第46話 白き魔女と灰色の魔女
共鳴した風が白い輝きとなり、ナナとトキは『白き魔女』として立つ。
最後の戦い——灰色の魔女との決着が、ここに始まる。
——
「その姿、ナナなの?」
レアが驚きながら聞いてくる。
「ナナであり、トキでもあるわ」
「ナナであり、トキでもあるよ」
ナナとトキの声が同時に、白い鎧の魔女から発せられた。
「なんだ、その姿は、知らぬ。まがい物だというのに、なんだその魔力は!」
はじまりの魔女が、はじめて感情らしきものをみせる。
『世界は、あなたではなく、私たちを選んだ』
ふたりの声が唱和する。
「そんなことはあり得ぬ」——はじまりの魔女が魔力を放出し、身体にまとう。その魔力は形を成し、ナナたちと同じく鎧の姿へと変わっていった。ただその色は、灰色だった。
灰色の光と、白い光が、神殿の壁を照らした。
「行くよ、トキ」
「うん、いこう、ナナ」
白い魔女の右手が灰色の魔女の方に向き、そこに魔力が集まる。
その魔力は白銀の風となって、灰色の魔女へ向かう。
灰色の魔女の手に炎が燃え上がる、そして白銀の風を炎で散らそうとしたが、簡単に散らない。
あわてて、反対の手に金色の光をだして、重力をねじ曲げて、風を辛くも逸らした。壁にあたった風が壁を抉り、大きな亀裂がはしる。
「く、やるではないか、退屈しのぎくらいにはなりそうじゃのう、貴様らまがい物と違う、すべての属性の力を操る、我の力をみせてくれようぞ」
そう言うと、灰色の魔女は、魔力を放出する。鎧の右手が赤、左手が金、右足が青、左足が緑の光につつまれ、四色の魔力が混ざり合い、遺跡全体がそれに鳴動し始めた。
「これは、ちょっとまずそうね、レア、私に掴まりなさい、あなた自由に飛べないから」
「は、はい」
レアが、サリルに掴まって一緒に宙に浮く。
灰色の魔女が4つの光を収束させる。
光が混ざり合い、やがて漆黒の球に変わる。
「消え失せよ」
白い魔女にむかって黒い球が放たれた。
それは周りの空間そのものを吸い込みながら、白い魔女に向かっていく。
白い魔女の胸の内でナナとトキが相談する。
「ナナ、これは消すことはできない」
「じゃあ、どうすれば?」
「魔力を喰らいにいってるように感じる、だからこちらも溜めた魔力を送って、寸前で上へ上へ向かわせてみて」
「わかった」
白い魔女は、銀翠の魔力球を放つ。それは黒い球の寸前で、上へむかっていく。
それに惹かれたように黒い球も天井へ向かっていく、そして……遺跡が地上まで食い尽くされた。
「やっばいわねぇ、これ」——レアがあっけに取られて上を見る。
「ナナ、できたら広い外に行きましょう、ここじゃ被害が大きすぎる」
そうサリルは言うと、地上に向かって、水のレールをすすんでいく。
『外で、本気でやりましょう、ついてきなさい』——白い魔女がナナとトキの声で、灰色の魔女を挑発する。
「我にむかって、何たる態度を、よし、いいじゃろう」
灰色の魔女も、空へ向かって飛び立った。
帝都の上空、雲の上まで、4人はあがっていた。
夜が明け、空が白んできている。
「地下より、自然に近いこちらの方が、魔力をいっぱい感じられますね」——レアがサリルに言う。
「そうね、力は使いやすい、でもそれはきっと向こうも同じ」——サリルがこの先を案じて言った。
『ここなら、邪魔も入らないわ、本気でやってあげる、あなたの昔の境遇に思う事が無くはないけど、力に飲まれているあなたをこのままにしてはおけない』
「まがい物の分際で、よくほざいたものよ、こちらも本気をみせてやるわ」
灰色の魔女が、炎と水の柱を伸ばしてきたのを、白い魔女が銀色の風で吹き飛ばす。
風が空を満たした。
銀色の刃が跳んできたのを、灰色の魔女が、金色の盾をだして弾き飛ばす。
その時、風が震えた。
世界の決着をつける、神々の争うが如き光、それは帝国だけでなく、その周りの国々からも見えたという。
轟音とともに、帝城が破壊され、天に神が争う光が輝き満ちる。
帝国首都の民は、深夜に起こった破壊の音に怯えて、明るくなって見た帝城の惨状に絶句し、今は、さらに恐れながら空を眺めていた。
収容所の混乱など、それに比べれば小さいものだった。
「陽動を頼んだんだけど、どう見てもあっちが本命だよな、俺たちはなんだろう?」
ゲハルトがそう愚痴る。
「火事場泥棒ってとこじゃないですかね?」
ヴェルンがそう返した。
「ちがいない、まぁ、火事場泥棒でもいいから、俺たちは俺たちのできる事をしよう」
王国と帝国の争う最前線の戦場からも、その輝きは確認できた。
「帝国軍が急に撤退を始めたかと思うと、あの光だ。どうも帝都の方角のようだが、神罰でも食らったのだろうか?」そうロランが呟く。
王命に逆らった罪で、最前線で死闘をさせられていた聖騎士に訪れた、久々の休息だった。
森の館の窓から北東を眺めるウリルは、遠くの空に光る魔力の煌めきを、花火でも見るかのように眺めていた「あの子の風があんなに大きくなるなんてねえ。ナナや、あなたはあなたの思うままに、やりなさい」
白い魔女の心でまた二人は話す。
「ナナ、小細工はもういらないよ、相手の魔力の減りは僕らよりも早い」
「そうなんだ、じゃあいけるね」
「それに、僕らは今、世界の魔力と繋がっている、向こうより先に尽きる事はないよ」
「そう、じゃあ最後は思いっきりいきましょうか、トキ」
『ふたりで力をあわせて』——ふたりの声がまた調和する。
大きく手を開くと、魔力をすべて身体の前に集中する。
「ぼくたちの」
「わたしたちの」
『全力をくらえ』——ふたりの声がまた揃い、銀翠の光が灰色の魔女めがけて、大気の渦となって向かっていく。
「く、これはいかん、わらわが避けるなど、口惜しいが仕方……」——そう灰色の魔女が言って動こうとしたその鼻先に、蒼と紅の光がぶつかり、一瞬、はじまりの魔女の動きが遅れた。
「ごめんなさいね、そのままでいてくださらないと困るのよ」——サリルの清流の流れるような声がする。
「逃がさないんだからね」——レアの元気な声が響く。
銀翠の渦ははじまりの魔女を飲み込んだ。
「ば、ばかな、なんだこの力は、我の身体が、このままでは……ゆるさん、ゆるさんぞおおおおおお!!!」
光の中に、灰色の鎧が朽ちるように剥がれていく。
「我が魂は滅びん……この恨みは必ず……世界をおおおおおお!!!」
そして、光が収まると、そこには欠片一つ残っていなかった。ただ、ずっとその先の雲まで吹き飛ばした、大気にのこった線上の跡だけが、残されていた。
「終わったね、トキ」
「そうだね、ナナ」
白い魔女と、蒼と紅の魔女は、帝城の跡に降りていった。
白い鎧が光って消えると、そこには、ナナとトキが並んでいた。
「もう、離ればなれはごめんよ、トキ」
「ずっと一緒にいるよ、ナナ」
『愛してる』
二人はそのまま抱き合うと、もう一度、キスをした。
それは平和を祝い、二人のこれからを祝福するキスだった。
第九章 完
抱きしめ合う二人のまわりを、
森の匂いを含んだ風がそっと通り抜けていく。
——帰ろう。あの緑の場所へ。
そして、そこからまた二人で歩き出すために。




