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悪役令嬢は時をかける幽霊  作者: ヴィクトリアン・エーテルハート
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 6.霊影の時間遊戯

エリゼは、星が薄れ始めた早朝の静けさの中で、新たな一日に臨んだ。彼女の霊体は、まだ見慣れない自由を漂っていた。昨日までの彼女なら、この時間を日の出を見るか、庭園での朝の散歩を楽しむ時に使っていただろう。しかし今日、彼女は時間を自在に行き来するという新たな能力を理解し、探求することに集中していた。


彼女は宮殿の広いホールに立ち、深呼吸をするように意識を集中させた。そして、彼女は昨夜の宮殿の夜を思い描き、その光景が目の前に現れるのを感じた。暖炉の火が再び輝きを増し、壁の絵画が夜の影から解放されて色彩を取り戻した。この能力はエリゼにとって新しく、まだ制御が完全ではなかったが、彼女はこの不思議な力に魅了されていた。


彼女は自分の部屋に戻り、かつて自分が持っていた愛用の本を手に取ろうと試みた。時間を遡って、その本が新品だった頃の状態を思い出すと、本のページがふっと開いたような錯覚を覚えた。しかし、彼女がページをめくろうとした瞬間、本は再び閉じてしまい、彼女の手は本を通り抜けてしまった。


時間が流れるにつれて、エリゼは自分の能力をさらに探求しようと決意した。彼女は宮殿の過去の光景を一つ一つ思い描き、そこに干渉しようと試みた。彼女が集中すると、過去の宮殿の日常が、まるで生きているかのように、目の前で展開された。エリゼはその中で、自分がまだ生きていた頃の家族との幸せな朝食の時間を見つけ、一瞬だけその中に自分を挿入してみた。


家族の笑顔、温かい朝食の香り、そして彼女自身の存在。彼女はその時間に入り込み、家族の笑顔を一瞬だけ明るくした。しかし、彼女の行動は予期せぬ結果をもたらした。彼女が時間に干渉したことで、現実に小さな波紋が生じたのだ。朝食のテーブルに置かれていたカップが揺れ、突然倒れてしまった。家族は驚き、誰も触れていないのにカップが倒れた原因を探った。


正午になると、エリゼは自分の行動が現実に変化をもたらす可能性に気づき、自分の能力に対する理解を深めた。彼女は時間を操作する力が、ただの過去を覗くことだけでなく、現実に微妙な影響を及ぼすことができるということを理解した。


彼女はこの力を慎重に使う必要があると感じ、自分の行動が未来にどのような影響を与えるかを考えるようになった。彼女は霊体として、家族に害を与えたくないという一心で、自分の力の範囲と影響をより良く理解しようと努めた。彼女はその日の残りを、宮殿で起きるさまざまな現象を観察し、自分の力の理解を深めるために使った。エリゼは、自分が引き起こす可能性のある全ての結果を予測し、家族にとって最善となるように行動する方法を見つけようとした。


正午の鐘が静かに響き終えると、エリゼは宮殿の中心に立ち、深く時間の流れを感じ取りながら、自分の能力の使い方を探求し始めた。彼女は正確に時間の流れをつかむために集中し、まずは自分が生前楽しんだ瞬間に思いを馳せた。


彼女が目を閉じると、宮殿の庭園が春の花盛りに変わった。花々が満開で、彼女はその中を歩く自分の幻影を見た。彼女の意識が幻影に触れると、花びらがふわりと舞い上がり、彼女が通った後には軽やかな香りが漂った。実際には何も変わらない宮殿の庭園だが、彼女の介入により、誰かがふと春の記憶を思い出すような変化が起こった。


午後が過ぎるにつれて、彼女は自分の能力をさらに試してみた。彼女は宮殿の壁に掛かる肖像画の前に立ち、その中の人物たちが昔語りをする姿を想像した。彼女が集中すると、肖像画の中の人物たちが微笑むかのように見え、彼女は彼らの生きていた時代の宴会の喧騒を耳にした。


夕暮れ時、エリゼは宮殿の食堂に向かい、夕食の準備が進む様子を見守った。彼女は昔、食堂で家族と共に過ごした楽しい晩餐の記憶を思い起こし、その感覚を取り戻そうとした。彼女の集中によって、食堂の空気が一変し、暖炉の炎がぱちぱちと音を立て、食器がきらきらと光り輝くように見えた。仕え人たちがふと昔の晩餐会を思い出し、一瞬だけ笑顔を浮かべた。


夜が訪れると、エリゼは宮殿の図書室に足を運んだ。彼女は長い時間を過ごしたこの場所が持つ知識と静けさを愛していた。彼女はそこで多くの本を読み、父と学んだ歴史について語り合った。彼女はその記憶を再現しようとした時、書棚の一部がふわりと揺れ、本のページが風になびくような音が聞こえた。


夜更けまでに、エリゼは自身が過去に愛したものや場所に、思いを馳せながら干渉することで、宮殿に小さながらも穏やかな変化をもたらすことができると理解した。彼女は自分の存在がもたらす微細な変化を通じて、まだ宮殿に居場所があると感じた。


しかし、彼女は自分の力に完全には慣れておらず、未来への影響を完全には理解していなかった。夜が深まるにつれ、彼女は自分の力が宮殿や家族にどのような影響を及ぼす可能性があるのかを慎重に考える必要があると感じた。彼女はこの新しい存在として、どのように自分の過去と未来を繋ぐことができるのか、静かに考えを巡らせた。彼女は自分の能力を使って家族に慰めを与え、宮殿に温かな記憶を残す方法を見つけたいと願い、その夜を過ごした。


一方その頃、宮殿の日常はエリゼの微妙な干渉によって、予期せぬ出来事に見舞われていた。家族はそれぞれ、この不可解な現象に気づき始め、驚きと不安を感じていた。


エリゼの母は、庭園を通りかかると、いつもとは違う花の香りがすることに気づいた。普段はこの時期に咲かないはずの花から、甘く心地よい香りが漂ってきた。彼女は周りを見渡したが、その花はどこにも見当たらない。母は混乱し、もしかしたらエリゼが残した何かではないかと、心の中で問いかけた。


弟は自分の部屋で、以前エリゼが使っていた楽器がひとりでに音を出すのを耳にした。彼は楽器に近づいて慎重に触れてみたが、何も異常はなかった。しかし、彼が部屋を出ると再び同じメロディが流れ始めた。彼は恐れを抱きながらも、もしかするとこれが姉のしわざなのではないかと考えた。


父は図書室で変わったことに気付いた。何冊かの本が、彼が置いた覚えのない場所に開かれていた。それらはエリゼが生前読んでいた本で、父はエリゼを思い出しながら、彼女がまだそこにいるような感覚を覚えた。不思議と安心する一方で、一体何が起きているのかという疑問が彼の心を駆け巡った。


夕食の時、家族は共に食堂で静かに食事をしていた。しかし、誰も触れていないにも関わらず、食器が軽く揺れたり、カップが突然倒れたりする現象が起きた。家族は一瞬で沈黙し、互いの顔を見合わせた。彼らは誰がこんないたずらをするのか理解できず、不安にかられた。


夜が更け、家族はそれぞれの部屋に戻っていった。しかし、宮殿の至る所で小さな奇妙な出来事が起こり続けた。肖像画の目が動いたかのように見えたり、風のない日に窓のカーテンが揺れたりする現象があった。家族はそれぞれの方法で理由を探ったが、どれもこれといった答えは見つからなかった。


家族は、これらの不可解な出来事がエリゼの霊が彼らに何かを伝えようとしているのではないかと感じ始めた。しかし、その意図を理解することはできず、彼らは不安と恐怖に包まれたまま夜を過ごした。静かな夜の中、家族は亡きエリゼがまだ彼らのそばにいることを感じ、彼女の霊が家族を守ろうとしているのか、それとも何かを伝えたいのかを知りたいと願った。


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