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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第五章 恋と風が芽生えた旅路

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第22話 庇いあう心、触れた温もり

 ——守りたいと思った瞬間、身体が先に動いていた。

 抱きしめられた温もりが、もう後戻りのできない『答え』を胸に刻む。



 ——

 また変わらない朝が来る。

 

 もう彼らを覗く影はどこにも見えない。

 

 四人は、いつものように準備を始める。

 

 こころもち、いつもより元気そうなアイナが今日は手伝おうとする兄の手に、「大丈夫」と断りながら、自分でできる準備をしているのが、いつもと違うところだった。


「今日とっても身体が軽いの、ありがとうリアナお姉ちゃん」

 

 アイナはそういって、いつもより早く、駆鳥(かけどり)に乗った。

 

 見つめるアフベルの目が嬉しそうで、ナナは今日はいいことがあるといいな、そんな風に思いながら、尾根を下る道を歩き出した。


「この坂を降りたらいよいよ王国の国境だな」


 アフベルの言葉が、この山道もあとわずかだとナナとトキに教えてくれていた。


 下り道は楽なようにみえて、体重が前にかかり、実は登りより体力を必要とする。一行は休み休み無理をせず、下っていく。

 

「リアナさん、大丈夫ですか? 疲れてませんか」

 

 気遣う言葉が、同じ方向にだけ吹く風でなくなっていた。

 

「大丈夫よ、リトこそ大丈夫?」

 

「僕は平気です」

 

 トキは頼もしくなった。初めて出会ったあの泉での、薄幸で幼くて、守ってあげなきゃと思った彼は、もうどこにもいない。

 

 でも、今のトキも間違いなくトキで、そして、自分が……大切に想う人だ。

 

 気付いたら、ついトキに視線を奪われてしまい、目の合う回数が多くなってしまう。

 

 目が合うと目尻が下がってニコリとしてくれるんだけど、その度にナナは、恥ずかしくなり、目を逸らしてしまう。


 素直になれない自分は、その度に、トキでなくアイナに声をかけて、手をつないだり、お話をしたりしてしまっていた。

 

「リアナお姉ちゃん、だいすき」

 

 そんなふうに素直に私に言える少女が、とても羨ましかった。



 お昼の休憩のあと、アイナが鞍の上でかたまった身体を伸ばしたいし、少し自分も歩きたいと言い出す。

 

「ほんとに大丈夫か?」と心配するアフベルだったが、「お姉ちゃんと並んで歩くの」と言ってきかない妹に折れざるをえなくなる。


 午後のはじまりは、ナナとアイナが並んで歩き、二頭の駆鳥(かけどり)は男性二人がそれぞれ引いて歩いていた。


 仲の良い姉妹のように話しながら歩く二人と、後ろを行くアフベルが心配そうに見ている。

 

 足元の石に蹴躓いて、アイナがバランスを崩す。


 隣のナナは咄嗟に身体を抱きしめて自分の身体を地面にあずける。

 

 どさっと音がしてナナはしたたかに背中を打ちつけてしまう。

 

「ごめんなさい」と泣き出したアイナに、アフベルが駆け寄ってなだめ始める。

 

「大丈夫か? アイナ、怪我はないか? よしよし」——妹を心配する兄の目には、妹以外のものはこの時映っていなかった。

 

「ナナ……リアナさん」

 

 トキも慌てて近づいてきて、ナナを助け起こす。名前を言い間違えたが、アイナに夢中なアフベルにはこの声は幸い届かない。

 

「だ、だいじょうぶよ。アイナちゃんが心配で咄嗟に……」

 

 ガバッと、トキがナナを抱きしめる。


 強い抱擁。まだ立ち上がる前だったため、上から包み込まれるように抱きしめられた。


 トキの胸板に、顔がうずまる。


「あ……」と声にならない声が、ナナの口から漏れる。

 

「アイナちゃんも大事だけど、僕には貴女も大事なんです」

 

 頬に触れる胸元の筋肉の感触、かすかな汗の匂いが、少年でなく男……を感じさせた。


 その瞬間、頭が沸騰したように恥ずかしさが湧き出てきて、思わず手でトキを引き剥がしてしまった。


 ナナは頬が熱いのをごまかすように、乱れた前髪をそっと整えた。

 

「あ、ごめんなさい、僕、夢中になってしまって……」

 

「いいのよ、心配してくれて、ありがとう。立つから、手を貸してくれる?」 


 そう言ってナナは手を伸ばしてトキに頬笑みかけた。


 差し出された握った手は、反省のせいか少し他人行儀な気がして、素直になれない自分の気持ちが恨めしい。

 

 二人の間に、涼しい風がひゅっと流れた。

 

「アイナちゃん、大丈夫だった?」


「リアナさんが庇ってくれたおかげで、どこも怪我もない、大丈夫そうだ。これが何度目かわからないけど、ありがとう」


「よかった」

 

「さぁ、アイナこの後は、乗っていこうか」


 怒る事はなく、丁寧に諭す兄の言葉に、アイナは素直に、鞍の上の人となる。


 歩きはじめようとした、ナナは、ふと背後からの風に、何か濁りのようなものを感じて、思わず振り返った。

 

「リアナさん、どうかしました?」

 

「何かしら、うん。気のせいかな何もなかったわ。驚かせてごめんなさい」

 

 そう言って、四人と二頭はまた山を下り始める。



 その頃、少し離れた所にある山中の庵に、黒い外套の男がいた。

 

 手には感知石を握っている。

 

「なんだ?少し光ったような気がしたが」


 男は近くに書き付けていたメモを見る。

  

「商人風の二人連れと、子供二人を連れた若夫婦くらいか、通っていったのは」


 少し考え込んで呟いた。

 

「街道外を行ってる奴がいるとしたら、盗掘でもして、遺跡からなんか掘り出したやつでもいたのかもしれんな? 一応リーダーに報告はあげておこう」

 

 男はそのまま、街道の監視に戻った。



 ナナたち一行は少し長めに歩いて、やっとふもと辺りにまでやってきた。

 

 遠くに、国境の町のあかりが見えてきた。


「遅くなってしまった、今日あそこに着くのは無理だね、こう暗くなっては門も閉まっているだろうし、残念だけど今日はこの辺で泊まって、明日の朝、町に入ろう」

 

「そうですね、じゃあ、私は夕飯の支度、急いでしますね」

 

 そう言って、四人は慣れた野営の支度にとりかかった。

 

 焚き火を囲んで、旅の無事を話していると、疲れたアイナがナナの膝の上で眠ってしまった。

 

「重いだろう、寝床に連れて行くよ」

 

 そういうアフベルにナナは笑顔をかえす。

 

「深く寝入るまで、このまま寝かせてあげましょう」

 

「そうか、すまない」

 

 そう言って、アフベルは立ち上がりかけた身体を、再び腰を落として座った。

 

 ナナの隣に座って、焚き火の火を見つめながら、トキがポツリとつぶやく。

 

「リアナさんと、旅しててよかった」


「そう? 私もリトと一緒でよかったわよ」

 

 焚き火の火の温もりだけでない、暖かい風が二人の間に流れていた。

 

 そして、それを見守るアフベルは、微笑ましい二人を、感謝の気持ちで見つめていた。


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