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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第一章 泉の出会いと、風が動き出すとき

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第1話 泉のほとりで、光に触れた

 ——その出会いは、運命でも奇跡でもなく、『逃亡者』の足跡から始まった。

 銀の少年を拾った瞬間、ナナの平穏はもう戻らない。



 ——

 少女は少年に声をかけた。

 

「私はナナ、森の魔女ウリル様の弟子の魔女見習いだよ。君は?」


 ナナは見たことのない容貌に、胸の奥がざわついた。

 

 銀の髪の少年は、まだ幼さの残る、澄んだ声で答えた。

 

「僕はトキ、変な男達に追われて、この森に迷い込みました……」

 

 その言葉を聞いてナナは、森の外れに、いつもと違う淀んだ風を感じた気がした。


 ——魔女は、人に情を移してはならない。そう教えられてきたはずなのに。

  

 その少年が追われる姿を想像した瞬間、胸の奥が締め付けられるように感じた。


 どうしても放っておけなかった。

 

 他者と絡むことのなかったナナの心に何か新しいものが生まれようとしていた。

 

 悪い子じゃなさそうだし、そもそも悪意を持つものが、師匠の結界を抜けてくることは無いと知っていたナナは、とりあえず師匠の元へ連れていってみるかと考え、少年に声をかけた。

 

「ついていらっしゃい、森の魔女様のところに連れて行ってあげるわ」

 

 その言葉に安堵した少年は返事をしようと口を開こうとする。「……っ」何か言おうとして、代わりにお腹が鳴った。

 

「あはははは、お腹が返事をしたね。ちょっと待ってて」

 

 そう言うとナナは、近くの木から果実をもぎ取ると、泉の水で洗って器用にナイフで剥きはじめた。

 

「これ、どうぞ。ただしゆっくりゆっくり噛んで食べるのよ。急にお腹に物を入れると、身体がびっくりして、気持ち悪くなったりする事もあるから」

 

「ありがとうございます」

 

 心の底から喜びを表現している柔らかい微笑と共に、トキはナナにお礼の言葉を返してくれた。

 

 おずおずと果実を食べ始める少年は、まるで小動物のように愛らしく、その姿を黙ってナナは見つめていた。

 


 人心地ついたトキを森の奥へといざなうべく、ナナはトキに手を伸ばして、声を掛けた。

 

「さぁ、行こう」

 

 差し出されたナナの手を、トキがおずおずと握って、そして微笑んだ。

 

 ナナは自分の握り返す力が、わずかに強くなるのを感じた。それが、師の言う人の欲なのか、温かい風なのか、区別がつかなかった。

 

 その手の温もりはナナの心にも温かく、何かを残した。

 

 森は深く鬱蒼と繁り、何物も拒むかのように樹々に守られている。

 ナナはするすると木立の間を抜けて、奥へ奥へと進んでいく。

 

 不安なのか、トキは背後の物音に怯えて、ナナにそっと身体を寄せてくる。

 

「大丈夫よ。誰かに害意を持つ者は、お師匠様の結界を越えることは出来ないから。この森の中は安全よ」

 

 触れた少年の温もりを、何故だか離したくないと思ったナナは、トキの手を握って話しかけた。

 

「迷ったらいけないから、手だけ繋いでいましょうね」

 

「はい、ありがとうございます。ナナさん」

 

 そう微笑み返す少年の笑顔が、ナナの頬をカッと熱くした。

 

 急に樹々がなくなり開けた場所に出る。

 

 その広場の中心には、小さな館が一つ建っていた。

 

 その玄関にはナナの師匠である古き森の魔女ウリルが待ち受けている。

 

 ウリルは、やはり魔女の特徴をもつ美しい姿の女性で、その雰囲気は老成しており、非常に年を経ているようにも見えるし、その美貌から、まだ若いようにも見える。そんな不思議な存在であった。

 

「おかえり、ナナ。それと迷子(まれびと)も。よく来たね。弟子の仲良しは、私にも客人だ。ゆっくり休んでいきなさい」

 

 師匠の仲良しという言葉に、ドキンと胸の奥で何かが跳ねて、ナナは返事をし損ねる。

 

 そして心の奥に何か説明できない感情が生まれた。


 ナナはじっと師匠を見つめて、でも何も言えなかった。


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