はじまりの日 ②
「すいません、すいません、ちょっと失礼しまーす」
体育館前に群がる人だかり。新学期のこの感じ、何度経験しても慣れない。ワクワク、ドキドキ、ソワソワ。皆、色々な感情が入り混じっていることだろう。かくいう私も。光に手を引かれながら人ごみをかき分けて進む。
「どう?見えそう?」
「えーっとねー、もうちょっとで……あ、見えた見えた!落合光はー……。あった、一組や。」
光はそのまま視線を下に移す。
「お!怜の名前もある!同じクラス!」
「本当?良かったぁ」
緊張の糸が一気に解けたのがわかった。
*****
「えー、新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。皆さんとこの学校で出会えたこと、大変嬉しく思います。これからの高校生活、不安に感じていることもあるかとは思いますが──」
ふと横を見ると光が首をカクカクさせている。毎年この光景見てるなーと思い出し、思わず頬が緩んだ。
「さて、我が校では毎年この季節になると校庭の八重桜が満開になるのですが、皆さんは八重桜の花言葉を知っていますか?桜そのものの花言葉には、精神の美という意味がありますが、八重桜には豊かな教養という意味が込められています。皆さんにはこれからの三年間、色々なことを経験し、精神面での成長とともに、豊かな教養を身に付けていって欲しいと思います。」
花言葉。一時期クラスで流行っていたことを思い出し、懐かしい気持ちになる。
「続きまして、新入生代表の挨拶です。本宮心さん、お願いします。」
コツコツと足音が響き、周囲がざわつき始める。不思議に思ったが、『本宮心』が壇上に上がった瞬間、その理由が分かった。高身長イケメンという言葉がこんなにもしっくりきたことはない。スタイルの良さと整った顔立ちに加え、色素の薄さが儚さを醸し出している。
「暖かな日差しと共に心地よい風を感じられる季節になりました。天候にも恵まれ、今日という日を迎えられ嬉しく思います」
見た目に劣らない透き通った綺麗な声に、ざわついていた周囲が静まり返った。