表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍化決定】天弓のシュカ ~勇者の生まれ変わりの少年は、世界を救うために七色の魔竜を巡る旅に出る~  作者: 卯崎瑛珠
四章 白虹、日を貫く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/53

第46話 天弓の翼2



「あはあ~~~斬られたら、い~た~い~~~~の~~~~」

「きっもちわりいなあ!」


 にゅるにゅると避ける生首七本に、苦戦するヨルゲン。

 大鉈(おおなた)のように振るう大剣をくぐり抜けるように、シュカもロングソードを振るうものの、ぬるりぺちゃりとまるで手応えがない。


パラライズ・フロスト(氷の麻痺)!」


 シュカが、ジャムゥの魔素援護を受けて強力になった魔法で、首ひとつの動きを止める。

 

「っらあっ!」

 

 即座に斬り落とすヨルゲン。しかし――

 

「いったあ〜〜〜〜〜い」

 

 またにゅるりん、とすぐに生える。


「っち、どうなってやがんだ!」

「ゲン! ほんとのは、ひとつだ!」


 赤い目を光らせて、背後のジャムゥが叫ぶ。


「そういうことかよ! どれだっ!?」

「わからないっ」

「心臓突いても意味なかったしな……斬りまくるしかなさそうだっ」


 鮮やかに素早く駆け巡る『蒼海(そうかい)』の剣筋を、最後列で団員を指揮するハンスは驚愕の目で追いかける。


「まるで、水竜の嵐だな……!? どうなされた、殿下」


 いつの間にか、ルミエラがアモンの魔法陣から出てきている。


「おい! 魔族! ……一体」


 アモンはニタァと赤い目を細める。


「人間というのは、愚かですねぇ。すぐに騙される」

「なん……だと」


 ハンスが、抜剣する。


 ――それよりも速く、アモンの鋭い爪が襲う。


 ()()って避けたものの、鼻先を、長く黒い爪がかすめていく。

 まともに触れてもいないはずが、鼻梁(びりょう)に一条の深い傷跡をつけ、バッと視界に鮮血が舞う。


「きっさま……」


 だがハンスは、すぐさま思い違いに気づいた。

 アモンは攻撃したのではない。


『人間を庇うとはな』


 右手首にある従属の印を見せつけるようにして、体の前に腕を突き出すルミエラが、醜悪な表情を浮かべている。その手のひらの先には、尋常でない炎の塊が浮かび、そして空の彼方へ飛んでいった。アモンは手の甲を火傷したようで、ブスブスと黒く焦げている手を、雑に振るっている。


『ちっ。逃がしてしまった……! 魔族のくせに、(はか)ったな』

「フフ。人間のくせに、魔族みたいなことをしましたねぇ」

『あの魔法陣は、なんだ』

「醜悪な本性を(いぶ)り出すものですよ? 人の弱みを握っていたぶるためのね」

『……』

「巧妙に従属の印に紛れさせましたねぇ、無窮(むきゅう)の賢者。自身の魂の一部を潜りこませるとは、本当に性格が悪い」

 

 ルミエラが、紫の目を細めた。


『貴様に言われたくはないな』

「くくく……見たでしょう、火竜、相当怒ってましたよ? 純粋な宰相の恋心を(もてあそ)ぶだなんて、酷いお人だ」

『ふん。恋心などと。バカバカしい』

「おや。貴方もこじらせてるじゃないですか」

『なんだと』

「勇者への、焦がれるほどの熱情を。嗚呼美味しそうですねえ」


 うっとりと舌なめずりをするアモンの、頭頂には山羊のような角、背中には蝙蝠のような黒翼が生えた。まさに魔族の頂点、アモン侯爵そのものである。


 周辺の騎士団員は、恐怖によるパニック状態に陥った。


「……巻き込まれたくなかったら、下がるのですよ、ハンス」


 鼻を押さえ瞠目(どうもく)している騎士団長を一瞥(いちべつ)してから、アモンは魔力を高めていく。


()()()()()()()。魔法対決になるでしょうからねぇ」



 背後の様子を見ていたウルヒが、歯噛みする。



「……そうか、気づかなかった……! 完全にあたしの失態だ」

「ウルヒッ! 何が起きてやがる!」

「ゲンさん、集中っ!」

「ちいっ」


 グレーン国王は、首を伸ばしてはガチガチと噛み付いてくる。

 波状攻撃は留まることを知らず、口を開く度に猛毒を()き散らしている。シュカは解毒魔法と回復魔法で手一杯になった。



「あの時パトス・メモリア(共感記憶)で見えた、氷殿(ひょうでん)での儀式は、従属の印じゃない。ファルサの(たま)移しの儀式だったんだ……やはりルミエラは、絶命していた……?」

「ウルヒ。オレ、どうしたらいい。人間、傷つけられない」

「あんの糸目野郎! それも織り込み済かい! シュカの性格、熟知してやがるっ」


 ここまで順調に進んで来たのも、ここで終末の獣に対峙(たいじ)したのも。


「奴の、手のひらの上だった!!」

 

 ウルヒの背中を、絶望が(むしば)んでいく。

 シュカならば、魔王さえも受け入れるだろう。()()()()()()

 

「カルラ……」


 ウルヒの顔の脇で、少女の姿をした風の精霊カルラは、緑がかった翼をはためかせて飛びながら、腕を組んでいる。

 

『ウルヒ。あれはリヴァイアサンの比ではない。倒すには魔王の力が必要だ』

「違う! あんなの、人間じゃない!」

『元は人間だ。しかも体内にはたくさんの人間の魂を取り込んでいる。制約は、強い』

「そんな……」

『大丈夫。魔王の心は、十分に育っている。それに精霊は、永遠に生きる。少し会えなくなるだけだ』

「いやだ。いやだ! あなたは、あなたは……」

『緑竜の加護がある。風を操るのに問題はない』

「いやだ、やめてよ! ひとりにしないで!」

『ひとりじゃない。ワレが居なくなれば……ヨルゲンと共に年が取れるぞ。はは』

「いやだあああああああああ!!」


 魔王に課せられた風の制約を消すため、カルラは自ら――


『風は、自由だ。また会える』


 体内に力を集めて――


『ああそうだ。ウルヒ。昔あの音石から聞こえた、()()()()()()。ヨルゲンと話して、決めた』

「え」

『お陰で、だいぶ力が弱まってしまった。ハハハ』

「そ、んな。精霊は、嘘をつけないのに……」

『どうしてもウルヒを、精霊王にしたかったワレのワガママだ。許せ。これはその、贖罪(しょくざい)だ』


 ジャムゥの体の中に、飛び込んだ。


「ああああああああぁぁぁ!!」

「ウルヒ……ごめん……」


 胸の中にカルラを受け入れたジャムゥの目から、涙が溢れている。


「オレのせい」

「ちが、ちがうぅ~~~」


 突然の別れに、ウルヒは子どものように泣きじゃくる。


「……オレが、助けるから」

「!?」

「魔族と精霊、元は同じ。大丈夫だ。だからまず、人間助ける」

「ジャムゥ……」


 ぞわり、と駆け抜ける寒気に、ウルヒの悲しみはあっという間に呑み込まれ、涙は止まった。



 ――ズ、ズズズズ……



 ジャムゥの体が二回り大きくなる。頭頂には、黒い角が二本。黒い爪は鋭く伸び、黒と紫のオーラがぐるぐると体の周りに漂っている。

 それはかつて目にした魔王と、同じ姿だった。



「ウルヒを泣かせない。笑わせる」

「ジャムゥ?」

「また、抱きしめて欲しいからな」

「っ! うん、うん!」

 


 赤い目でにやりと笑った後で空へ向けて開いた手のひらの上に、闇の魔力球ができる。


「魔王ジャムゥの名のもとに命ず。魔族どもよ、あの醜悪な人間を、蹂躙(じゅうりん)せよ」



 空に地上に。

 魔王の声に呼応した魔族たちが産まれていく――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ