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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第三章 翠風、翔ける誓い

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第13話 翠の風、翔ける空と紅の影

 ——追いつけるはずがない。

 それでも、ナナの風は涙より早く空を裂く。

 紅の影が、最悪の再会を用意しているとも知らずに。



 ——

 蒼穹を引き裂くように、翠の光が、空を駆けていく。

 

 大空を行く翠の閃光。その尾を追うように、風が歌った。

 

 『あの子は風を超えるのね』それを湖の上から見つめる蒼い光があった。

 

 蒼き魔女はそっと手を合わせた。


「行きなさい、ナナ。風が、あなたを選んだのだから」

 

 ナナは、遠くにあるトキの気配を感じ、胸が締め付けられる。

 

「トキ、必ず取り戻す。私、あなたと一緒にいたいから」

 

 もう自分の気持ちを誤魔化すことはない。

 

 そして、遠い彼方にいるトキを目指して一直線に翔び、やがて……見つけた。

 

 その時、風が鳴いた。



 空船のブリッジ、辺境では比べるものなき覇者である帝国の威光ゆえに、当直の兵士達には、弛緩した空気が漂っている。

 

 その空気を変える瞬間が訪れ、監視役の兵士が、大声で叫ぶ。

 

「感知石に、感度あり。なんだこんな反応みたことない」

 

 駆け寄ってくる当直士官が、感知石を見て悪夢を思い出した。

 

「こ、これは……魔女の……」

 

 一瞬、膝から落ちそうになるが、職業意識を振り絞り立ち上がると、艦内全体に危機をつたえる声を発した。

 

「近づく敵性魔力あり、魔女だ。総員戦闘準備」


 伝声管が叫びを飲み込み、船内が動き出す。

 

 船腹から突き出た砲門が、獲物を求めて動き出した……。



 雲が切れ、下に黒い帝国の艦影が見えた。

 陽に照らされた帝国旗がたなびく船尾がはっきりと見えた。

 

「トキを、私のトキを返しなさい」

 

 そうナナが叫ぶ。

 

 その瞬間、船尾の砲塔が炎を吐くが、翔ぶナナはそれを置き去りにするように速度をあげる。

 

 ナナの手に翠の光が集まり、風の刃となって、疾る。

 

 その刃は真っ直ぐに船尾に向かい、帝国旗を断ち切り、外壁に傷をつけて止まった。

 

 空の覇者であるはずの空船を、その時風が拒んだ。



 一方、空船の独房では――


 鎖に繋がれたトキは、遠くの轟音に目を開けた。


「この風……ナナさんだ」


 その瞳が、淡く翠に揺れた。



 ナナが近づくと、空船の砲火は正確さを増し、至近距離で炎が破裂する。

 

 目の前に炎が閃き、反射的に「キャッ」と軽い悲鳴をあげる。

 

 その瞬間、身体をつつむ翠の風が弱まり、ナナは一瞬速度を失い落下する。

 

 空船の中は一瞬歓声につつまれる。

 

 風が裂け、体が落ちる。


「また、失うの?」心の奥で声がした。


 その時――「ナナ」。


 トキの声が、風の中から呼んだ。

 

「いやだ、私は、もう奪わせない」

 

 そう叫ぶと、紅い目に光が戻り、身体から翠の光の奔流が迸る。

 

 風がナナの身体を抱き上げ、再び空船に向かって運んでくれる。

 

 ナナの心に、風が応える。



 砲弾よりも早く近づいてくる翠の光に、空船の中は半ばパニックに陥る。そして、ついに光は空船の甲板に降り立った。

 

 こうなっては砲塔で狙う事はできない。

 

 甲板の扉が開いて、屈強な水兵達が飛び出してくる。

 

 その男たちを見据えて、ニコリと笑うと、両手から風の塊を出して、男たちを吹き飛ばす。

 

「トキを、返しなさい」

 

 その声は、倒れ伏す男たちには、悪魔の声に聞こえた。



 船内を走る報告の声が、伝声管を伝って研究室にも届いた。

 

「魔力値、上限突破! 対処不能です!」

 

 船内に安置された黒い匣、研究者が群れるその部屋に、大佐が入ってくる。

 

「こいつを使う、こんなところで止まっているわけにはいかんのだ」

 

「いけません、大佐、まだ何もわかっていないんです」

 

「古文書にあった力ある白き獣、これこそがそれに違いない」

 

 制止する研究者を振り払い、大佐は、匣の紋章の部分を強く押しこんだ。

 

 匣に絡まる蔦のような管が脈動し、中の白い何かが震えて、蠢くまま、匣の外へと這い出す。

 

「融合ヲ開始シマス」そんな人ではない声が大佐の耳にだけ聞こえていた。

 

 大佐は周りを見回して、誰が話しているかと探すが、それらしきものは誰もいなかった。


 白い何かは立ち上がり、大佐をそのまま抱きしめる。


「なんだ、なにがおきてるんだ?」

 

 呆然と見つめる研究者の眼前で……。

 

 白い身体から、白い魔力が吹き出す。同時に大佐の胸の立派な首飾りと右手に光る指輪から赤い魔力が広がり、それらが混ざりあい、拡散した。

 

「融合完了シマシタ」また大佐にだけ聞こえる声。

 

 そこには、赤い肌をもつ獣のような何か、古の時代鎧兵(ギガント)と呼ばれた禍々しい巨人がいた。大人の二倍くらいの体躯をもつ巨人は、上方に翠の力を感じ……吠えた。

 

 人造兵(ホムンクルス)と一体化した大佐は、驚くほど落ちついていた。

 

 そのまま扉の枠を破壊しながら、甲板へ向かって駆けだしていくのだった。

 

 

 甲板の上の敵を掃除したナナは、いよいよトキを探そうと、甲板上のドアに向かって歩き始めた。

 

 その時、赤い禍々しい何かが近づいてくる気配を感じ、とっさに距離をとる。

 

 ドアを吹き飛ばしながら、炎をまとった腕を振り上げて、ソレは、やって来た。


 その瞬間、空が悲鳴を上げた。


 風が逆巻き、翠の流れが紅に染まる。


 森の鳥が飛び立ち、雲が裂けた。

 

 ナナの倍以上の巨体で、赤い魔力に包まれているそれが、ナナを睨む。

 

「魔女メ、ワレノチカラヲミルガイイ」

 

 大佐だったものが、話す。大気を振るわさない、魔力の共鳴する音の波が……空を震わせた。

  

 それは壁を通して伝わり、トキにも聞こえた。

 

「ナナさん?」

 

 心を研ぎ澄ませると、風の声が聞こえたような気がした。


 炎の拳が振り上げられた瞬間、風が鳴いた。


 それは、彼女の決意そのままに空船の上を吹き抜けていった。


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