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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第九章 はじまりの魔女

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第45話 偽りの婚礼

 灰色の魔女が選んだ花嫁は、操られた少年だった。

 だがナナの風が呼ぶ声が、トキの心を『二度目のキス』へ導いていく。



 ——   

 古代の儀礼用の広間、そこは静寂に包まれていた。

 魔法文明華やかな頃も、このような用途で使われたのであろうか。

 綺麗に磨かれた床に、ひとつの影が落ちていた。

 そこにいるのに、言葉や息すらしていないように見える。静寂の中にただひとり、かの魔女が佇んでいた。


 灰色の無機物のような肌は、染みひとつなく、薄い金の髪は、溢れ出る魔力に自然に揺らめいている。

 そして、紅と翠の虹彩異色症(ヘテロクロミア)の瞳は、その心の歪さをあらわしているようだった。

 十歳くらいの少女のような外見なのに、子供らしい感情は何一つ見せない。

 まるで、長く生きて老成した人間のような……そう、確かにかの魔女は生まれてからもう数千年が経っていたのである。

 

 やがて扉が開き、トキが入ってくる。

 

 シエンに手を引かれ、まさに婚礼のバージンロードを父に手を引かれて歩くような様子で、祭壇の前にいる魔女のそばへと歩いてくる。


 トキの瞳は濁った緑のままである。

 

「さて、はじめよ」——そう魔女が命じるとシエンは、婚礼を見届ける神官のように、動きはじめた。

 

「ソレデハ、オフタリノ、コンレイノギシキヲハジメマス……」

 

 かの魔女は楽しくて仕方ないというような顔で、儀式の進むのを眺めている。

 

「うっふふ、見目のよい、|男の子(おのこ)じゃ。しかもこの豊富な魔力、我の婿にふさわしいのお」

 

 トキは何も見ず、何も言わず、ただそこに立っている。


 婚礼の手順は、進んでいく。それはかの魔女にとって、ごっこ遊びのような座興にすぎなかった。

 だが、儀式そのものには、意味があるものである。

 トキとナナの絆が、儀式の進行に従って、すこしずつ細くなっていっていた。



 地下に向かって、比喩ではなく跳んで進んでいくナナは、トキの気配の風が小さくなるのを感じていた。 

「トキー」——大きな声で、トキを呼びながら、ナナは地下へ急ぐ。



 ピクリと、トキの翠の瞳が揺らいだ。

 

「どうした? 我のつがうのがそんなに嬉しいか? ふふふ」

 

「ソレデハチカイノコトバヲソロッテ、センセイクダサイ」

 

 そうシエンが言ったその瞬間、神殿の扉が風で大きな音を立てて開く。

 

 そして、ナナが飛び込んできた。

 

「トキー!!!!」——ナナの絶叫が、祭壇に木霊した。

 

 その瞬間である。トキの翠の瞳に、光が取り戻された。

「……な……な……?」——言葉をだそうとして、喉がつまる。

 抗うように、トキの身体がゆっくりと動きはじめる。

 それはナナの言葉と、シエンの投与した薬の効果とが起こした、必然だった。

 

 後ろを振り向き、ナナをその翠の瞳の中に映したトキが叫んだ。

 

「ナナー!!!」

 

 跳ねるように駆け出すトキを、魔女の手が掴もうとしたその時、かの魔女の手が横に伸びる水の柱で弾かれた。

 

「あら、恋する二人の邪魔をしちゃダメよ」

 

 蒼い光に包まれた鎧の美女が、かの魔女にそう告げる。

 

「無礼なものどもじゃな、我をはじまりの魔女と知っての所業か? このまがい物どもが……」

 

 そう怒りの言葉を無表情にはく、はじまりの魔女の髪が魔力で揺らめいた。

 

「二人の邪魔はさせない」——そういって赤の魔女も間に立ち塞がる。

 

 

「トキー」

 

 走り寄るトキに、こちらも駆け寄るナナ。

 

「ナナー」

 

 そう会いたかった人にかけよるトキ。

 

 ふたりは、ぶつかるように抱きしめ合い、言い合う。

 

「会いたかったよトキ」

 

「僕もだよナナ」

 

「私、あなたを愛しているわ、トキ」

 

「ずっと前から愛してたよ、ナナ」

 

 そして、ふたりの顔が近づいて、そしてナナにとってははじめて、トキにとっては二度目の。

 

 ふたりの意思で行われる最初のくちづけがはじまる。

 

 ふたりの唇が繋がり、ふたりの心が繋がり、そして世界とふたりが繋がった……。

 

 二人の頭の中に声がした。『聖約(リミッター)を解除します』だが二人はそんな声を聞いていない。


 ナナの愛しく思う気持ちが、トキにはわかった。トキの愛情がナナに伝わった。

 

 そして、世界中の魔力を持ち、自ら放出するすべをもたぬ、ほぼすべての命と、ナナとトキはその時繋がっていた。


 ナナとトキの身体が光り輝き、そして一つになる。

 

 光が止んだ時、そこには、ナナとトキの面影のある、白い鎧の女性が立っていた。


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