The Self‐Defense Forces 5
絵美二等兵が九条駐屯地に来て2週間程が経過した。ようやく、日本の裏事情基礎知識習得課業から解放されたばかりである。世間に言ったらどう思うか試してみたい内容も沢山あるから困る。例えば、日本有数のトップ企業が吸血鬼一族だとかとある有名な警備会社が人狼の巣窟だとか。果ては伏見稲荷に本物の九尾の狐が存在している等々挙げれ ば キリがないが、知らないだけで半妖は間に長い時間を掛けて浸透しているのである。人に害を為す者は各々の執行人によって粛清される運命にあり、ぶっちゃけ人が何もしなくても半妖は人と共に生きる為に共存の意思を明確にしている。人を食らう妖怪や害を為す人外魔境も陰陽庁によって退治や封印をされるので、九条駐屯地が稼働する事は滅多に無いはずなのだが、たまに稼働する事があるようで。
「今日も平和ですねぇ」
「それが一番だと思うけどなァ」
朝食を一緒に食べる遠藤貴志一等陸尉はそう答えた。
「それに、今ちょっと上の方で何かキナ臭い話してるから平和な日常を噛み締めといた方が良いよォ絵美ちゃん」
「何か、あるんですか?」
絵美の隣りに座る白木が催促した。
「今この場で言っちゃって下さいよ、遠藤さん」
「言えるもんならそうするっての。馬鹿白木ィ」
「前みたいに、自衛隊がフル装備で行く事案が発生中って事ですか?」
「そうかもしれないし、違うかもしれない。今はまだ分からん」
「前田二等陸尉は何かご存知ですか?」
髪の長い女性。以前絵美に質問してきた女性で同じ班である。最近名前を覚えたが、秋山知佳 という名前らしい。
「今の段階では何とも言えないよ。一波乱あるかもしれないのは事実だけどね」
遠藤貴志一等陸尉も目を鋭くさせる。余計な事は言うなという合図に前田も咳払いして、それ以降は何も言わなくなった。絵美は覚えた知識で麻痺しているが相手が妖怪だけではない事を後に知る事になる。
警察庁の中の一室。政府高官と警察庁の人間で、話し合いが行われていた。掴んだ情報をどう処理するかで少し揉めている。
「魔術師の技術の流入を防ぐ為にも、妖怪一族を捕まえる訳にはいきませんか」
「彼等一族は長い間この日本に益をもたらした功績は十分にある。それより問題は、この情報の出所とその技術を逆にテロリストに奪われる可能性がある事です。幸い、九条駐屯地に自衛隊がおりますので、この件はテロから国を守る自衛官の役割であると思っております」
「話にならんな。いつからこの国は法治国家では無くなったのです。犯罪者を捕える警察が動かなくてどうしますか」
「警察は、警察の役割を持てばいいのです」
「テロの相手は、警察ではないと?」
「では仮に、優秀な警官が10数名米国に渡ってそのままの装備で警護職に就いたとしましょう。果たして一年後、何人生還出来ると思いますか」
「・・・・・・・・・・・・」
「某国に切り替えても良い。武装の問題は私の中でそれほど深刻な問題だと思いますよ。サブマシンガンを持った統率の取れた集団に6発しか撃てぬ銃を所持する警察官がどれほど役に立ちますかね」
「その問答、現在進行形で我が国家の安全を覆しますよ」
「時代が揺れているのです。そう認識して頂かねば」
「警察官がサブマシンガンを持つ時代の到来が来るまでは我々はテロリストに無力だと?」
「適材適所に当たればいいのです。そんな時代が来ない未来が正解なんですから」
「後で我々が到着し、全て終わった所で身柄を拘束する。それでいいんですな」
「ええ、それで結構です」
政府高官がお茶を啜ると、美味いとお世辞を言って、その場をやり過ごした。