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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第九章 はじまりの魔女

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第44話 皇帝の最後

 ——トキの声が届かない。

 湿った闇で囁かれるのは、魔女の婚姻という最悪の未来。



 ——

 怒っていた、自分がおかれた理不尽な状況——その原因が自分にあるそんなことも獣と化した皇帝にはわからず……。

 ただ、ただ、世界への怨嗟で頭がいっぱいだった。

 

 目の前にいる三人の金髪の女が、あの忌々しい娘に重なる。

 

「ぐおぉ」

 

 また巨獣は怒りの咆哮をあげて一歩踏み出す。その脚元に、また亀裂が走る。

 

 更に巨獣は後ろ足に力を込めると、三人の方に向かって跳びかかってきた。

 

 後ろ足で蹴られた床が破裂したように穴があき、黒い塊が跳んでくる。

 

 サリルが蒼い魔力を集めて巨大な水を間に出現させる。


 ぐぼっとくぐもった音をたてて、怪物は水の中に包まれてしまう。

 

 勢いを失って水の中にいる怪物は、特に苦しそうなそぶりもみせない。

 

「あらあ? 窒息はしないのね、残念ね。そこまで楽じゃないか」

 

 サリルがパチンと指を鳴らすと、水が消える。

 

「じゃあ、これはどうかしら」

 

 レアが大きな炎の玉をぶつける。

 

 怪物の泥のような肌が高温に固まり灰色になる。

 

「効いた?」


 しかし、灰色の皮膚にひびが入るとその中からまた黒い泥が湧き出てくる。そのまま硬化した箇所全体が黒い泥に包まれると、何もなかったように、動きだした。

 

「ひとりずつの攻撃じゃダメね、協力しなきゃいけないわ」

 

 サリルがそう話す。


「強い、でも負けない。私はトキのところに絶対いくの」


 そう言いながらもナナは、魔獣を牽制しながら、動き回っている。

 

「ナナ、あれ試してみよう、風と炎合わせたの、下水のとこでやったでしょ?」

 

 レアがそう言ってくれた。

 

「わかった、やってみよう。サリル様、しばらく牽制をお願いします」

 

「頑張ってね、牽制は任せて」

 

 サリル様の水が、怪物の動きを嘲笑うかのように動いている。それに気をとられてこちらを見ていない。今だ——そう感じたナナとレアは、炎と風の魔力を高めて、混ぜるように放った。

 

 二人の放った「炎の竜巻」が怪物に迫る。その瞬間、サリル様の水が怪物の顔にあたり気をさらにそらす。

 怒りに前脚をあげて立ち上がった怪物の土手っ腹に、ナナとレアの炎の竜巻が激突し、汚泥を風がこそげとるようにしその下の皮膚らしきものが露出する、そこにレアの炎が飲み込まれていく。

 

 苦しそうな悲鳴を怪物があげるが、その開いた口の中には、サリルの水が入り込んでいく。


 びくびくと震える怪物は、その姿を保てなくなり泥の固まりのような姿に変貌していった。

 

「やったわ」——飛び跳ねて喜ぶ、ナナとレア。

 

 しかし、そこにサリルの流麗な声で警告がとぶ。

 

「まだよ、終わっていない」


 

 汚泥の固まりとなった怪物はその不定形のまま、ぶよぶよと動きながら、三人の魔女めがけて、這いずってくる。

 

 それは怒りの感情でもなく、無機質なただ喰らいつくすという原初の意識だけの動き。

 

 ナナの風が、黒い泥の触手を吹き飛ばし、レアの炎が、燃やし、サリルの水の奔流が押し流す。

 

 それでも、うごめく黒い泥は動きをとめず、広場全体を埋め尽くすように増殖を続ける。


 地面がどんどん埋め尽くされる中、脚を踏む地面がなくなっていく。

 

「ナナごめん、私を一緒に飛んでくれる? 私の飛び方は宙に浮けないから」

 

「まかせて」

 

 ナナはレアを軽く抱くと、一緒に宙に浮く、サリルは当然のように水のレールの上を自在に宙を動いている。

 

「これは普通に倒すのは無理そうね、できたら広い場所がいいから、このまま上がっていったら追いかけてくるかしらね?」

 

「やってみましょう。ここでやってトキに何かあったら困ります」

 

 三人は、上へ上へと逃げた。

 

 その後は、泥の塊と化した皇帝がどんどん追いかけてくる。

 

 途中にいた帝国の人間が飲み込まれていくが、三人は今それに構っている余裕はなかった。


 ついに地上に出る、かつて皇帝だったものは、自分の城と臣民を喰らいながら三人の魔女を追って肥大化していった。


 

「で、どうするんですか? サリル様」


 レアが尋ねる。

 

「まず私が、あいつを水で包んでなるだけ圧縮してから、凍らせるわ。その後レアは、最大の力を振り絞って、奴を燃やして」


「はい、わかったわ」——レアが勢いよく返事をする。


「最後にナナは、あなたができる目一杯の風で最後にそれを切り裂いて」

 

「わかりました」

 

「凍らせて止められるのは一瞬だと思うから息をあわせていくわよ。凍らせたあと、熱を加えればものは脆くなるの。そこをナナの風で切り裂く。あ、それからこれ」

 

 サリルは大きな魔玉をいくつも取り出すと、二人に手渡す。

 

「こんなに?どうしたんですか?」 

 

「あの、大量の四色の奴がいた所の箱の中にあったから、全部もらっておいたの」

 

 そう悪びれもなく言うサリル。

 

 苦笑しながらナナとレアは、それを受け取る。

 

「じゃあ、いくわよ」

「はい」

「まかせて」


 サリルの手から放たれた激流が、泥の固まりを包むように大湖の水のように広がり、そのまま縮んでいく。

 限界まで縮むと、そのまま白く凍っていった。

 

 そこに、レアの小さい太陽のような光がぶつかる。

 

 大爆発を起こそうとした瞬間、ナナの風が爆風を大気ごとかき混ぜる。

 

 レアの炎は本来、城全体を吹き飛ばすほどの熱量だった。

 けれどナナの風が爆風ごと上方へ空気の流れをコントロールしたことで、帝城の上部はほとんどなくなってしまったが、外の街へ被害が行くことは防がれた。

 

 強い光の中、魔力の防御でなんとかそこにとどまっていた三人が見たものは、廃墟とかした帝城だった。

 

「やったわ」

 

 レアがナナに抱きつく。

 

「すぐ戻ります、今度こそ、トキを取り戻す」


 そう宣言すると、ナナは真っ逆さまに下降し、また地の底へと潜っていった。

 

「すごいことになったけど、まあ、自業自得よね」

 

 そう言ってサリルも、地下へ向けまた水に乗って降りていった。


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