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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第六章 風の狭間で目覚めるもの

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第25話 消える二人

 ——『大丈夫』と信じた手を握ったまま、世界が消えた。

 風も音も奪われ、二人はただ、落ちていく。



 ——

 騎乗して、北へ向かう二人。

 

 風の匂いが辺境とは違い、野生の生き物の魔力が薄れ、人の魔力が多く感じられた。

 

「何だか、足元の感覚が……」

 

 と眉を顰めるトキ。

 

「どうかした?」

 

 そうナナが尋ねる。

 

「なんか足元に変な感覚を感じたんですが……気のせいですよね、きっと」

 

「ええ?大丈夫?」

 

 そう言ってナナは手綱を操ってそばに寄せると、トキの頭に手をあてる。


「熱はないみたいね」

 

「大丈夫ですよ」

 

 トキはそっと頭にあてられた手に自分の手を重ねると、愛おしそうにそっと撫でて、呟く。


「こんなことしてもらえるなら、熱出すのもいいかも」

 

「こら、馬鹿なこといって」

 

 そうして、目を合わせた二人は、微笑み笑い合った。

 

 そんな小さな一つ一つが昨日までと違って、ナナには特別なことだった。師の言葉に反しても、ナナはこの子と生きることを選んだ。

 

 その想いが、ナナのトキへの気持ちを特別なものにしていたのだった。



 街道沿いの小さな集落に、旅の疲れを癒やす為の、足湯があった。


 小銭を管理人に渡して、脚を休めることにした。


「しかし、この辺、火山も見当たらないけど、足湯なんてどうやってるのかしら?」

 

「ああ、昔からこの辺には、いくつかお湯が出る井戸があるんだよ」


 そう管理人が教えてくれた。


「不思議ねえ」

 

 そう言いながら靴を脱いで椅子にすわって湯に足をいれる。

 

「不思議でもなんでも、気持ちいいなら、それでいいです」

 

 そう、足湯でいい心地になっているトキが言う。

 

「ほんと、あったかくて疲れがとれるね……」

 

 おだやかな風が二人の間を流れていた。

 

「修行が終わって、リアナの故郷に戻ったら、今度こそちゃんと料理を習いたいな。こんどこそ、リアナに僕のつくった料理食べてほしい」

 

「ふふ、帰ったら、きっとね」

 

 安心して帰れる日、そんな日があるのだろうか? しかも師の教えと逆の道を行こうとしている自分が……。


 この不安感は、お師匠さまの言葉に反したから? それともやっぱりこの変な風のせいかしら?


 しばらく考え込んだが、答えのでない問いを考え続けても仕方ないとやっと気付いて、足湯を楽しむことに決めた。

  

 しばらく温まっていると、ふと呟く。


「このお湯、いったいどこから湧いてくるのか不思議ね」


「何でも、ここらのどこかの地下に遺跡があってそこから出てくるんじゃないかって、王国の偉い学者さんが、調べに来てるらしいよ」

 

 隣の足湯に浸かっていた旅商人風のおじさんがそう話してくれた。

 

「そうなんですね、遺跡……か」

 

 何となく、足元から震えを感じたトキは、ぶるっと身体を震わせると、湯から足をぬいた。

 

「さて、疲れもとれたしそろそろいきませんか?」

 

「そうね、気持ちよかったわ」


 脚の疲れをとった二人は、さらに歩みを進めていくのだった。



「ちょっと止まって」

 

 突然ナナがそう言って、鞍から降りる。

 

 辺りに、他の人がいないのを確認すると、目をつぶって集中する。

 

 ナナの周りを優しい風が囲む。

 

 穏やかな翠の光がうっすらとナナを包む。


「……この辺、風の流れがおかしいわね。風が嫌がって逃げているみたい。この道の先で、風が吸い込まれているから、それを避けようとしてる」

 

「風が……ですか?」


 不思議そうにトキがナナを見る。


「何があっても、僕がついてますからね」


「もう、そんなこと言って」

 

 そう言うナナの顔には笑顔が浮かんでいた。



 風が止まった。異変に気付いたナナは、鞍を再び降りる。

 

「やっぱり、何か変よ」


 足元にまた違和感を感じたトキも鞍を降りて、ナナのそばに歩み寄った。

 

「何か地面が振動しているような気がしませんか?」


 そう言うと、トキはそっとナナの手を握る。

 

 ナナも手を握り返し、何があっても離さないそんな風に感じていた。


「あれ、何かしら?」

 

 ナナは道の先に白い霧のようなものをみつけて、指さす。


「わからないですけど、行ってみましょう。二人一緒ならどこだって大丈夫です」

 

 そうトキは言って、手を引き歩きはじめる。

 

「風がない、香りもない、不思議な霧」

 

 ナナはそう言って不安気に、周りを見回す。


「霧の向こうに何か強い魔力を感じる」

 

 不可思議な状況ではあるが、この手を繋いでいる限りは大丈夫、そんな不思議な自信がこの時のナナにはあった。ぎゅっと手を握ると、大丈夫だよというように握り返してくる。

 

 そんな手をあたたかい、とそう思った。


「魔女は自然と共にあれ。人と深く関わってはならない。師匠はそう言っていたけど。私は自然と繋がりながら、トキともずっと関わっていきたい」

 

「ナナさん……僕を守ってくれて、僕を大切にしてくれて、僕を助けてくれた。大好きな人だよ。そしてこれから僕もナナさんを守るからね。ずっと一緒にいよう」

 

 そう言い合って、ふたりはまた繋いだ手に力をいれた。

 

 それは、互いに力を与え合うような、二人だけの儀式だった。

 

 しばらく歩いていると、トキが突然足を止める。

 

 額に汗を滲ませはじめているのに、驚いたナナは、抱きしめてトキを支えた。

 

「……ごめんなさい。なんだかめまいがして……」

 

 風は吹かず、ナナには何も届かない。

 

「ちょっと休んでいきましょう」

 

 ナナはそばにちょうどいい石のでっぱりをみつけてそこに腰掛けると、トキの上半身を膝の上にうつ伏せにして、よりかからせた。

 

 そっと髪に手をおく。ゆすらないように動かしたりはしない。


 そのままじっとしていると、何か胸の奥に脈動するような疼きを感じる、その瞬間トキの心臓の音が聞こえた気がした。

 

 それはナナとだんだん歩調を合わせるように鳴り続けた。そしてついには完全に重なった。

 

 あの森で魔法を使ってあげた時のように、ナナはトキの心と繋がったような気がした。

 

 ふと周りに魔力を感じた。石を中心に何か模様のようなものが浮かび上がっていた。


 それはかつて、魔法陣と呼ばれた、魔力を使うための紋様……しかし、今これを理解するものはいない。


 トキの血が呼び覚ました過去の技術の亡霊の光がナナとトキを包む。

 

 そして、その光が収まると、そこには、ただ石だけが残されていた。

 

 二人が消えてしまった所を見る風すら、そこには吹いてはいなかった。


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