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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第五章 恋と風が芽生えた旅路

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第21話 風の中で近づく二人の心

 ——触れた手の温もりが、すべてを教えてくれる。

 名もない気持ちは、もう隠せるほど小さくない。

 ナナの心は、風より先に揺れていた。


 

 ——

 山の尾根が麓より一足早い朝日を受けて、金色に輝く。目を覚ましたナナは、横で寝るトキの寝顔を見て、離ればなれになった日のことを思いだし、安堵した。


 ナナは、出立の準備をし始めると、その物音に気付いたのか他の三人も起きだしてきて、各自準備を始める。

 

 新しい旅の一日がまたはじまろうとしていた。


   

 四人は、また尾根を越えるべく、街道を進みはじめる。

 

 山頂をついに越える、その向こうに、大きな塔のある王国の都市が、眼下に見えてきた。

 

 あそこが王国。四人の顔が希望で輝いた。

 

 ナナとトキは顔を見合わすと、笑って、軽くお互いの腕をあげて、コンと合わせた。



 昼食をとるのに、四人は休息をとる。

 

 アイナも、ナナの薬草が効いたのかここのところは元気な姿と食欲を見せていた。

 

 今日は暖かくなりそうねと、おひさまを眺めていたナナがふと視線の脇に見えた紫と黄色のまじった花弁に目をとめる。

 

「あ、あれ、珍しい薬草なの、アイナちゃんにあげたいな」

 

「僕、取りに行ってきますよ」

 

「一人で行かせられない、一緒に行こう」

 

 兄妹を残して、久しぶりのナナとの二人での行動に、トキは思いっきり張り切っていた。

 

 少し角度のある斜面をのぼる。

 

「先に行きます」

 

 と自然に上に先に登ったトキが、左手で掴まって、右手を下にいるナナに差し出してくる。

 

 その手を掴むと、しっかりとした力でナナの手が握られる。

 

 そのままトキの補助を得て、ナナが斜面をのぼる。

 

 手のぬくもり、そして引く手の力強さ。

  

 どれもがナナの胸を吹き抜ける熱い風のようだった。

 

「もう、ナナさんを支えられますよ」

 

 そう言うトキの笑顔に気を取られて、つい足を滑らせてしまう。

 そしてトキに抱き取られ支えられてしまった。

 

「大丈夫ですか? 気をつけて」

 

 トキの言葉が耳に届かない。この胸の高鳴りがこんな密着しては、トキに伝わってしまいそう。そんな事を思って、ナナはあわてて、たちあがって、離れる。

 

「ご、ごめんなさい、ありがとう」

 

 トキは、薬草の花に手を伸ばし、そっと根っこから抜き取る。

 

「ちゃんと採れました。これなら大丈夫ですよね?」

 

 そう言って手にもった薬草を掲げる。

 

「え、ええ、これでアイナちゃんももっとよくなるわ」

 

 自分の気持ちを声に出せず、人の話題を口にする。

 

 この気持ち……これってもしかして……わからない……。

 


 二人は兄妹のところに戻ってくると、ナナは薬草を早速煎じ始める。

 

 できあがった薬を、ナナはアイナに飲ませる。

 

「これは、とっても元気が出るお薬なの、これから毎日無くなるまで一回ずつ飲みましょう。おそらくだいぶ元気がでると思うわ」

 

「リアナさん、ありがとう、ほんっとにありがとう」

 

「うえー、ちょっと苦い」

 

「こら、アイナ、ちゃんと飲むんだ」

 

 心配して叱る兄。

 

「はーい、ちゃんと飲むよお」

 

 健気に返事をする妹。

 

 その二人を眺めながら、トキは、鞄から、おやつを取り出すと、アイナに差し出す。

 

「これ、あまいから口直しにいいよ。食べてご覧」

 

「ありがとう、リトお兄ちゃん。あーん」


 アイナはその砂糖菓子を口の中に入れて、カリっと歯を立てた。

 

「あまーい、おいしー」

 

 にこにこと喜ぶ少女を、三人も笑顔で見守っていた。

 

 午後の旅は、アイナが薬のせいか元気な事もあって、いつも以上に順調に進んでいた。

 

「リト、お前、優しいし勇気もある、いい男になるな」


 そうアフベルがトキを褒めている。

 

 その言葉が胸に落ちた瞬間、なぜか息が苦しくなった。そして、その事が自分が褒められた以上に嬉しい、ナナだった。



 今日はナナが、アイナの乗った駆鳥(かけどり)をひいていた。

 

 アイナはそっとナナの顔に自分の顔を近付けて囁いた。

 

「リアナお姉ちゃん、リトお兄ちゃんのこと好きなの?」

 

 素直な少女の真っ直ぐな質問。

 

 否定したいのに、言葉が喉に絡まって出てこない。


 ナナは真っ赤になり、否定も肯定もできない。

 

「そ、そんなことないわよ…たぶん……」 

 

 そんな風に返事をしてしまうナナ。

 

「えー、お似合いだよ」

 

 とアイナは笑顔でナナを見つめて言った。


 ナナは、自分の気持ちにきちんと向き合う事ができずに、夕陽を眺めていた。



 野営の時間がきて、もう慣れたように四人が準備をする。

 

 四人はいつものように楽しく語らいながら、食事をしていた。

 

 

 尾根の上から、その様子を眺めていた視線に、四人は気付くことはない。

 

 一瞬だけ黒い外套の影が佇んで、影を落としていたが、それを見ているものは誰もいなかった。

 

 冷たい夜風が、尾根から吹き下ろしていた。


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