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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第六章 風の狭間で目覚めるもの

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第28話 風と剣と無垢な言葉

 ——守りたかったのは、人か、真実か。

 無垢な声が告げた『光』は、二人の運命を大きく変えてしまう。



 ——

 その騎士は、白い騎士の鎧を纏っていた。

 胸には王国の紋章——白銀の鹿で飾られていた。

 

「私は、王国の聖騎士ロラン、この研究隊の護衛だ。所用で席を外していたが怪物が出たとの報せを受け、急ぎ戻ったところだ」

 

 ロランは、トキと、保護された少年を見て頭を下げる。

 

「この子を守ってくれてありがとう。そちらの女性は、魔女殿だな。隊を代表して礼を言わせてもらう」

 

「たまたま、襲われているその子を見て助けてしまっただけです」

 

 ナナは、警戒しつつそう答えた。

 

「あ、パパだ。おにいちゃん、おねえちゃんありがとう」

 

 少年が、父親らしき研究者をみつけて駆け寄っていった。

 

 その時、森の奥に、黒い光が、広がっていくのが見えた。遅れて、衝撃と振動が伝わっている。

 

「まだ、森で暴れているわね。なんとかしないと。行こう」

 

 ナナはそう言うと、騎士には目もくれず、トキの手を取り森に向かって歩き始める。

 

「ま、待ってくれ、私も行こう。これでも聖剣を預かる身、それに我が国にあのような怪物がいるのをほっておけない」

 

 そう言ってロランもついてくる。 


 聖騎士とは言っても所詮は力の象徴、ナナは、外の世界の武力にどうしても帝国と同じものを感じて、つい冷淡になる。

 

「ついてくるなら好きにすればいいわ」

 

 そう言って歩いて行く二人を、ロランは黙って追いかけていった。



「風に黒い匂いが混ざってる、こっちよ」

 

 そう言って迷いなく歩いて行くナナ。

 

 横に追いついたロランは、自らが佩いている剣を抜いて、警戒しながら横を歩く。

 

 ロランが聖剣と言った剣は、その名に反し美しくもないただ無骨な鋼の塊といった容貌をしていた。かざりのない鉄の板、明らかに刃があるように見えない。

 

「あの、それ、本当に剣なんですか?」

 

 トキが好奇心に耐えかねて尋ねる。

 

「そうだよ、このままじゃただの鉄の板だけどね、こうやって……」

 

 ロランが精神を集中して、剣を握ると、その柄にうっすらと金色の魔力が光り、そして刀身が根元から先にかけて、金色の光で満たされていく。

 

 ナナには風を視るのと同じように、その動きがはっきり見えた。

 その魔力は帝国が振るう力と違い、護るという意思の感じられる光だった。

 

「なるほど、土の魔力ね。それもどこかの遺跡から掘り出したのかしら?」


「さあ、我が家に代々伝わる家宝で、神から授けられた――と、されているよ。おそらく実際は魔女殿の言われたとおりだろうがね」

 

 神聖性も何もなく、ただ事実を語ってるだけというように、あまりにも普通にロランは答える。

 

「闘えはするわね。それならあの獣も切れるはず。当たればの話だけど」

 

「あてられるよう努力はするよ」

 

「頼りにしてるわ」

 

 そう言ってナナはくすりと笑った。

 

「ところでそこの少年は魔女殿の連れかな、一緒にいて大丈夫なのかい?」

 

 そう心配そうにロランが言う。

 

 悪い人じゃなさそうね、ナナはそう思いながら答えた。

 

「大丈夫、私がちゃんと守るから……(それに)」

 

 その後は口には出さない。

 

 しかし、ナナには解っていた。今こうしている間にも、トキの魔力がすこしづつ自分を満たしてくれている事を。

 結界をもたないナナが、鎧を維持して魔女の姿をとり続けていても、何の疲れも感じないのは、トキと心が繋がっているからだということを……。

 

「どこに行くにも一緒よ」

 

 そう言ってトキを見つめる。

 

「はい、一緒にいきましょう」

 

 トキも笑ってそう答えた。

 

 あたたかな風が二人をなでていた。たとえそれが嵐の前だとしても、二人はそれが心地よかった。


「おやおや、仲がよいのは良いことだな。だけど、そろそろみたいだよ。ここからは、闘う時間だ」

 

 そうロランが言うと、前方から黒い魔力が迸るのが見えた。



「まず、こっちから、いくわ」

 

 ナナは風の刃を両手に纏うと、怪物に向かって放つ。

 

 まさに疾風の速さで飛ぶ刃は怪物に襲いかかり、綺麗な切り口でその表皮を切り裂いた。

 

 だが、それだけだった。

 

 あまりにも鋭利な断面は組織が再癒着しやすく、怪物の魔力を帯びた皮膚はあっという間に、つながって、傷はただの薄い線となった。


「次は私の番かな……行くぞ」

 

 ロランは剣に魔力を込める。

 

 金色の光が刀身から放たれ、あきらかに怪物が怯みを見せた。

 

 この光が確実に自分に害をなせる、そう気付いたかのように。

 

 ロランが走り込み、剣を振りかぶる。

 

 飛び込みからの上段切り――しかしその剣は空を切る。

 

 巨体に似合わぬ素早さの怪物の動きに、ロランはついていけない。

 

「くそ、あたらん」

 

 ロランの攻撃を避けた怪物は、トキをみつけて、ニヤリと笑うと、トキに向けて飛びかかる。

 

「く、風よ! 守って!」


 ナナの手から伸びた翠の光がトキの前に風の壁をつくる。

 

『ソンナモノ、効カヌ』

 

 ナナとトキだけに聞こえる魔獣の声。

 

 しかしとびつこうとした魔獣はまた、自らむりやり避けるようにトキから外れた場所の宙に噛みつく。

 

 『グウ、何故ダ、何故近付ケナイ』

 

「……やっぱり、古代の悪意は僕に近づけないんだ」

 

 そう誰にも聞こえないくらい小さくトキが呟いた。


 ナナはほっと安堵する。——古代の戒めは今も魔獣の攻撃を縛り、トキを守ってくれているのね。

 

 でも、このままトキが特別なことをこの聖騎士にも知られたくない。何とかしなければと考えたナナは、自分の攻撃は受けた怪物があの聖剣からは逃げた事を思い出す。

 

 ナナはロランのそばにいくと、小さな声で尋ねる。

 

「ねぇ、あいつを少しだけ動けなくしたら、その聖剣当ててくれる?」

 

「一呼吸だけ、止めてくれれば充分だ」

 

「わかった任せて、しくじらないでよ」

 

「次に斬りかかって剣を振りかぶった時に頼む」

 

「振りかぶった時ね」

 

 そう言うと、二人は離れる。


 ロランがまた怪物に向かって距離を詰める。

 重そうな鎧をつけているのにその身のこなしは軽い、確かに腕前は凄いのだと、ナナにそう感じさせる動きだ。

 

 向かってくるロランを見て、怪物は避けようと、脚に力をいれる。

 

 その瞬間だった。

 

「風よ、巻き付け!」

 

 翠の光が怪物に向かうと、小さな竜巻となって怪物の動きをほんの少しの時間、縛りつける。

 

 身体に力を込めてその風の戒めを破ったその瞬間、ロランの剣が、怪物の眉間を力強く切り裂いた。

 

 あたりに響き渡るような断末魔の吠え声をあげると、怪物は黒い光に包まれると霧のようになると、風の中に消えていった。

 

 あとには、そこに何かあったような痕跡はなく。

 

 風がただ吹いているだけだった。 



 夕闇がテントの群れを包み、焚き火の炎が、鍋をあたためている。

 

 包帯を巻かれた怪我人で重症者は、すでに搬送され、残った軽傷者や幸い逃げることのできたものたちによる後片づけも一段落し、夕餉の煙があがっていた。

 

 せめて夕飯ぐらいと誘うロランの声を無碍にもできず、ナナとトキは、焚き火のそばで、夕食をご馳走になっていた。

 

 ロランと3人でいるところに、助けた子供がやってきて、にっこりと笑いかけてくる。

 

 ナナとトキも笑顔で、「無事でよかった」と喜んでいる。


 その時、その男の子がなにげなく話した言葉……。

 

「ぴかーってひかったら、おにいちゃんとおねえちゃんがあそこにいたの、すごい」

 

 ナナとトキの表情が固まる。

 

「くろいのも、ぴかーってしたら、でてきたね?」

 

 考え込むが答えが出なかったのか、少年はそのまま何事もなかったようで。

 

「たすけて、くれてありがとう」

 

 そう言って二人の元を去る。

 

 しかしその少年の言葉を聞いたロランの目は、驚きに見開かれた。

 

 またその場にいた他の研究者たちは、二人を訝しげに眺めていた。

  

 風が変わった。王国に吹く風も、二人を冷たくつつむようになっていた。

 

 テントの上ではためく王国の旗の鹿の目が二人を見下ろしているようだった。


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