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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第六章 風の狭間で目覚めるもの

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第24話 二人、歩き出す

 ——幸福とは、落ちる前にだけ訪れる静けさ。

 二人の手は温かかった。

 だからこそ、風が告げた『冷たい予兆』に気づけなかった。



 ——

 二人きりの夜が明けて、朝陽が窓から溢れている。ナナの顔を照らす光を、先に目覚めたトキは、目をそらせずにじっと見つめていた。

 

「むにゃ……トキ」


 たしかに自分の名前を呼ぶ、愛しい人の寝顔を見て、トキはそっと手をナナの髪にあてて、撫でつける。

 

「う……うん、へ?」

 

「おはよう、ナナさん」

 

 自分の頭を撫でる手が愛しい人の手だと気付いたナナは朝から顔を赤く染める。

 

「お、おはよう、トキ」


 ナナは起き上がると、トキと一緒に旅の準備を始める。

 

 国境に近いこの町から、もう少し王国内に入って、田舎の森や山があるような村で、暮らしたい。

 薬草師として生活しながらナナは魔法の修行をする。

 トキは、アイナに薬を飲ませるナナを見て、本当に薬草師としての修行をしてみたいと思ったらしい。 

 二人は地図を眺めながら、この辺にいってみようと当たりをつけて、旅する道を決めた。

 

 

 入ってきたのとは違う城門へ向けて歩き出す途中、朝市を眺めながら進む。


「どこかで朝ご飯、食べましょうか?」

 

「いいですね、何がいいかな?」

 

 そんな風に食べ物の屋台を覗いていく二人に、屋台の料理人から声がかけられた。

 

「よう、そこの若夫婦。王国名物の、肉パンはどうだい?」


 その言葉に二人は顔を見合わせ、顔を赤くする。でも二人とも満更でもないように笑みを浮かべた。

 

「おじさん、わたしたち王国には来たばかりなの。それってどんなの?」

 

「そうかい、肉パンは、柔らかい王国名物の

 パンに、時告鳥(ときつげどり)の肉の炭焼きを挟んだもので、うちは甘辛いソースと、酸味の効いたソースの二種類があるよ、どちらもほっぺたが落ちるよ」

 

「美味しそうですね、でもどっちがいいかな?」


 そう目移りしているトキ。

 

「ひとつずつ買って、半分こしようか?」

 

 ナナがそう言うとトキは笑みを浮かべておじさんにお願いする。

 

「おじさん、ひとつずつください」

 

 二人はそれぞれの手に肉パンを受け取ると、道の端に腰掛けて、朝食をとる。


「これ、甘くて少しピリッとしておいしい」

 

「こっちも酸っぱくてあっさりしてていいですよ」

 

 半分ずつ食べ進めたところで、お互いの手の肉パンを交換する。

 

 ナナは、受け取った肉パンの少し曲がった食べかけの断面を見つめる。

 

 これトキが齧ったところ……そう意識するとまた顔が赤くなってくる。

 

「こっちの甘いのも美味しいですね、ナナさん」

 

 そう平然と話しかけてくるトキに、ナナは慌ててその食べかけの肉パンを頬張る。

 

「うん、こっちも確かに美味しいね」


 そんな微笑ましい朝食が終わり、二人はまた街の外へ向かって、歩み始めた。


「僕たち、夫婦に見えるんですかね?」


「トキ、すごい背、伸びたものね。」


 まだ視線を下げてはいるが、以前のように大きく見下ろすことは、もうなかった。

 

 すっとトキの手がナナの手に伸びて来た。

 

 照れ臭そうに一瞬、逡巡を見せて握り返すナナの手。

 

 朝のまだ冷たい風に冷やされた身体が、手から伝わってくる熱だけで、あったまった気がした。



 街道に出ると、二人は久しぶりに騎乗して進んでいく。


 収穫の終わった休耕中の田園風景の中の街道を、二人は並んで、ゆっくり進ませる。

 

 時折、目線が揃うと、すっと自然な笑顔が浮かぶ。


 二人でいる事の幸せを噛み締めながら、鞍上に揺られるナナとトキ。


 突然向かっている方向から冷たい風が、ナナの襟元を通り過ぎていった。

 

 それは、暖かい心をどこか冷やしていくような、何か不思議な感覚をナナに与えていた。


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