はじまりの日 ①
「はじまりの日」は、怜と光が優と心に初めて会った日のお話です。
しばらくこの章が続きます。
右手を流れる川には軽鴨の親子が愛らしく泳いでおり、左手には田んぼが見える。こののどかな風景の中で、心地よい川のせせらぎと春の暖かさを感じながら自転車で風を切るのはとても気持ちが良い。この季節、この場所ならではの特権だ。そんなことを考えていると、前方を走っていた落合光が「あ!」と声を上げた。
「何ー?」
「桜咲いてんで」
そう言われて自転車を漕ぐ足を少し緩めながら数メートル先の方に目を向けると、そこには満開の桜。その下には、散った花びらで桜の絨毯ができている。
「あれ、知らんかったん?あそこの桜、結構前から咲いてたで」
「知ってたけど言うてみた」
「何やそれ」
「怜は知らんかもしれんやろ?やから念の為な。気遣いに感謝しーや」
表情は見えないが、声から、おどけた顔をしているであろう光を想像し、思わず笑みがこぼれる。
「ふふ。それはありがとーやな」
光とのこういうくだらないやり取りはいつものことだ。でもこの空気感が結構好きだ。心地良い。そう思いながら、再び元のスピードで自転車を漕ぎ始めた。