世界の滅びと再生
一族の成り立ちと世界の成り立ちは同時に話さなければならないだろう。なぜなら我らが一族は世界と共に成り立ったからだ。
その前に君にとって世界とはどんな形をしている?世界の大きさは?世界の端っこはどうなっていると思う?永遠に続くものなのか?それとも限界があると思うか?
この答えを私たちは知っている。君が望むならその答えを教えよう。ここへたどり着いた君もそのお仲間も、どうなんだ?そうか、知りたいか。なら教えよう。信じると信じまいとそれは勝手だが、誓ってこれから語ることは真実なのだ。のちに語る話がそれを証明するだろう。
この世界は《星》だ。そう天上高く瞬くあれだ。正確に言えばあれではなくあの陰に隠れている見えないものだ。よく判らないか、ならばこう言い換えよう。月と同じものだ。私たちのこの世界は月でもある。丸いのだよ、世界は。
丸いから只管まっすぐ歩いてゆけばいつかは元の場所に戻る。もちろん一日、二日ではなく、何ヶ月も何年もかけてだ。それだけ世界は広いからな。この大陸だって端から端まで行った者などそう多くはないだろう。それを超える広さがあるのだ。海に行ったことは?もしくは砂漠やずっと広がる草原などは?その時のことをよく思い出して欲しい。水平線がわずかに丸くなっていなかったか?
まぁ覚えていないか。では仕方ない、仮にだとしても世界は丸い玉のようなものとして話を進めさせてくれ。でないと話が一向に進まないからな。明日の朝、晴れていたら台地の端に立って遠くを見渡してみるがいい。世界が丸く見えるはずだ。
私たちがいるこの世界はとてつもなく大きい球状をしている。空に浮かぶ月も丸いだろう。あれが満ちたり欠けたりするが、実際に大きさが変わってないのは知っているだろう。目を凝らせば三日月であっても薄ぼんやりと月の輪郭が見えるはずだからな。つまり天上に浮かぶ月、あれこそが《星》と呼ばれるものなのだ。
《星》にはいくつか種類がある。占星術師が分ける種類ではなくてもっと構造的な根本的なものによってだ。まずはこの世界や月、つまり土くれや岩石でできているもの。星と言えばまずこれを指すのだ。次に自らが光と熱を放ち熱く燃えるもの《太陽》も星の一つだ。月も光るとな?あれは自らが燃えているものでは無い。太陽の放つ光を照り返しているだけなのだ。先ほど言ったように三日月でも薄く輪郭が見えると言ったろう。その陰の部分こそ我らが住まう星の陰なのだ。月はこの星の周りをまわり、この星が太陽を背にしたとき太陽が放つ光がとてつもない影を生み、それが月の一部もしくは全体を隠すのだ。
ついでを言うならば我らが住むこの星も月も太陽を中心に回っているのだ。だからわれらの世界を包む大きな世界の中心は太陽という訳だ。さらにそれを包む大きな世界もあるのだが、まぁこれはいつか話してやろう。太陽を中心とした星の集まり、これが我らを包む世界《星系》だ。
話が大きくなったな、飲み物でも飲みながら話そうか。軽い食事でもしながら。甘いものは好きか?ならこの土地ならではの甘味もあるぞ。
突拍子もない話だが、星にも寿命がある。もちろん計り知れないほど長い時間だ。万物等しく突然生まれて永遠に存在するわけではない。とは言え我々の尺度でものを考えるからそのように感じるのであってもっと大きな存在、神々やそういったものからしたら一瞬なのかも知れない。まぁ今は我々の尺度でものを考えるしかないがな。
この星が生まれて何年たつと思う?長命の種族の歴史を紐解いても十数万年というところではないかな?そこの君はエルフだね。君の一族はどの程度歴史を伝えているかね?ああそうだろう、長老が23代目と言うことは高々数千年な訳だ。
調べれば正確な年数が判るが大雑把にこの星は生まれてから70億年は経っている。人生で言うなら老年に差し掛かったぐらいなのだ。その間に多くの命や文明が生まれ、滅び、また生まれ、繰り返してきている。余りの長さに目もくらむだろう。それでいい。自分の人生で測れない長い年月というものはそう重要ではない。
滅びは様々な原因で起こりうる。自然災害、病魔、自戒、稀に他文明からの侵略。この星では既に大きな滅びが10回起きている。最も最近では2億6千万年前だ。とてつもない災厄が星を覆い、数多の動植物も文明も損なわれた。しかし生き残ったわずかな種子が芽吹き再び今に至るという訳だ。
また星の話に戻るがこのような滅びと再生は何もこの星に限ったことではない。すべての星々や太陽にも起こりうることだ。勿論、太陽に生き物が住んでいるわけではない。星々の寿命の話としての滅びと再生だ。
先ほど《星系》と言ったね。太陽を中心とした渦巻く星々の集まりの事だ。これにも滅びと再生がある。太陽が滅びるとき、星々は巻き込まれ、もしくは弾かれて虚空へと消えるのだ。