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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第五章 恋と風が芽生えた旅路

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第23話 国境の街で認めた恋

 ——逃げられない想いなら、名前を与えればいい。

 涙と微笑みでつながった抱擁(ハグ)は、二人の恋が『はじまった証』だった。


 ——

 朝の光の中、その街の門は、中と外をはっきり分けるようにそそり立っていた。


 辺境にはない立派な石造りの城門と周りを囲む壁は、王国の守りの力の強さを象徴するように感じた。

 

 ナナたち四人は、城門に向かってのびる列をみて、ちょうど向こうからゆっくりやってきた商人風の男に声をかけた。

 

「すみません、あの列はなんですか?」

 

「ああ、あれかね、あれは入国の検問に並ぶ列だよ、あんたたちは、家族で王国に?」

 

「いえ、旅の途中であって同行してきただけで、後ろの兄妹と、私達は別です」

 

「ああ、なるほど、少し並ぶかもしれないけど、ゆっくり旅のつかれを休めるつもりで、並ぶといいよ。それでは」

 

 そう言って四人とすれ違って少し距離を置くと、彼は周囲に目を配りながら、隊商の記録帳に似せた紙へ何かを書き付けていく。

 

 商人にしては不自然なほど几帳面で、そして、納得したようにその記録帳を鞄に戻す。

  

 その書き付けには、列に並んでいる他の人間たちの記載がある。


 そしてその書き付けの横には、帝国の追っ手が持っていたのと同じ感知石が、うっすら光り並んでいた。



 長い列がすこしずつ減っていき、ナナたちの番が来る頃には、すでに陽は高く昇っていた。


 兵士が一人ずつ、名前と旅の目的を聞くのと、禁制品などがないか荷物のチェックをする。

 

 旅の目的を聞かれた二人は、

 

「私は薬草師で、薬草採りをしながら旅をしています。王国では市場が活気があると聞きまして」

 

「僕はその手伝いをしています」 

  

 それぞれ、答えて、問題なく入城する事ができた。

 

 帝国と違い、感知石が常備とまではされてなかったのだろう、変化のペンダントが疑われる事もなく、実際に薬草をそれなりに準備していた為、薬草師という言い訳もすんなりと通った。


 街に入ると、賑やかな喧噪を風が運んできた。  

 

 この後、どうするかを話し合うと、入城の際、医者の場所を聞いていたアフベルはこのまま妹を連れて行きたいという。


 このまま別れるのは忍びないと考えたナナは、ひとまず急いで自分達の宿を決めるから、医者に行った後に、尋ねてきてほしいと約束する。


 街道近くに、風木亭(ふうぼくてい)という宿屋を見つける。クリーム色の壁に濃い色の古い木材がコントラストをなす、小ぎれいな宿屋だ。

 

「少し待っててね、空きを聞いてくる」

 

 と一人中に入ったナナは。

 

「二人で、一部屋、一泊食事付きで空きあるかな?」と中にいた、温和そうな中年女性にお願いする。

 

「はい、はい。大丈夫ですよ。いらっしゃいませ、ようこそ風木亭(ふうぼくてい)へ」


 ちょっと連れと話してくるからと、外に出て、アフベルとアイナに宿が取れたことを報告する。

 

「医者に行ったあと、必ず尋ねてきてね」

 

「ああ、ありがとう、必ず顔を出すよ」

 

「来客があること伝えておくからね」

 

 間もなく訪れる本当の別れを意識してか、アイナは少し、元気なさそうにしている。

 

「また後でね」と、トキがアイナに微笑みかけると、アイナは硬い笑顔を返した。

 

「ようやく医者に妹を診せられる」

 

 アフベルはそう言って、アイナの手をひいて去って行き、二組はしばしの別れとなる。



 古いけれど、きちんと鍵もかかる清潔な室内に入り、二人は旅の疲れと汚れを落とした。

 

 先ほど話をした女将は桶にぬるい湯をいれて持ってきてくれた。

 

 そんな心遣いに感心しながら、お互いに後ろを向いて、身体の汚れや汗を拭う。

 

 そっと、後ろをナナがうかがうと、上半身を晒したトキが、身体を拭っている。

 

 その背中の線は、すでに幼い少年のそれではなく、青年というべき力強さを見せていた。

 

 そのことにドキンと胸が跳ねる。

 

 ——ああ、ずっと隣にいたこの子は、こんなにも成長していたんだ……。

 

 同時に愛しい気持ちがいっぱいに溢れてきて、気付くとナナは自然と涙をこぼしていた。

 

 ふと、気配に振り向いたトキが驚いて声をかける。

 

「どうしたんですか? ナナさん」

 

「トキが攫われた悲しさと、今一緒にいる喜びとを考えたら、泣けてきて……」

 

 そう言うと、ナナはぐっと息を吸って、ひと思いに、思いの丈を、伝えた。

 

「わたしね、トキのことが好き……」


 それを聞いたトキは、やっと言ってもらえた、その喜びに、爆発的な笑みを浮かべて。

 

「僕もナナのことが、ずっと大好きでしたよ」

 

 そう言って、そっと両手を広げる。

 

「トキ」「ナナさん」そう言って二人はそっと身を寄せ、初めてそうとお互いを意識して、最初の抱擁をした。

 

 静かな部屋に、二人の息づかいだけが聞こえる。

 

 トキの目もいつの間にか濡れていて、でも二人の顔は幸せに笑っていた。

 

 うっすらと二人を淡い魔力が優しく包んでいた、それはあたかも二人を祝福するようであった。

 

 しかし、またそれは、二人が普通の恋人ではないという象徴のようでもあった。



 どのくらいの時間が経ったろう、抱き合ったままの二人は、外からのノックの音にあわてて、身体を離した。

 

「お客さんが来てるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 お礼を言って二人は階下に降りる。


 そこにはアフベルとアイナの姿があった。

 

「ここまで本当にありがとう、妹は無事入院させてもらうことになったよ」

 

 そう言って頭を下げる兄。

 

「元気になったらまた遊んでくれる?」

 

 そういって、ナナに約束をとりつける妹。

 

「落ち着いたら、また会いましょう」

 

「元気でね、アイナちゃん、それにアフベルさんも」


 ナナもトキも笑ってお別れをする。

   

「ぜったい、また会おうね!」

 

「二人とも……本当にありがとう。俺は、あなたたちに助けられたことを、ずっと忘れない」

 

 そう言って、名残惜しみながら、兄妹は手を振りながら去って行った。


 去って行く二人を見送り、そして二人は顔を見合わす。


「これからは……二人で、だね」


「ずっと二人ですよ」

  

 トキがナナの頭を優しく撫でる。

 

 ナナも涙をこらえつつ抱きしめる。

 

 四人の旅が終わった。



 第五章 完



 ——愛は確かに実った。

 優しい風も、暖かな手も、未来の夢もあった。

 けれど世界は、静かに二人を見つめていた。

『鍵』と『魔女』が寄り添うたび、古い歯車が軋み始める。

 次章、風はねじれ、時間は歪み、

 二人は世界の『狭間』へと呑み込まれる。

 その先で待つのは――

 封じられた古代の悪意と、二人を受け入れぬ運命だった。

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