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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第七章 風の届かぬ場所で、影は動き出す

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第31話 探すもの

 ——誰かの足音が、確実に近づいていた。

 風は教えてくれない。

 ただ『違和』だけが、二人の背に張りついていた。



 ——

 湖を後にして二人は、ゆっくり旅をしながら、この先について相談をしている。


 二人でいる事、ナナが魔女として一人前になる事、そんな抽象的な目的しかない旅である。

 特に目的地となるものもないので、ひとまず一度森に戻って、ウリル様の様子をみようという結論に落ち着いた。

 

 そして二人がとある村に立ち寄った時の事。

 

 村唯一の宿屋に入って、階下の食堂で夕飯を食べていた二人に、宿の子供が話しかけてきた。

 

「二人はずっと旅してるの?」

 

「そうだよ」

 

「いいなぁ、僕も大きくなったらいろんなところ旅したいな」

 

「ちゃんと一人前になったらだね」

 

 そうトキが少年に言葉をかける。

 間もなくトキも十三歳になり、この世界では成人と認められる歳になる。


「そういえば、先日変な旅人が来て、年上の女と男の子の二人連れを探していたねぇ、ちょうどあんたたちみたいな二人がいなかったかって」

 

 そう皿を片付けに来た主人が、二人に話しかける。

 

「変なですか?」

 

 ナナが主人の方を向いて、眉を顰めた。

 

「ああ、二人連れで、商売ものを運ぶでもないし、泊まるわけでもないのに、話だけ聞いてきて、知らんなあと言って追い払ったがね」

 

 主人は心配そうな顔で、更に付け足した。

 

「なんか訳ありなら、気をつけな。どうみても堅気の衆じゃなかった」


「ご忠告ありがとうございます。」 


 ナナはそう言って、トキを連れて部屋に戻った。

 

「国境を越えてから、追いかけてきていた王国の兵の気配のする風は、もう吹いてきてないね」


「じゃあ、もしかしてまた帝国でしょうか?」

 

「そうかもしれないわね、前に辺境にいて大佐が私たちを探していた時に似てる気がするわ」


「少し大変だけど、なるだけ人里は避けて動いた方がいいかもしれませんね」

 

「そうね、しばらくそうしながら、森を目指しましょう」


 —— 幕間 ——


 少し時間は遡って、さらに王国の国境間際にある、帝国軍情報部の拠点に場所を移す。


 その日、王国と辺境辺りの情報収集の責任者である、情報士官、部下には大尉とだけ呼ばせている男は、中央からの最新情報に目を通していた。

 

「ふむ、魔女による空船撃墜、通称大佐事件がやっと本部に把握されたようだな。本人が死んでうやむやになっていたが、その時に、鍵らしき少年を一度大佐が確保していたか……」

 

 こんな重要な情報が今まで届いてこなかったとは、大佐の実家の貴族による面子の為の情報攪乱がかなり有効だったという事か……そう大尉は考えながら、何気なく、神経質そうに書類の端を指ではじいていた。


 そして記憶力に優れた彼は、以前に国境の街で、感知石に反応があった時、少女と少年の旅人が確認されている事を思い出した。その旅人たちには兄妹の連れがいたことを。


 それからその後王国の遺跡でおこった事件。

 

 彼は部下へ暗号で指令の手紙をだす。

 

 一、十代後半の女と十代前半の少年の組み合わせの旅人を捜せ

 

 一、国境の街で王国に入国した兄妹の行方を捜せ

 

 一、王国の遺跡で起こった事件を更に詳しく調べろ、またその後に王国の中隊規模の兵士が、国境へ向かって走った事件の裏をとれ


 三つの指令を書いた暗号文書を部下に渡し終えると、大尉は深々と椅子に腰掛け、煙管に火をつけた。

 

「鍵を探さねばな。この王国との膠着状態が続くのは流石にまずかろう」

 

 その後、煙をくゆらしながら、遠くを見つめて、急に強い口調で言った。

 

「この硬直した戦況を開ける鍵が、きっとある。逃がすわけにはいかない」


 ——


 忠告をもらって村を後にしたトキとナナは、

 念のため街道も外れ、自然の中、旅をつづけていた。

 

 人里を離れた荒れ地には、動物以外の危険はなく、それもナナの前では、危険とは言えなかった。


 そもそも、大きな獣が近づいてくれば、ナナは風でそれを感じてあらかじめ避けるなりといった対処もできるようになっていた。

 

「風を読むのも随分慣れたわね」

 

「前から出来てなかったですか?」

 

 そう不思議そうにトキが尋ねる。

 

「わかることの種類も増えたし、それから遠くのことがわかるようにもなってきたわね」

 

「それが、一人前の魔女に近づいているということなんでしょうか?」

 

「きっとそうだといいけどね。はやく私も結界をつくれるようになれば、その中でトキと居られるのにな」

 

「ナナさんならきっとなれます。それまでは、旅でもなんでもして、僕はナナさんと一緒にいますからね」

 

「私も、トキともう離れるのは嫌よ」

 

 そう言って見つめ合う二人。

 

「好きよ、トキ」


「僕もナナさんが好きです」

 

 認め合った二人の心の絆——それは比喩ではなく、魔法的な実在するもの、それが少しずつ太く強くなっていっていた。

 だがまだ二人はその事には気づいていなかった。



 その後も荒野を進んでいた二人は、やっと森の近くにたどり着く。

 

 その時に、遠くからの風はナナに懐かしい森の香りを運んできていた。

 

 また、近くからの風が、懐かしい人の香りを感じた。トキと森を出てはじめて泊まった宿の、リサンナのスープの香りを感じた。

 

「ねぇ、トキ、近くまできたし、リサンナさんに会いに行ってみない?」

 

「いいですね、またあの料理食べたいですね。」


 懐かしさのあまり、二人は街に向かって、方向を変えた。

 

 この時、ナナは懐かしい風以外の不穏な流れを感じられなかったことで、安心してしまっていた。


 この判断の甘さを、ナナは後日突き付けられる事になるが、今はまだそんな事を知る由もない。

 

 風に乗ってくる、懐かしい宿の香りを感じながら、二人はあの街に近づいていった。 


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