それぞれの世界
まずは頭の中で整理してくれ。必要なら図を描いてもいいいだろう。
真ん中に太陽がある。これは燃える星だ。光と熱を発し我々の世界に恵みを与えてくれている。いくつかの宗教は太陽を神と崇めているが強ち嘘ではない。そもそも太陽が星々を生み出したのだ。正確には星々を生み出した後の残滓の燃える姿が太陽なのだ。
太陽はその子である星々を持っている。我らが住まうこの星以外にもいくつかの兄弟星が太陽の周りを回っている。ひときわ大きな光を放つ“セタ”、青白い“ドーマ”、双子の“リュハ”と“ラプーシタ”、夕闇に地平線を掠めて通る“エンベ”などだ。占星術師たちはこれら兄弟星の運行によって占いを立てる。それは時に当たりもするしまったく当たらないこともあるがね。
これら兄弟星は《惑星》とも言う。ある一定の大きさで太陽を中心に回る星の事を指すのだ。これとは別に月と呼ばれる星がある。《衛星》と言う。これは太陽ではなく《惑星》を中心として回っているのだ。同じ太陽から生まれてはいるが、中心として回っているのが太陽か惑星かで呼び名が違うんだ。同じ岩石でできてはいるのだがね。
ご存じの通りこの星には《3つの月》がある。天上高く満ち欠けする月“アゲト”、地平線を上下する赤い月“サッパ”、アゲトの向こうに見え隠れする暗い月“ツァエ”。それぞれはこの星を中心に回っている。これとは別に星を取り巻く帯がある。《小惑星帯》だ。月よりもはるかに小さいのだから小衛星帯でも良いと思うのだが、なぜか我々は小惑星帯と呼び習わしている。その大部分は岩石と氷でできており、流れ星となって時折地表に自然と降ってくる。またご存じの通り大魔法使いの儀式によって地上に強引に落下してくる。
太陽と惑星と衛星と小惑星、一先ずはこれが星系の全てだ。もっと他にもあるが星系の大部分はこれらが占めている・・・いや、もう一つより大きなものがある。空間だ。
星々の間はどうなっていると思うかね?私と君たちの間には空気がある。星々の間にはいったい何があると思うかね?
よく考えてみるといい。君たちが開いた地表はここよりもっと空気が濃く濃密でなかったかね。ここまで登ってくると薄くは感じないかい。そうだ、地表から離れれば離れるほど空気は薄くなるんだ。それが星々まで登ったらいったいどうなるだろうね。
そうだ、空気がなくなるのだよ。厳密にいえば無くなるわけではなく認識できなくなるほど薄い空気になるのだ。勿論呼吸なんてできるはずもない。この空気がない空間が星系を満たしている。ないものが満たすという表現も可笑しいが《虚無》こそがすべてを満たしているのだ。
これを《宇宙》という。認識できないほど果てしなく続く虚無。それが《宇宙》だ。それこそが私にとっては《世界》なのだよ。
ハハハ、頭が痛くなってきただろう。それでいいのだ。世界の見方なぞ見るものによって違うのだから。私には私の世界があり、君たちには君たちが今まで生きていた世界がある。これから語るのは私の世界であって君たちがそれに興味を持ってくれれば嬉しいのだ。