表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
序 章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/15

序話 泉に揺れる、最初の風

 森が燃えるあの日のことを、ナナはまだ知らない。


 あの春の朝、泉でひとりの少年と出会わなければ——

 風も、運命も、世界も、変わらなかっただろう。


 それはすべての始まりだった。



 ——

 森はいつものように静かで、そして生命の息吹で、賑やかだった。


「魔女は自然と共にあれ。人と深く関わってはならない。人の欲は世界を壊す」

 ——ウリルの言葉は、ずっと幼い頃から、ナナの根っことして、常に共にあった。


 ナナはその言葉と共に森を今日も歩く。

 

 これまで、必要以上に森の外で人と会うこともなく、森の生き物と師だけを相手に殆どの時間を過ごしてきた。

 

 頬を撫でる風と木漏れ日の光を感じる。


 朝の森を、獲物を求めて歩く。命をいただく、それは森で生きるものとして、自分たちも自然の中にあることを考えれば当たり前のことだった。

 

 だが、今日は何故か兎も山鳥も見つからない。

 

 風の流れがどこかしらいつもと違う。

 

 そんな不思議な感覚があった。

 

「なにかしら、この風?」

 

 風が枝葉を揺らして、「知らないよ」とでもいってるようだ。

 

 森をまわって、泉の清水を汲むのはいつもの習慣みたいなものだった。

 

 風とともにいつもの生き物たちからの魔力を感じながら、ナナは、泉に向かって急ぎ足で駆けた。

 

 いつもは水が湧く静かな泉に、湧水だけではない水音がした。

 

 ナナはその音に惹かれてしまった。

 

 いつもとは違う何かが起きるような気がした。

 

 風が、森の外の匂いと、知らない運命の気配を運んできた。

 

 森の隙間から、すこしずつ泉のある開けた広場が見えてきた。

 

「……誰?」

 

 知らない気配を風が運んできた。

 

 不安になってもおかしくないのに、何故かその気配は、ナナを優しい気持ちにさせていた。


 明らかに誰かがいる。ナナは木々と草木をかき分けて、広場に出た。

 


 その中心に、陽の光に照らされて、銀の髪を煌めかす少年がいた。

 

 水に濡れた銀の髪は、銀糸のようで、その肌は、磨き上げられた黒檀のように深く美しく、翠の瞳がやさしく陽の光を反射している。

 

 見た瞬間、ナナは息をのみ、言葉を失う。

 

 胸のざわめきが、風とともに、あたりに響いているような気がした。

 

 ふと、少年がこちらをまっすぐ見た。

 

 ナナの紅玉の瞳と、トキの翠玉の瞳がはじめて交わる。

 

「金の髪に、紅い瞳、そして白い肌、物語のその姿のままだ。魔女……さんですか?」

 

 柔らかな風に乗って、その声が躍るようにナナの耳に届く。

 

 ナナの心に、師の言葉——『外の人と深く関わると、人の欲に飲み込まれるよ』が蘇る。


 その言葉を思い出した瞬間、ナナの胸に、理由のわからない不安が広がった。


 師は決して、詳しいことを語らない。

 けれど「外の人と深く関わるな」という言葉だけは、いつも、少しだけ声が低かった。

 

 返事をためらっているのを見て、少年は言葉を重ねた。

 

「禁断の森を承知で来ました。助けてほしいんです……。追われていて」

 

「追われている?」   


 その言葉がナナの心に『守りたい』という小さな芽を生んだ。

 

 風が二人を守るかのように、ゆるやかに吹いていた。

 

 ——この出逢いは、ナナが世界よりも、ひとりの少年を選んでしまう、そんな恋のはじまりだった。

 そして、ナナを逃避行の旅へと導き、真の魔女への覚醒に誘う。

 ついには、世界の覇者との闘いを決意させる、そんな出逢いだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ