ず……世界をおおおおおお!!!」

 

 そして、光が収まると、そこには欠片一つ残っていなかった。ただ、ずっとその先の雲まで吹き飛ばした、大気にのこった線上の跡だけが、残されていた。

 

「終わったね、トキ」

「そうだね、ナナ」

 

 白い魔女と、蒼と紅の魔女は、帝城の跡に降りていった。

 

 白い鎧が光って消えると、そこには、ナナとトキが並んでいた。


「もう、離ればなれはごめんよ、トキ」

「ずっと一緒にいるよ、ナナ」

『愛してる』

 

 二人はそのまま抱き合うと、もう一度、キスをした。

 それは平和を祝い、二人のこれからを祝福するキスだった。




 第九章 完



 抱きしめ合う二人のまわりを、

 森の匂いを含んだ風がそっと通り抜けていく。

 ——帰ろう。あの緑の場所へ。

 そして、そこからまた二人で歩き出すために。


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