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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第四章 変わりゆく風と、新たな旅立ち

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第16話 背高き風の季節

 ——街の風は、ふたりの距離まで変えていく。

 少し大きくなった彼の影に、ナナの胸はまた跳ねた。



 ——

 喧噪が聞こえる。

 風の匂いが、森とは違う土と石のものに変わった。

 

 大きな門を通り抜けると、そこには二人が見たこともない、たくさんの家が並ぶ町並みがあった。


 森を出て、宛のない旅に出て、とりあえず辺境で一番大きな街を目指してきた。

 

 トキもナナも、初めて見る大きな街の雰囲気に、目を丸くする。


「こんなに人がいるところを初めて見ました」


「私も来るのは初めてだけど、この辺りではここが一番の街よ、すごい活気ね」


 大道芸人の投げるバトンや、甘い菓子の香りに二人は目を丸くする。歓声と匂いが通りを満たしていて、街は人の営みに溢れていた。

 

 二人は初めてみるものばかりの市を通り抜け、商店や食堂、酒場の建ち並ぶ目抜き通りで、一軒の繁盛しているとおぼしき、食堂に入った。

 

 簡単な料理と飲み物を頼んで、周りの噂話に耳をすませる。

 

 ジョッキをぶつけ合う音、厨房から聞こえる何かが焼ける音、外の街から聞こえる喧噪。そんな音に混じって、他の席で飲んでる男たちの声が、流れてくる。

 

「西の方じゃ王国が帝国を押し返したってよ。古代の遺跡からたんまり掘り出した遺物で、空船を造ってるらしいぞ」

 

「おかげで、景気が良くなっているらしいが、今からでも荷を運んでいくべきかねえ?」

 

 その話を聞いたナナは表情を緩める。

  

「帝国を押し返した国……そんな場所が、本当にあるのなら」


「そこなら、帝国も手を出せない……かもしれませんね」


「そうね……王国へ行ってみましょうか」


 噂話を聞いて満足した二人は、出てきた料理に舌鼓を打つ。

 

「これなんでしょうか? 美味しいお肉ですね」


 美味しそうに頬張るトキの様子をナナは優しく見守る。

 

「しっかり食べて大きくならないとね」


「はい、美味しいものならいくらでも」


 そういって、骨に残った少量の肉をこそげるようにして食べている。

 

「トキ、何だか食べる量増えてきたわね」

 

「最近、何だかいくらでも食べられそうなくらい、お腹が空いちゃうんです」

 

 皿を下げに来た女将が、そんな声を聞いて話に割って入ってきた。

 

「お兄ちゃんは、そろそろ背高期(せいたかき)なんじゃないかい?」

 

「なんですか?」

 

 不思議そうに問い返すトキ。

 

「子供が大人になる時に、急に大きくなる時期があるのさ、そんときはいくらでも食べちゃうし、男の子なら声が低くなって、だんだん一人前の大人になるのさね」


「声が枯れたり、関節が痛くなったりもしますか?」

 

 トキの背中をパンッとはたくと女将さんは楽しげに答える。

 

「それこそ、背高期(せいたかき)の証拠だね。お兄ちゃん、これからぐんぐん背が伸びるよ」


 ナナは女将さんと話すトキの横顔に、大人の欠片が見えた気がして、胸がどくんと跳ねた。——トキが大人に?



 食堂を後にした二人は、街を歩いて旅に必要なものを揃えるのに市場をまわり、買い物を楽しむ。

 

 ふと隣を歩くトキを見る。


 そういえば、最初にあった時には、目を見るのにもっと見下ろしていたようなと、目線を上下に動かしてしまう。

 

「どうかしました?」

 

 トキが尋ねてくるが、そんなことを言うわけにもいかず。

 

「ううん、なんでもない、そろそろ宿をさがしましょうか?」

 

「はい」

 

 その笑顔は、夕陽の光に負けないくらい、眩しかった。



 今日の宿を探し、以前と同じように一部屋お願いする。

 

「おや、お若い二人で、恋人かい?」

 

 そう宿の女将が茶化す声に、ナナは顔を真っ赤に染める。

 

 誰かにそう言われるだけで、胸が縮むほど恥ずかしくなる自分がいる。——トキを見つめて言葉がでないナナ。

 

「そうです……よね? ナナさん」

 

 何かを確かめるように、トキは上目遣いでナナを見上げる。

 

「そ、そうね……」ナナの声は消え入るように小さかった。

 

「仲良しで何よりだね」

 

 そう言って女将さんは部屋に案内してくれた。 


 宿の2階、以前泊まった部屋と同じように二つの寝台がある。

 

 しかし、ナナの心は以前のままではいられない。トキが大人になりつつあるという事実が、ナナの気持ちに新しい風を送ってくる。


 寝台に腰掛けて、荷物を整理するトキの横顔を見る。

 

 覚えていないけれど、空の上で気を失った自分が無事なのは、この子に助けられたのであろう。


「ありがとう、トキ。空から墜ちる私を、助けてくれたんだよね?」——混乱してて、お礼を言ってなかったのを思い出した。

 

「あ、うん。そうだね」

 

「どうやって助けてくれたの?」

 

 トキが言葉を探すように目線をふらふらと彷徨わせる。だがその視線はさりげなくナナの唇に向かっていた。

 それに気付かず、ナナはトキを見る。

 

「なんだか、僕にもわからないんです。ただナナさんの心と僕の心が繋がったような気がして、気付いたら泉のほとりにいました」

 

「あ、覚えてないはずだけど、私もトキの心と繋がった気がしてた、夢かと思ってたんだけど」 

 

 ——次はちゃんと二人で覚えているキスをしたい。


 トキの瞳の奥に、言葉にならない想いが揺れていた。 


 そんな事を知らぬままに、ナナは、トキを見て微笑んでいる。

 

「とにかく、ありがとう。やっと言えてよかった」

 

「はい、どういたしましてです。明日からは王国に向けて出発ですね」

 

 トキの明日へ向けて新しい希望を得た瞳は、いつもにもまして、生き生きとして。ナナの魔力の色と呼応するように、蝋燭の灯りにゆらゆらとゆらめいている。

 

 ナナは、胸がつまり、ずっと一緒にいたいと思うと、思わずトキを抱きしめてしまう。

 

「ナナさん、一緒にいきましょうね。どこまでも」

 

「うん、どこまでも守るから、一緒にいて」

 

 二人の抱擁は、夜の闇が街を包み込むまで、続いていた。

 

 お互いを大切に想い合い再会した二人は、絆をより強くして、新しい旅に向けて旅立つ。


 新しい土地はどんな風を二人に送ってくるのか、まだ何もわからない。


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