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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第六章 風の狭間で目覚めるもの

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第26話 遺されし古代の息

 ——呼吸を忘れるほどの静寂。

 風のない世界は、愛すらも隔てる。

 ナナはひとり、絶望の廊下を歩き始めた。



 ——

「あ……あれ? ここは?」

 

 ナナが目を覚ますと、淡い不思議な灯りに照らされた部屋にいた。


「魔力の灯り?」


 はっと気付いて周りを見回し、トキがいないことに気づき、ナナは愕然とする。


 扉がひとつだけある小部屋、だがノブも取っ手もない。磨き上げた鏡のような凹凸のない扉。

 

「トキ? トキ!」

 

 大きく声をあげてみるが、何も返ってくる声はなかった。

 

「どう見ても、古代の遺跡の中……よね。いや、そんなことより、トキを探さなきゃ」

 

 そう呟くと、ナナは扉の前に歩いて行き、扉を押してみるが、びくともしない。

 

 中央あたりに紋様のようなものを見つけて、そこに触れてみる。


 すっと魔力がその紋様から発せられてナナの魔力と絡み合う。

 

 するとスッと音もなく扉が左右にスライドして開いた。

 

 あっけに取られながらも、ナナはトキを探して廊下に出た。

 

 すると、今度はまた扉が閉まる。

 

 おや、と思い同じように外側にある紋様に手を当ててみる。先ほどと同じように魔力が絡み合い、ピーという乾いた音とともに、魔力の流れが止まった。

 

 扉はそのまま動きもしない。

 

「戻る事はできないのね」

 

 まるでこの遺跡そのものが、自分を受け入れてくれてはいない気がした。

 

 ナナは独り、そうつぶやいて、周りを見渡した。


 ここには風がない。


 完全に隔絶されている、そう感じた。

 

 気持ちを集中して魔力を放ってみる。

 だけど、どこにもトキの魔力を感じられない。

 空船で攫われた時にすら、どこかに感じられていたトキの風を感じない。


「トキ、どこ?」


 ナナは力一杯叫んでみた。

 

 だが、静まりかえった廊下に声がただ吸い込まれるように消えていくだけだった。



 仕方なく道なりに廊下を歩き始めた。


 通路は部屋と同じように、青白い魔力の灯りで照らされているが、向こうの方は暗いままだった。

 だが、ナナが近づくと、ぼおっと蒼白い光が点灯した。

 

 何気なく後ろをみると、最初の部屋辺りの通路が闇に沈んでるのが見えた。


「人が近づくと明るくなるのかしら……」


 そんな事を呟きながら、通路を進む。

  

 いくつか扉らしきものを見つけ同じように手をあててみるが、一瞬同じように魔力が絡み合ったあと、ピーという音がするだけで、やはり扉が開くことはなかった。

 

 ゆるいカーブを描きながら通路は続いている。もうどのくらい進んだのか、代わり映えのしない景色に感覚が麻痺していくようだった。



「痛た……」


 頭痛に顔を顰めながら、トキが目を覚ます。

 

「あれ? ここは?」

 

 周りの様子に驚き、ついで、先ほどまであった温もりがそばにないことに気付く。

 

「ナナさん?」


 蒼白い部屋の灯り、そこに奇妙なものがいた。身長1mくらいで、顔がなく腕と足だけが円筒に生えているようなもの。

 

 それが急に動き出し、近づいてくる。

 

 身構えるトキの前で、その何かは止まると、奇妙な声で話しかけてきた。

 

「アルジサマハ、テンソウヨイノショウジョウガアリマシタノデ、チリョウシマシタ。オカゲンハイカガデスカ?」

 

「身体は今は何ともないよ」

 

「ソレハナニヨリ。アルジサマ、ホカニゴヨウハ、アリマスカ?」

 

 人が発する声と違う不可思議な声に驚きながらトキは、返事をする。

 

「え、ええと、私と一緒にいた女の人を知っていますか?」

 

「アルジサマトイッショニテンイシテキタ、ジッケンセイメイタイハ、タイキジョニオイテキマシタ」

 

「じっけ? まあいい、そこに案内してもらえる? その人はナナといって、僕の大切な人なんだ」

 

「ハイ、リカイシマシタ、ナナサマ、アルジノキャクジンノトコロへアンナイシマス。コチラヘ」

 

 そう言って、ひょこひょこ歩いて行くその何かを追いかけてトキは進んでいった。

 

 扉の続く廊下、トキが扉の側を通ると、扉に書いてある紋様がトキに反応するかのように光り、すーっと音もなく扉が開く。

 

 驚いたトキが、中を覗き込む。

 

「コチラニヨウジデスカ? アンナイヲチュウシシマスカ?」

 

 と、何かが尋ねてくる。

 

「いや、ナナのところに行くよ、ん、えーと君のことは何て呼べばいい?」

 

「ワタシハ、シエンヨウジドウホコウユニットデス」

 

「しえん……ゆにっと? ややこしいな。じゃあシエンって呼ぶよ」

 

「ハイ、シエン、トウロクシマシタ。イゴハ、『シエン』トヨバレタラヘンジヲシマス」

 

 扉の前を通る度に開く扉に、最初は驚いていたが、そのうち気にせず歩いて行くようになった。



 ナナは、突然開けた空間に入る。

 

 丸い大きな空間の中央には、黒い円柱状の何かがある。

 その周りには不思議な紋様が淡く光っていた。


 その時、どこか上の方角で、重く鈍い破壊音と何かが吹き飛び崩れるような音がした。

 

「なに?」

 

 ナナは上を見てみるが、天井からは青白い光が、変わらず照らしてくるだけだった。



 そうしていると、部屋の反対側の扉が開くのが目に入った。

 

 何かしら、と目を凝らすと、そちらからトキが入ってくるのが見えた。

 

「トキ!」

 

「ナナ!」

 

 二人は一直線に走り寄る。そして、トキが部屋の中央の魔法陣に足を踏み入れた瞬間、突然魔法陣が光る。

 

 光は円状に広がり、部屋中に、また中央へ集まるように黒い円筒に集まって行った。

 

 驚きながらも、二人は抱き合って再会を喜ぶ。

 

「良かった、また会えた」

 

 安堵するトキ。

 

「トキの魔力が感じられなくて、心細かったの」

 

 泣きそうな顔を見せるナナ。

 

「大丈夫、ここに居ますよ、ナナさん」

 

 とその時、二人の声に被さるように、人ではない声が響く。

 

「ロック解除、実験生命兵器ヲ起動シマス」

 

 震えるように中央の円筒が鳴動し、黒い部分が薄くなり中の様子が見えてくる。

 

 そこには獅子とも熊とも蜥蜴とも言えるような名状しがたい黒い何かが円筒の中で液体に浮かんでいた。

 

 そこにある黒い何かの、目が開き、二人の方を確かに睨んだ。

 

 その瞬間、遺跡全体から『異物を排除せよ』という鋭い意志が押し寄せてきた。


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