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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第八章 風と炎の誓い、帝都へ

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第36話 黒い風の辺境で

 ——帝国に近づくほど、風は黒く濁った。

 それでも二人の旅路だけは温かい。

 世界が敵でも、友だけは隣にいた。


 ——

 森を出て少し進むと、帝国の領域と辺境の狭間となる地域に入る。

 

 例の大佐のいた基地もこの地域にある。

 

 ナナとレアは、大きな帝国軍の魔力の反応を避けながら、ナナの感覚を信じて進んでいく。


 風に黒い歪んだ暴力の香りが混ざる。

 

 これが帝国の空気なのかと暗澹たる想いをいだきながら、ナナは鞍上でそれを感じていた。


「いやな炎の気配ばかり感じるわ。普段は煮炊きとか職人の火などを感じるものだけど、火薬の炎の気配がどんどん増える」

 

「風も同じよ、どんどん黒くて重い風ばかり吹いてるみたい」


 二人は顔を見合わせて、ため息をつく。


 不安が形をとったような、そんな空気の中、旅を続けていた。



「レア、この先に黒い風の集団がいる。おそらく帝国の兵士が集まっているわ。少し方向を変えて、避けましょう」


「また? どんどん増えてくるわね。まだ辺境でこれ、帝国の国内に入ったらどうなるのかしらね」


 林に隠れたり、丘をつかってやり過ごしたり、そんな風に帝国の兵士が巡回する辺境地域を進んでいった。



 夜、野営をする。

 料理の素材の準備はナナがして、煮たり焼いたりの火加減はレアが担当する。

 

 レアの火のコントロールは完璧で煮こぼしたり、焦がしたりする事はない。

 でも味付けは苦手らしく、一人旅では塩を振って食べるとかばかりだったらしい。

 

 きちんとスープを取ったり、ソースをつくったりするナナの料理を、レアは絶賛して食べてくれる。

 

 トキに褒められたのとは違う喜びがナナの心をほっこりさせてくれる。

 レアもナナのつくる料理に大満足で、二人は少しずつ仲良くなっていっていた。



 翌日、二人は荷物をまとめて、また移動を開始する。


「あれ!」

 

 急にナナが空を指さす。


 そこには、小型の空船がこちらの方に向けて進んでくるのが見えた。

 

 帝国の黒い太陽を六芒星が囲んだ紋章を刻んだ旗が、船上にはためき、不吉をつげていた。

 

「上からじゃ丸見えね、少しその横の木の陰に入ってやり過ごしましょう」

 

 そういうレアの言葉にしたがい、横にあった巨木の陰に駆鳥(かけどり)を繋いで、二人はそのそばに腰掛けた。


「レア、ついてきてくれて、ありがとう」

 

「なによ、急に、いいのよ私も修行しないとだし。それに礼はトキを取り返してからしなさいよ」

 

「ふふ、そうね、でも言いたかったのよ」

 

「ふーん、そっか」

 

 旅の中で、同年代の魔女二人は、真に友達と呼べる関係を育んでいっていた。

 

「空船、行ったわね、そろそろ行きましょうか」

 

 そうナナが促して、二人はまた道程をすすめる。


 

 夜が来て、また野営をする二人。

 

 食事を終えて焚き火を囲みながら、とりとめもない話をしていた中、おもむろにレアがナナに質問をしてきた。 


「ねぇ、ナナ」

 

「なあに? レア」


「好きってどんな気持ちなの?」

 

「ええ? き、急に何よ」


「男の子を好きになるなんて考えたことなかったからさ、まわりの魔女にもいなかったし、好きなんでしょ? トキのこと」

 

「ええ、好きよ」

 

「だからその『好き』を教えてほしいのよ」

 

「なんだろう、彼といると、心がぽかぽかするの、触れていると鼓動が早くなったりするの、でもそれが心地よくて幸せなの」

 

「ふーん、聞いてもやっぱり、よくわからないわね」 


「私だってよくわかってるわけじゃないもの、ただ気付いたらそうなってただけだもの」

 

 それを聞いて、お茶を淹れてナナと自分のカップに注ぐレア、そしてこんなことを口走る。

 

「ふーん、で、キスってやつはしたの?」

 

「ぶぉっ!」——思わずお茶を吹き出してしまうナナ。

 

「な、なにを急に言い出すのよ」

 

 抗議するように顔を紅くしながらそう話す。

 

「だって、物語には必ず出てくるじゃない?」

 

「そ、そうね、出てくるわね……」

 

「で、したの?」

 

 真顔で聞いてくるレア。

 

「ま、まだよ……どうやってやればいいのかわからないし……」

 

 顔を真っ赤にしながら答えるナナ。

 あの空の上での出来事は気絶していたナナの記憶には残っていない。

 

「ふーん、したら、どうだったのか教えてね?」

 

「う、うん、そうね……キス……かぁ……」

 

 そんな風に考え込むナナであった。 

 

 そして、その夜。大きないびきを書いて寝るレアの横。キスのことを考え込むナナはなかなか寝付けなかった。それは決して隣から聞こえてくる音がうるさいということだけではなかった。

 

 夏の近づいてきた、夜の風は、ナナの顔をあたたくなでていた。

 


 一夜あけて、いよいよ、辺境か帝国の領土か曖昧な地域を抜けて、明確に帝国の領土といわれる地へと、二人は足を踏み入れようとしていた。


 国境を越える頃、風が音を失うのを、ナナは感じた。

 

「どんどん、風に混じる鉄の匂いが増える、いやな空気。帝国の人はよくこんなところで暮らせるわね」

 

「火薬に、武器を鍛える炎、そんな火の感触ばかり増えてくるわね、たしかに気が滅入るわ」

 

 軍事国家の空気を二人はそんな風にそれぞれ感じていた。


 空気の緊張とともに、国境を越えてきたせいか、警戒する帝国の兵隊に近づくことは少しずつ減ってきていた。


 そんな最中の夜。


 また焚き火を囲んで食事をしているナナたち。

 

 夜の風がふわりと揺れたのを感じたナナは、口を開く。

 

「誰か、来るわ」

 

 思わず身構え、手にいつでも魔力を満たす準備をするレアに、ナナは言った。


「知っている風……、これは、いつどこで感じた風だったろうか……」


 そう考え込むナナ。


 いつの間にか風が止まっていた。


 二人の背中を、じとっとした汗が濡らしていった。


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