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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第九章 はじまりの魔女

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第42話 目覚める災厄

 ——帝国が求めた『力』は、世界が封じた災いだった。

 扉の向こう、はじまりの魔女が目を覚ます。



 ——

 遺跡の最奥部、封印の扉の前で、トキは何も言わず、どこも見ず、ただそこに佇んでいる。

 

 古代文字を解読する科学者たちが、床に資料を広げて、議論を交わしている。


 皇帝は椅子に座り、側仕えに淹れさせたお茶を飲み、その様子を眺めている。

 

 トキは何も考えていない。だけど頭の奥に、何か懐かしい声がして、それが少しずつ大きくなっていくのを感じていた。

 だが、薬で心を奪われているトキには、それを感情として形にすることができなかった。



「陛下、手順らしきものがわかりましたのでやってみますが、途中に何度も警告らしき文言が入っておりまして……その……」

 

「余は開けろと言ったのだ。それ以外のことは聞かぬ」

 

「はっ!では解錠にかかります」


 科学者の代表が手順に合わせて、トキに命令をする。

 何も考えられないトキはただ言われたままに、解錠の手順をなぞっていく。


 すべての手順が終わって、しばらく間があった。

 

「なんだ? 何も起こらないではないか?」

 

 皇帝が訝しく問いただすと、それに答えるかのように、扉が輝き出す。


 そして次に、振動が遺跡全体を震わせた。

 

 カチっという音がして、扉がゆっくりと開き始める、その瞬間に濃密な魔力が形を持ったように、隙間から湧き出てきて、まわりの人々を圧力として壁に押しつけた。

 

「な、なんだ、これは」


 それは皇帝も例外ではなく、強い魔力に押し出されるように、壁に張り付いている。

 

 大きな封印の扉がゆっくりゆっくり這うような速度で開いていく。


 完全に扉が開ききると、中からゆっくりと一人の少女が歩いてきた。十歳くらいに見える幼い少女。


 そこに現れた少女は、しかし異質だった。まず灰色の陶器めいた滑らかな肌が目を引く。長い薄金色の髪は、風のない地下にも関わらずふわりと魔力を帯びて浮かび上がっている。

 

 何よりもその目、左が魔女の紅、右が古代人の翠の虹彩異色症(ヘテロクロミア)


「ふあー」と大きな欠伸をしてみせた少女は、周りを見回す。

 

「ふむ、よく寝たぞ」

 

 トキの姿を認めた少女は、トキに近づく。

 

「この首輪を外してたもれ」

 

 意思のない人形のようなトキがその手を首輪に伸ばすと、カチリと音をたてて、首輪が落ちた。

 

 その途端、更に魔力の圧力が増し、トキ以外の人々は壁に押しつけられるようになり、顔がひしゃげていた。

 

「ああ、久しぶりの自由じゃのう」


 すべての封印が解かれ、伸びをする少女。


「でそなたたちは何者じゃ? そこの少年(おのこ)以外は、みんな奴隷じゃのう。それにそんな壁に張り付いてどうしたのじゃ?」

 

 不思議そうに、壁に張り付いている人々を睥睨する少女。

 

「ああ、魔力が強すぎるんじゃな、少し抑えてやろう」


 すると少女から漏れ出す魔力が小さくなり、壁に張り付いていた面々はやっと動けるようになる。


「余は偉大なる帝国皇帝である、そなた余に力を渡すがよい」

 

 尊大な態度を崩さず、皇帝は少女に語りかける。

 

「ふむ……、力か……面白い、どう使うかみせてみよ。支援ユニット、出て参れ」

 

 そう少女が言うと、何もなかったはずの壁が扉になり、開いた穴から、遺跡でトキが出会ったのと同型の支援用自動歩行ユニットがちょこちょこと歩いてくる。

 

「オヨビデスカ?」


「実験兵器十三号をここに出してたもれ」

 

「ショウチシマシタ」

 

 周りの科学者たちは喋る機械に感動し、皇帝はぽかんとして、その様子を見守っていた。



「オマタセシマシタ」

 

 しばらくして、そこに人造兵(ホムンクルス)によく似た匣が、浮かぶようにして運ばれてきた。

 

「そこの紋章を触るがよい」

 

 少女が皇帝にそう言う。

 

「お前、押してみろ」

 

 皇帝は側仕えにそう言った。

 

 その言葉に、少女がニヤリと笑う。

 

「我は、そなたに触れと言ったのじゃぞ」

 

 笑う少女の両眼が妖しく光る。

 

「な、なんだ身体が勝手に、お、お前、余に何をする」


 そのまま皇帝の手が意思に反して匣の紋章に触れると、匣が魔方陣とともに起動し、中から黒いドロドロとした不定形のものが飛び出てきて、皇帝の身体を飲み込んでいく。

 

「な、なんじゃ、これは、やめろ、誰か余を助けろ、余は神聖なる帝国皇帝なるぞ」

 

 しかし周りの人々は誰も、少女の魔力に気圧されて、動くこともできない。

 

「ぐああああ」

 

 骨の軋む音が封印の間の広場に響く。

 皮膚が溶け、汚泥に飲み込まれて同化していく。

 

 皇帝の悲鳴を楽しそうに眺めていた少女は、突然、眉を顰めた。

 

「うん、増殖が遅いのう? ああ、魔力が足らなすぎるんじゃな、しょうがない、ほれ、足してしんぜよう」

 

 少女が嘲弄するとまた瞳が妖しく光る。


「や、やめてくれ、脚が勝手に」

 

「た、たすけてくれ」

     

 まわりのトキ以外の人間が、歩いて黒い泥濘につぎつぎに突っ込んでいった。


 その貢ぎ物に満足したかのように黒い泥濘は震えると、だんだん獣のような形をとりだす。それはあの王国の古代遺跡のものの数倍の大きさの巨大な魔獣。


「望み通り、力をやったぞ、感謝するがよいわ」

 

 そう言って嘲弄する少女は、トキに目をとめる。

 

「ほお、そこの少年(おのこ)、とてもよい大きな魔力をしておるな、我が母よりも多そうじゃ。それにその顔、確か昔見た皇子とやらにそっくりの顔をしている。唯一我が母を人質とする事に反対したあの男。そして最後に魔女(まがいもの)どもと一緒に我を封印した……あの男に。——よし、気に入ったそなた我と(つが)え」

 

 しかし、意思のないトキには返事ができない。

 

「なんじゃ、ふむ。まあよい、支援ユニットよ、そこの少年(おのこ)に婚礼の衣装を準備せよ」

 

「ショウチシマシタ」

 

 支援ユニットは、トキの手をとって奥に封印の間とは別の奥の部屋に向かっていく、少女もそれに同行しようとしたその時だった。

 


 手前の扉から、ナナが入ってきて、トキを見つけるなり叫ぶ。

 

「トキー!」

 

 その瞬間、曇ったトキの瞳の翠が、かすかに揺れる。トキがピクリととまり、ゆっくりそちらを振り返る。

 

「何をしている、はやくいくのじゃ、おまえ、あの乱入者を排除してまいれ」

 

 少女が、そう皇帝だったものに命ずると、「ヴォー」と声にならない声をあげて、怪物がナナの方を睨んだ。

 

 ナナはトキのところへ駆けよろうとしたが、怪物が立ち塞がる。

 

「トキー!!!!」

 

 ナナの叫ぶ声を後ろに、少女に連れられてトキは部屋を出て行く。扉がしまり、そして、怪物がナナを睨みつけた。


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