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夏日(なつじつ)

作者: 木樹下下

その日は夏の暑い日だった。

私は車を運転していた。酷い山道だった。左右に揺れる度に見えない力に体を揺らされる。私は別に運転が得意な訳じゃない。

隣には知らない大学生の男の子だった。

どうして私が今こんな風に知らない男子と車でわざわざ山道を上っているかというと、少し時は遡る。


私は3年付き合っていた彼氏に浮気され振られた。高校生の時から付き合っていた彼とはもう恋人以上家族未満の存在になっていた。

悩みは何でも相談したし、好きな物は何でも共有していた。


彼に最後に言われた言葉は「俺達多分なんでも話すぎたな」だった。

何でも話し過ぎって何?私が良かれと思ってた事が彼にとっては苦痛でそうして、彼は私以外の人を選んだのでした。


瞼が張れるくらい泣いて、気づけば私は屋上にいた。小さなマンションの屋上だ。私は屋上で空を見ていた。ふと、下を見るとこのまま飛び降りてしまいそうであった。

「このまま死んでもいいかも」

私の頭の中はまるで黒いカビがこびりついてるかのように、彼に振られた事が気になってそればかり考えられなくなっていた。


多分それは、私の中で一人の人間が死んだのと同然の事だったんだと思う。

その時、空から彼は突然降って来た。そう、本当に突然彼は私の前に振って来たのだ。

それは神様が私に慰めるかのように男を寄こしたのかもしれないと最初思った。

まあ、そんな事ある訳ないのは分かってる。そんぐらい自暴自棄になっていた。


「大丈夫?」

と私が声を掛けた。

「ここは?」

「屋上」

と私はスカートの裾を気にし永田屈んで彼の様子を確認した。

別に問題なさそう。


「おかしいな、俺死のうとしたんだど」

「そうなの?空から落ちてきたよ」

「うん。ビルから飛び降りた」

「そうなんだ。」

と私言ってから暫く考えていた。そうして、少し間を開けてから彼に尋ねた。


「どうして死のうと思ったの?」

「太陽がまぶしかったから」

「はあ?」

と思わず呆れてしまった。だって、もしかしたら私と同じ理由かもと思ったからだ。彼女に振られたりとかそういう理由だと思ったのに。変な親近感を抱こうとした自分に嫌気を差しながら私は立ち上がった。


「じゃあね」


「君の死ぬつもりなの?」

「あなたが来る前はそうしようと思ってたけど、あなたの理由を聞いてあほらしくなちゃった」

「僕は雪山に行きたい。運転できる?」

「あのね……」

と私はため息を付きながら彼の提案を拒否をしようとした。でも彼の瞳を見てしまうと拒否できなかった。

「車ないから、タイムズで借りなきゃだけど、いい?」

「うん」


こうして、私たちは山道を抜け、長野のまだ雪が残っている山に向かって走りだした。

車内は静かで彼は話かけてこない。頬杖を付きながら窓の外を見つめている。


何かドラマのワンシーンみたいだった。よく見ると彼は塩顔系のイケメンだった。

横顔が綺麗でずっと見てられる。


私は仕方なく、音楽を掛けながら運転に集中することにした。


駐車場に止め、私達はまだ、雪が残っている山の道を二人で歩き出した。少し上った所に下を見下ろせる場所があった。そこには腰より低い柵が置かれている。目の前には滝が流れ落ちている。

「ついたけど……」

「うん」

と彼は小さく言った。

私は彼が本当に自殺するのか尋ねようと思ったけど止めた。そうして、自殺しようとした本当の理由を聞こうと思ったけど、それも止めた。


「君はどうして死のうとしたの?」

と彼は私に尋ねた。

「彼氏に浮気されて、振られたの。それだけ」

「そうなんだ。悲しいね」


彼がそう言うと、空から雪がひらひらと降り始めた。

「あ。雪」

と私はポツリと言った。


その時、突然彼は私の唇にキスをした。彼の唇は柔らかかった。

私は抵抗しようかと思ったが、止めた。そう言えば私ってあいつ以外とキスした事なかったんだなと思った。


キス一つとってもこんな違うんだ……


私は目を閉じた、しばらくして彼の肩を離した。

「優しくしてくれた人にはこうするようにしてるんだ」

「なんで?」

と私は尋ねた。

「喜ぶから」

「あんたって変わってるね」

と私は笑いながら答えた。


その夏の日は雪が積もった。私達は車の中で二人で過ごした。

けれど、次の日彼の姿はなかった。



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