第六話 呪いの本と黒龍王ラグナロク
さて、ここはどこだろう。私は武器屋に行きたいんだが。マップとかないかな。
【ヘルプ マップ 街の本屋などに売っています】
えぇ...そもそも本屋がどこかすら分からないんだけど。まあそれならしょうがない。適当に歩いてみよう。
...約30分後
路地裏から抜けられない!広すぎる。どうなっているんだ。彷徨ってたらなんかすごい暗いところまで来てしまったし。さすがに何か救済措置あるよな?まさか死んで戻れってわけじゃないだろうし。
「オォ、お嬢チャン。こんなところニ何か用カナ?」
なんかすごい胡散臭い人が突然話しかけてきた!というか今どこから出てきた?暗いから見逃したのかな。とりあえず話しかけてみよう。
「えーと、私道に迷ったんですけど。どこに行けば大通りに出られますか?」
「大通リ?ココから反対の方向ダヨ。君もしかして方向音痴?目付いテル?」
なんだとう。むかつくやつだ。別に私は方向音痴というわけじゃない。
「まあイイヤ。そういうことナラ大通リまで送っていってあげてもイイヨ!」
なに?それはありがたい。が、こいつが胡散臭すぎる。こんなところでローブを着て仮面を付けて変な喋り方。それに先端が髑髏の杖。もしかして街から追放された悪の魔術師とかじゃないか?
「それはありがたいですけど...お礼とか何もできませんよ?」
「アァ、お礼なんてイイヨイイヨ。僕の慈悲の心を素直に受け取ってクレ」
怪しすぎる...が今はこの提案に乗ったほうが良いだろう。これ以上こんなところを彷徨うのはごめんだ。
「分かりました。お願いします」
「オォーホホホ、いい選択ダ!じゃあツイテキテ!」
なんだその笑い方。オォーホホホって...
...
「この先ヲちょっと歩くと大通リダヨ」
着いたか。今後は路地裏には入らないようにしよう
「ありがとうございます」
「イイヨイイヨ、困ったときはお互い様ってやつダロ!ジャアナ!」
あいつもめちゃくちゃ胡散臭かったけどなかなかいいやつだったな。
〔〈???の書〉を入手した〕
ん?なんだこれ。もしかしてこれクエストかなんかだったのか?とりあえず詳細を見てみよう。
〔〈???の書〉R:Ex 耐久‐/‐ 帰属:イート 譲渡不可 破棄不可
呪われている。実害は無いようだが不快。
『鑑定』結果『偽装』を突破しました
これ位ハ突破してくれないとネェ
持ち主の経験を吸って成長する。成長しきったとき何が起きるかは不明。
経験値-1%〕
は?なにこれ。呪われている?経験値-1%?あ、あいつ!次にあったらただじゃ済まさんぞ!憶えておけ!はあ。なんだか疲れたな。そろそろお昼だし一旦ログアウトしよう。
【ヘルプ ログアウト ログアウトする場合は「ログアウト」と声に出すか頭の中で思い浮かべてください】
「ログアウト」
〔お疲れ様でした〕
...
「ログイン」
ふう。今日のお昼ご飯も美味しかった。じゃあ続きをやろう。とりあえずまずは本屋に寄って地図を買おう。本屋はどこかな。お!わりと近くにあるじゃないか。行こう。
「すいません、この街の地図ってありますか?」
「うん?地図かい?そこの棚に積んであるよ」
ここか。お、この街の地図だ。値札がついている。700ゴールド。金が足りない。ばかな。
【ヘルプ ドロップアイテム 魔物からドロップしたアイテムは用途に対応した店で売ることができます】
そうか、アイテムを売れば良いのか。今もっているのは...〈スライムの皮〉4個と〈スライムの肉〉7個か。こんなの買ってくれる店あるのか?そうだ、聞いてみよう。
「すいません、スライムのドロップアイテムってどこに行ったら売れるんですか?」
「え?地図買うんじゃないのかい?」
「お金が足りませんでした」
「そ、そうかい。それで、スライムのドロップアイテムかい?そんなのを買い取ってくれるとこなんて冒険者ギルドくらいじゃないかね」
冒険者ギルド。そういえばファンタジーの定番だな。完全に忘れていた。
「ありがとうございます。それで、冒険者ギルドってどこですか?」
「大通りを真っ直ぐ進めば着くよ」
「そうですか...わかりました。いってみます」
「金が出来たらうちの商品を買ってくれると助かるんだがね」
「は、はい。買いに来ます」
店主さんが親切な人で助かった。
【チュートリアル 冒険者ギルドに登録しましょう 冒険者ギルドの説明は受付で聞いてください 報酬:〈武器強化結晶〉1個】
しばらく大通りにそって真っ直ぐ歩くと剣と杖が交差した看板の着いた建物が見えてきた。あれが冒険者ギルドだろう。中に入るとすぐに見知った顔の人間が話しかけてきた。「デイナムート」の客だ。
「おっ、英雄じゃないですか。英雄もドラゴン討伐ですか?」
ドラゴン討伐?どういうことだ。いったい何の話をしている?私はただ冒険者登録をしにきただけだぞ?そう話そうとすると別の冒険者が話しかけてくる。今度は知らない顔だ。
「どうしたんだ?グラッド。英雄とか言ってたが有名な人なのか?」
「ああ、カイナートさん。この方は「デイナムート」でサハギンの姿焼きをすごい勢いで完食した人です」
「あれを!?えええええ!あれを!???」
よっぽどの衝撃だったのか大声で叫んでいる。うるさい。
「そ、それはすごいな。英雄と呼ぶに相応しい。私からも称えさせてくれ」
そんなになるほどのことだろうか。NPCならまだしもプレイヤーなら満腹感を我慢すれば良いだけなのだから簡単だと思うのだが。腹が破裂するわけでもないし。
「それでさっきの話に戻るんですが。いままで見たこと無いってことはドラゴン討伐のためにこの街に来てついでにあれを食べて行ったってことでしょう?」
違うんだけど。そう言おうとするとカイナートさんが話しかけてくる。タイミング悪いな。
「そうだったのか。それなら私からギルドマスターに取り次いでおこう。付いてきてくれ」
いや違うって!ここで反論しておかないとちょっとまずいことになりそうだ。
「いや、違うんです。私はドラゴン討伐に来たわけじゃなくて...」
「なに?まさかサハギンの姿焼きを食べるほうが本命でドラゴン討伐はついでということか?な、なんという...流石だ」
「そ、そういうことだったんですかい!さすが英雄だ!」
なにいってんだこいつら。周りの冒険者も興味をもったみたいで近づいてきたし。これはどう収集つけたら良いんだろうか。とりあえず主張を続けよう。
「い、いや私は冒険者登録に来ただけで...」
「ああ、そういうことか。大丈夫だ。冒険者登録していなくてもドラゴン討伐は参加できる。この街の一大事だからな。実力のあるものなら出自は問われないよ」
そんなに危険なところ行きたくないんですけど。まあでもとりあえず話だけでも聞いてみよう。ギルドマスターとか言ってたし私の実力を見抜いて止めてくれるでしょ。
「分かりました...そういうことなら」
「よし。それじゃあギルドマスターのところまで行こう。おっと、自己紹介をしてなかったな。私はカイナートだ。Bランク冒険者をやっている」
「私はイートです」
カイナートさんに付いていくとギルドマスター室と書かれた場所に出た。
「ギルドマスター、新しいドラゴン討伐の参加希望者だ。名前はイートというらしい。入るぞ」
「おお、新しい参加者か。ありがたい。実力者は何人いてもいい」
ギルドマスターは想像と違って穏やかそうなお爺さんだ。もっと強そうな人が出てくるかとおもったのだが。しかしすべてを見透かすような澄んだ眼をしている。これなら止めてくれるだろう。
「ふむ。その方か。なるほど。まだ未熟なようだが英雄の片鱗を感じるのう。よかろう、ドラゴン討伐に参加してもらおう」
『英雄』(未熟)~~!ここで仕事するのか!まあここまで来たらしょうがない。覚悟を決めよう。失敗してもデスペナルティが付くだけだ。それに成功すればドラゴンの肉を食べさせてくれるかも知れない。
「それでは知っていると思うがドラゴン討伐クエストの説明をしよう。君たちにはこのフェアルグラン北のヴァナルガンド山脈に住み着いた黒龍王ラグナロクを討伐もしくは撃退してもらいたい。かの龍は遊び感覚で国を滅ぼす災厄。最低でも奴をヴァナルガンド山脈から移動させなくてはこの国に未来はない。この国で強いと言われる者を全員集めた。なんとしてでも成功させてくれ」
えぇ...なんだそれ。黒龍王ラグナロクって。絶対強い奴じゃん。普通のゲームだったらラスボスとか裏ボスとかになる奴じゃん。私が行ってなにか出来るわけがないと思うんだけど。まあ強い人たちがたくさん来るらしいし私は隅のほうで見てようかな。
「決戦は3日後だ。そのときまで力を高めるもよし。精神を統一するもよし。自由に過ごしてくれ。ああ、最後に一つ。Cランク以下の冒険者には黒龍王のことは伝えないでくれ。」
「分かりました」
いやあ、なんだか大変なことになっちゃったなあ。