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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第九章 はじまりの魔女

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第39話 囚われのトキ

 ——愛しい気配だけが、闇の帝都へ導いていく。

 奪われた少年を取り戻すため、魔女は禁じられた怒りに触れる。



 ——

 地図にない道を二人はそのまま奥へと進んでいた。

 

 そこに風は吹かない、まるで誰かが風を拒んでいるようだと、ナナは思う。


 だがトキがその向こうにいる。


 その事だけが、何故かナナには確かなこととして感じられていた。

 

 心が繋がっている——それがこの愛しい思いゆえの事なのかと自問自答しながら、ナナは帝都の地下を奥へ奥へと進んでいた。

 

 どれほど進んだだろうか、ついに道が途切れる場所にたどり着いた。


 水が墜ちてくる、水路の起点となる所まできた。


 奥の壁は研いたような金属とも石ともつかない、古代の技術でできていて、さすがの魔女にも簡単に破れそうになかった。

 

「あそこしかなさそうねぇ……」

 

 レアは少し嫌そうに、汚れた水が流れてきているらしき排水口を見る。

 

「あたしがやろうか?」

 

「いや、私の熱で一気に蒸発させた方が早い。ナナはそのあと、一気に中を吹き飛ばしながら私ごと上に運んで」

 

「わかった。いこう」

 

 レアの手から出た灼熱の炎が排水口に吸い込まれていき、水を蒸発させながら逆流させる。

 

 そこへナナは二人の身体を風で包んで、いっきに飛び上がった。

 

 水蒸気爆発に近い、猛烈な音をたてて、帝城の排水の溜まる池が渦巻きそこから二人が飛び出してくる。

 

 遠くで、騒ぎに動き出す人間達の気配を風に感じながら、ナナとレアは、城内の床を踏みしめた。

 

 ここは澱んだ風で満ちている——そうナナは感じた。

 

「道案内は任せたわ、全部まとめて吹き飛ばしてまっすぐ進むわよ」

 

 レアがナナに向かって前を指差しながら言う。

 

「よし、いこう」

 

 ナナはそれに元気に答える。

 

 

 そして二人は帝城の中心めがけて走りはじめた。

 

 

「そこの二人、何をしてる、とまれー!」

 

 二人を見つけた警備の城兵の誰何する声があがる。

 

 しかし止まらない二人に、そのまま放たれる銃弾の雨。

 

 その音が、また別の城兵を呼び、集団を組み、そしてむかってくる兵士たち。

 

 しかしどれも二人止める事どころか、ナナの風の防壁に、近づくことすらままならない。


 さらにそこに、レアが適当にばらまいた炎の壁が兵士を怯ませる。


「ま、魔女だ!」

 

「魔女の怒りだ!」

 

 迷信深い兵士の声を、指揮官らしき男が叱咤する。

 

「ええい、魔女がなんだ、なんとしても止めろ」

 

 しかし、そんな言葉もむなしく、兵士達は、二人のそばに近づくことすらできなかった。


 その間に、二人は、どんどんと中心へと進んでいった。

 

『トキ、トキ』心の中でナナはトキに呼びかける。繋がっている感覚はあるのに、何故だか言葉が届かない。そんなもどかしさを、ナナは怒りにかえて、更に進んで行く。

 

 そして、もともと暴れるのが嫌いではないレアも一緒なのだ。

 

 この日の帝城の警備の兵達にとっては、まさに二人は生ける災厄であったろう。


「な、なんということだ、魔女とはこれほどのものか、急ぎ陛下にお知らせせねば」


 指揮官らしき騎士が、その場を後にし、帝城の地下へ走り去った。



 その頃、帝城の地下の遺跡では、トキが祭壇のような場所に座らされている。

 

 目の翠玉は曇り、濁った緑の色を見せている。

 

 周りを科学者のような何人もの人間が動いているが、トキの目にはその姿は映ってはおらず、何の反応も示さない。

 

「これで、覚醒した人造兵(ホムンクルス)は四十三体となります」


「素晴らしい、『鍵』が手に入った今、すべての遺跡の封印が解けるのも時間の問題だな」

 

 飾り立てられてた豪奢な椅子に座った男が、そう言う。


 そこに息を切らせた一人の騎士がやってきて、側仕えらしき男に何かを耳打ちする。

  

 側仕えは、椅子に近づいてうやうやしく跪く。そして小さな声で伝える。


「陛下、上で騒ぎが起こっております」

 

「何事だ?」

 

「魔女が突然城内に現れたそうで、おそらくその『鍵』の連れではないかと思われます」

 

「近衛を人造兵(ホムンクルス)と融合させよ、鎧兵(ギガント)の、帝国の力を見せつけてやれ!」

 

「は、承知いたしました」

 

「他のものはその『鍵』をつれて余と共に、最深部へ向かうぞ、巨大なあの扉の封印をいよいよ解いてやろうぞ」

 

 そう言って立ち上がる皇帝。

 

 そこに一人の老成した科学者が近寄って諫言する。


「陛下、あの扉には、古代語で災厄との文字が刻まれております。どうか慎重なご判断を」

 

 そう言ってきた男を、皇帝は右手を大きくあげると、拳の裏でその頬を打ち、吹き飛ばした。


「それだけの力が眠っているということだ、余の命をそなた等は聞いていればいいのだ」

 

 トキと他の科学者を連れて、皇帝は最深部へ向かっていった。


 皇帝に諫言した科学者は兵に捕まえられどこかに連れられていった。

 

 その扉の中に封印されているものの正体を、皇帝たちは知ってはいない。

 

 ただ力を欲して、そこに素晴らしいものがあると信じて、道化達は禁断の扉をあけるべく、災厄の眠る地へと、遺跡を進んでいった。



 遺跡上部の研究施設、そこにずらりと並んだ人造兵(ホムンクルス)の紋章を、鍛えられた皇帝の近衛騎士たちが、触れていく。


 匣が眠りから醒め、次々と近衛騎士達が、人造兵(ホムンクルス)と融合していく。

 

 金の巨人、青い巨人、赤い巨人、緑の巨人、それぞれの騎士のもつ魔力の性質により四色の鎧兵(ギガント)たちが立ち上がり、吠える。

 

「遺跡上部ノ広場デ迎エ撃ツ、イクゾ」

 

 そう騎士の長が全員に命令をくだし、四色の巨人達は並んで動き出した。

 

 それは帝国の力の象徴であった。


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