表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は時をかける幽霊  作者: ヴィクトリアン・エーテルハート
2/10

 2.時の前奏

エリゼ・フォン・エーデルワイスが幽霊へと変わる運命の日の前日、宮廷は異様な静けさに包まれていた。朝霧が庭園を覆い、太陽がぼんやりとその霧を金色に染めていた。エリゼはこの日を迎えることに、不思議な安堵を感じていた。彼女は、今日が普段とは何かが違う、特別な一日になることを知っていた。


朝食の席で、エリゼはいつもより少し多めに食事をとることにした。その理由は彼女にしか分からない秘密だった。食事が終わると、彼女は父にお茶会の準備を手伝いたいと申し出た。これは彼女にとって珍しい行動だったが、実は彼女の計画の一部だったのだ。お茶会の準備の中で、エリゼは何気なく、宮廷の中での人々の噂話を耳にする。特に一つの噂が彼女の注意を引いた。それは、宮廷の外で発見されたという謎の遺物についてのものだった。


昼食前、エリゼは図書室を訪れ、その遺物について調べ始めた。彼女は本から本へと手を伸ばし、古い文献をめくりながら、遺物の起源を探った。そして、ある古い伝説にたどり着く。それは、時の流れを司るとされる古代の時計にまつわる伝説だった。伝説によれば、時計は一定の周期でその力を発揮し、持ち主に時間を操る力を授けるという。エリゼは心の中で、もしも自分がその時計を手に入れられたら、と思いを馳せた。


昼食時には、彼女はその伝説を頭から振り払い、家族と共に食卓についた。彼女は、いつも通りの態度で振る舞いながらも、内心ではその伝説の時計について思案を巡らせていた。食事が進むにつれ、彼女は一計を案じた。もしもその時計が実在するなら、それを手に入れることで、自分の運命を変えることができるかもしれない。そして彼女は、昼食が終わると同時に、その伝説の時計を探し出す冒険に出る決意を固めたのだった。


昼食が終わるとエリゼは、何気ない会話と共に退席した。彼女の心は、古代の時計の伝説に囚われていた。彼女は家族には内緒で、図書室に残された謎の文献を更に調べ上げることを決めた。


彼女が図書室の扉を静かに閉めた時、腕時計がくるりと逆回転する奇妙な現象に見舞われた。時間が逆行する感覚に戸惑いながらも、エリゼはそれがただの偶然ではないことを直感した。彼女は、この腕時計が何らかの形で伝説の時計と繋がっているのではないかと考えた。


午後は、図書室の奥深くにある古い書物の中で、その秘密を探るべく読書に没頭する時間だった。ページをめくる手は熱を帯び、ついには、時計の存在を示す暗号のような記述を見つけた。それは地下の忘れられた広間へと続く隠し通路の存在を示唆していた。


エリゼはその通路を探し出し、地下広間へと降りた。ここは、家族さえも忘れていた宮殿の古い一部で、幾世紀もの間、誰の目にも触れることがなかった。埃に覆われた古い時計がそこにはあった。薄暗い灯りの下、彼女は時計の文字盤に触れ、その冷たさを感じた。そこで、時計は突然彼女の手の中で動き出し、その針が正確な時間を刻み始めた。


エリゼは時計を懐中に忍ばせ、晩餐に間に合うように地上へと戻った。彼女は晩餐会の間、その時計の秘密を心に留めながら、家族や来賓と軽妙な会話を交わした。彼女の心は高鳴り、時計が彼女に運命を変える力を与えてくれることを願っていた。


しかし、彼女が気づかなかったのは、その時計が宮廷内の秘密の力学をも変えてしまうことだった。晩餐が進むにつれ、宮廷の者たちの間で微妙な変化が起き始めていた。皆の行動がわずかに変わり、会話の内容がずれ始めたのだ。


晩餐が終わりに近づくと、エリゼは不思議な疲労を感じていた。部屋に戻ると、彼女は時計をじっと見つめた。明日の舞踏会で、この時計がどのような力を発揮するのか、彼女は想像もつかなかった。しかし、彼女はそれが自分の新しい人生の始まりであることを感じていた。そして、その夜、エリゼは時計の秘密と共に眠りについた。 


夜が深まり、エリゼ・フォン・エーデルワイスは宮殿の自室で静かな眠りに落ちた。彼女の夢は、時計の秘密に導かれるかのように始まった。


夢の中で、エリゼは宮廷の庭園に立っていたが、この庭園は彼女が知るものとは異なっていた。それは時の流れが幾重にも重なり合う場所で、花々は瞬間ごとに咲き、枯れ、再び生まれ変わるサイクルを繰り返していた。空には二つの月が浮かび、一方は輝きを増す一方、もう一方は徐々に欠けていく不思議な光景が広がっていた。


彼女の手には、夢の中でもその古代の時計がしっかりと握られていた。時計は輝く文字盤から光を放ち、その光は道を照らし、エリゼを宮殿の奥深くにある未知の部屋へと誘った。彼女が部屋に入ると、中央には巨大な石造りの時計台がそびえ立ち、その周囲を無数の歯車が複雑に絡み合っていた。


時計台の針は、まるで何かの開始を告げるかのように、深夜の十二を指していた。エリゼが近づくと、時計台は動き出し、壮大な音楽のような響きを宮殿中に響かせた。その音は、時間そのものが生まれ変わる旋律のようだった。


そして、時計台から放たれた光がエリゼを包み込むと、彼女は異なる時代へと飛ばされた。そこは、騎士が馬に跨り、人々が中世の衣服を身にまとう世界だった。彼女はそこで一人の騎士と出会い、その騎士はエリゼのことを何故か知っていた。彼はエリゼに、時計の力を解放するための鍵が彼女自身の中にあると告げた。


彼女がその意味を問いただそうとしたその時、突然、騎士は霧の中に消え、エリゼは再び庭園に立っていた。しかし、この庭園は彼女が知る宮廷のものではなく、彼女が未だかつて足を踏み入れたことのない異世界の庭だった。


エリゼが目覚めた時、彼女はその夢の記憶を鮮明に覚えていた。彼女は知っていた、この夢がただの幻ではなく、何か大きな意味を持つものだと。そして、彼女は舞踏会の夜、この夢がもたらす運命のメッセージを解き明かす決意を新たにした。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ