5.幽霊エリゼの太陽と影
新たな朝が宮殿に訪れ、エリゼは自らの霊体としての初めての日の光を浴びた。彼女は庭園を漂うように歩き、朝露に濡れる花々を眺めた。昨日までの彼女ならば、この花々に水をやり、彼女の世話を必要とする小鳥たちに餌を与えていただろう。しかし今、彼女はただの傍観者で、彼女の手が水差しに届くことはなかった。
太陽が高く昇るにつれて、エリゼは宮殿の中をさまよった。彼女は自分の部屋を訪れ、昨夜の自分の映らない姿に再び直面した。鏡の前で手を振ってみると、映像はなく、ただのガラスだけがあった。彼女は自分が触れることができないこと、声が届かないこと、そして人々が彼女を感じることができないことに、再び心を痛めた。
時間が経過するにつれて、エリゼは自分の新しい状態に違和感を覚え始めた。彼女は、自分が物理的な世界とどう関われるか試した。壁に手をかざすと、その手は壁を通り抜けた。ドアノブに触れようとすると、彼女の指はそれを捉えることができず、彼女はドアを通り抜けた。
彼女が庭園をさまよっていると、風が彼女の髪をかき乱すことも、太陽の温もりを感じることもなく、それまで当たり前だった感覚が消失していることに気がついた。自然との一体感を失った彼女は、自らの存在を疑い始めた。
正午が近づくにつれ、エリゼは自らの能力の境界を探求し続けた。彼女は宮殿の最上階から地下の貯蔵室まで、自由に移動できることを発見した。その過程で、彼女は時間がおかしな挙動を見せることに気がついた。彼女が意識を集中すると、時には昼の光が突如として夕暮れに変わり、時には夜が一瞬で明けた。
エリゼは驚きながらも、この新しい力を実験し続けた。彼女が集中すると、時間が流れるスピードが変わり、彼女は一瞬のうちに過去のシーンや未来の光景を垣間見ることができた。彼女はこれまでに体験したことのない自由を感じ始めていた。
彼女はこの能力に困惑しつつも、時空を自在に行き来できることの意味を理解しようとした。彼女は、自分がただの霊体であるだけではなく、時間そのものに影響を及ぼすことができる存在になったことを悟った。しかし、この力をどう使えばいいのか、何のためにこの力が与えられたのかについては、まだ答えを見つけることができなかった。
正午になり、宮殿の鐘が鳴り響くと、エリゼは自分が立っている庭園の中で、時間が一瞬止まるのを感じた。彼女は、自分がこの世界と異なる方法でつながっていることを知り、その日の午後、彼女は自分の新しい能力を理解し、自分の運命にどう向き合っていくべきかを模索することにした。
正午の鐘が鳴り止んだ後、エリゼは自分の新しい能力について探求を続けることに決めた。彼女は宮殿の中をさまよい、自分がかつて愛した場所を訪れた。彼女は自分の時間を行き来する能力を試すため、一つの場所に集中し、その場所の過去の記憶に心を寄せた。
彼女が目を閉じると、宮殿の庭が変化し始めた。彼女の記憶の中で、かつての舞踏会が繰り広げられていた庭が、目の前で再現され始めた。音楽が聞こえ、笑い声が響き、幸せな時を過ごしていた家族の姿が浮かび上がった。彼女はそこにいる人々に触れようと手を伸ばしたが、彼女の手は空気を切り裂くだけだった。
エリゼは目を開けると、再び現在に戻っていた。彼女はこの能力に圧倒されながらも、自分に何ができるのかを知りたいという好奇心を抱いた。彼女は自分の部屋へと向かい、自分が生きていた時の物品に触れてみた。彼女の手が本や衣服を通り抜ける中、彼女は時間を操作する力をもっと理解したいと強く願った。
日が暮れてくると、エリゼは夜の宮殿を探索した。彼女は自分の力を使って、夜の宮殿を昼間の姿に変えてみたり、逆に昼間の宮殿を一瞬で夜に変えたりした。彼女は時間の流れに干渉できることを楽しんだが、それがなぜ可能なのか、どうやってコントロールできるのかについてはまだ理解できなかった。
夜の空に星が輝き始めると、エリゼは庭園に立ち、空を見上げた。星々が彼女に何かを語りかけているように思えた。彼女は星々と同じように、時間という無限の流れの一部であると感じた。彼女は時間の流れの中で自分の位置を確認しようとしたが、自分がどこに存在しているのか、どのように存在しているのかを把握することはできなかった。
夜が深まるにつれて、エリゼは宮殿の中で眠りにつく家族の姿を見つめた。彼らは平穏な眠りについているように見えたが、エリゼは彼らが自分の死で感じている悲しみを知っていた。彼女は彼らのそばに留まり、静かに彼らを見守った。彼女は家族に触れることはできなかったが、彼らのそばにいることで少しは安心できると感じた。
その夜、エリゼは自分が体験しているこの新しい現実に少しずつ慣れてきた。彼女はまだ自分の運命を完全には受け入れていなかったが、少なくとも自分がこの世界と何らかの形で関わっていることを知り、それを受け入れ始めた。彼女はこの新しい力が彼女に与えられた理由を探求し続けることを決意し、宮殿の静かな夜の中で、自分の次の行動を考え始めた。
星々が静かに宮殿を見下ろす夜、エリゼは幽霊としての新しい存在にもかかわらず、眠りにつくことを選んだ。彼女が閉じた目の裏側で、生前の楽しい記憶が映画のように再生され始めた。
夢の中で、エリゼは夏の日の庭園にいた。日差しは暖かく、彼女の肌に心地よい熱を感じさせた。彼女は家族と一緒に庭で開かれたピクニックに参加していた。笑顔があふれる中、彼女は馬に乗って広大な草原を駆け巡っていた。風は彼女の髪をなびかせ、彼女は自由と生命の溢れる喜びに満ち溢れていた。
彼女は弟と一緒に隠れんぼをして、彼が見つけ出せない完璧な隠れ場所を見つけていた。彼女の笑い声が、木々の間に響き渡り、その声は鳥のさえずりと調和していた。彼女が遂に見つかった時、二人は草の上で転げ回り、純粋な喜びに包まれていた。
夢の中のエリゼは母と一緒に庭で花を植えていた。彼女は母から花の種を受け取り、それを大切に土に埋めた。母はエリゼの髪を優しく撫でながら、その花が成長するのを見守ることの喜びを教えてくれた。彼女たちは一緒に手を汚しながら、将来の美しい庭を想像していた。
父との思い出も夢に登場した。父とエリゼは図書室で歴史について学んでいた。父は古い地図を広げ、冒険の話をしてくれた。エリゼは父の話に魅了され、彼女の心に冒険への憧れが芽生えた。彼女は父と一緒に世界の不思議を発見することに興奮を覚えた。
そして、夢の中でエリゼは舞踏会の夜に戻っていた。彼女はドレスを着て広間を歩き、人々の賞賛の声に微笑んでいた。彼女は友人たちと踊り、その夜は永遠に続くように思えた。彼女は生き生きとしており、その瞬間に完全に没頭していた。
エリゼの夢は、幽霊としての彼女に、生前の幸せな瞬間を再び味わう機会を与えてくれた。彼女は、その夢の中で感じた感覚や感情が、現在の彼女にもなお残っていることに気づいた。夢から覚めたとき、彼女はその記憶が今でも彼女の中で生きていること、そしてそれが彼女を繋ぎとめてくれる何かであることを感じた。夢は彼女に、過去を懐かしむだけでなく、今を受け入れ、新しい存在として前に進む力を与えてくれた。