第四話 街の料理屋と職業『英雄』
料理屋を探してしばらく大通りを歩いていると美味しそうな匂いがする店を見つけた。「デイナムート」というらしい。軽く覗いてみたがなかなか繁盛しているようだ。ここにしよう。
「いらっしゃいませー。一名様ですね。こちらの席へどうぞ」
ウエイトレスが席に案内してくれた。さて、何を食べようか。
「こちら、メニューです」
メニューを見ると現実にあるものは大体有る。値段も今持っている1000ゴールドで払える金額だ。となると現実では食べられないVRゲーム特有の食材を使った料理を頼みたいところだが。ん?このサハギンの姿焼きとはなんだろうか。説明はサハギンをそのまま焼いたものとしか書いていないし写真もないから分からない。サハギンとは今までやった大抵のゲームでは魚人型のモンスターなのだが、このゲームではどうなんだろう。気になるし頼んでみよう。
「あの、すいませーん」
「はい、注文お決まりでしょうか」
「このサハギンの姿焼きってやつをお願いします」
「え゛。サ、サハギンの姿焼きですか」
「はい」
「わ、分かりました。サハギンの姿焼きですね」
「お、おい、あいついまサハギンの姿焼き、つったか」
「あ、ああ。俺もそう聞こえたぞ」
なんだか店員と周りの客のの反応がおかしい。いったいどんな料理が出てくるんだろう。
「お待たせしました。サハギンの姿焼きです」
水を飲みながら待っていると料理がきた。どうやらこのゲームのサハギンは魚人型のようだ。丸焼きになっていい匂いのするサハギンが皿の上に直立不動になっている。魚が立っているようで気味が悪い。サハギン自体大き目の子供くらいなのですごい迫力だ。現実では絶対に見たことがない。しかしこれはどうやって食べればいいのだろうか。
「あれがこの店のチャレンジメニューの一つ、サハギンの姿焼きか。初めて見たぞ」
「あの子勇者だな。まさかチャレンジメニューを頼むなんて。見たことない顔だがこれに挑むためにわざわざこの店まで来たのか?」
どうやらこの店にはチャレンジメニューというものがあるらしい。それならメニューに書いておいてほしいものだが。
「えーと、サハギンの姿焼きはこのナイフで切り分けてフォークで食べてください。一見硬そうに見えるところも食べられるようになっておりますので安心してお召し上がりください」
「はい。分かりました」
なんだか私の武器より強そうなナイフを受け取っておそるおそる指のあたりを切ってみる。
「いただきます」
ザクッ ぱくり もぐもぐ
切った感触は意外と軽い。そして美味しい。魚の濃厚な旨みが口の中で襲ってくるようだ。しかも驚いたことに生臭さがまったくない。
「あれ食ってるぞ、スゲーな。Bランク冒険者の人でも無理だったのに」
「それ知ってるぜ。カイナートさんが罰ゲームで食わされそうになって泣いて土下座したやつだろ」
今度は鰭の部分を食べてみよう。ん。サクサクしていて美味しい。部位ごとに味や食感が違うのでいくらでも食べられそうだ。それじゃあ目玉を食べてみよう。プリプリしていて美味しい。次は脳だ。トロトロしていて美味しい。それに包丁が入ってるような痕跡もないのに味が付いている。上半身。グニグニしていて美味しい。心臓。コリコリしていて美味しい。胃。ふわふわしていて美味しい。肝臓。ねっとりしていて美味しい。腸。つるつるしていて美味しい。下半身。パリパリしていて美味しい。骨。カリカリしていて美味しい。
「ふう、美味しかった。ご馳走様でした」
〔称号『大食い』『悪食』を取得しました〕
「完食した!すげえええ!」
「あんたスゲーよ!あれを食べきるなんて!」
「英雄の誕生だ!」
「「「英雄!英雄!英雄!」」」
〔称号『デイナムートの英雄』を取得しました〕
えぇ...なんだこれ。と、とりあえずここは居心地悪いしどこか静かなところで称号を確認しよう。
「お会計500ゴールドになります」
「はい」
良心的な価格だ。この街の物価とかよく知らないけど。
「英雄ー!また来てくれよ!」
「またな!英雄!」
「またのご来店お待ちしております」
◇◇◇◇◇
ふう。何とか落ち着けた。あの店から逃げるように出てきたからなんか路地裏みたいなところに来てしまったけど...まあいいか。称号の確認をしよう。
〔称号 『世界に降り立ったもの』
『毒味』
『大食い』
『悪食』
『デイナムートの英雄』〕
【チュートリアル クリア 〈武器強化結晶〉1個を入手しました】
〔『世界に降り立ったもの』 世界に降り立ったものは敵対者を自分の力で打ち倒すことを選択した。
攻撃力上昇(微)〕
〔『毒味』 毒を食べた。”美味しいのか?”
毒耐性(微)〕
〔『大食い』 満腹になっても食べ続けた。”まだ足りない”
満腹度上限増加〕
〔『悪食』 食材カテゴリではないアイテムを一定量食べた。”よくそんな物を食べられるな”
食材カテゴリではない物を食べる際咬合力上昇〕
〔『デイナムートの英雄』 料理屋デイナムートで英雄になった。”ああも美味しそうに食べてくれると料理人冥利に尽きるってもんだ”
職業:『英雄』(未熟)解放 スキル:『デイナムート』獲得 デイナムート利用者の好感度上昇(中)〕
なんだこれ。まさかサハギンの姿焼きって食材じゃなかったの!?あんなに美味しかったのに!?まずそれが驚きなのに『英雄』(未熟)と『デイナムート』って何だよ!英雄って料理屋で料理食べただけでなれるものなの!?それにデイナムートって店の名前でしょ!?こんな短時間でここまで驚いたのは初めてだよ。はあ。もう驚き疲れたんだけど、後一つ職業『英雄』(未熟)とスキル『デイナムート』の詳細も確認しとかないとだよね。しかたがない、見るか。その前にキャラメイクの時は名前だけで決めたから詳細をよく見てなかったし『料理人』も見ておこう。
〔『料理人』 初期職業の一つ。
『料理』効果上昇(小)
攻撃力上昇(微)
自作料理を食べた人の好感度上昇(小)
自作料理のバフ効果上昇(小)〕
え?料理にバフなんてあったの?知らなかった。スライム食べたときもサハギン食べたときもなかったからてっきりこのゲームの料理人は不遇職なのかと思っちゃったよ。...まさか。私が食べたやつは食材アイテムじゃなかったからバフがかからなかったってこと!?そういえばスライムの鑑定結果にも食べられないって書いてあったな。ま、まあそんなことはどうでもいい。今度こそ覚悟を決めて『英雄』と『デイナムート』を見なければ。
〔『英雄』(未熟) 多くの人から英雄と呼ばれた者がなれる。今はまだ大部分が封印されている。
スキルを(5つ)選んで効果を上昇させる(極大)→(1つ)(中)
全能力上昇(大)→(小)
全ダメージ減少(大)→(小)
全状態異常耐性(大)→(小)
魔力回復力上昇(大)→(小)
生命力回復力上昇(大)→(小)
メインスロット開放(10)→(3)
住民からの好感度上昇(大)→(小)
スキル:『英雄(武器選択)』(未熟)開放
スキル:『限界突破』(未熟)開放〕
〔『デイナムート』 料理屋デイナムートは引退した冒険者が始めた店。安い値段でバフの付いた料理が食べられることで冒険者に人気です。
デイナムート全品1割引
デイナムート利用者の好感度上昇(小)
料理バフを一つ選んで永続にすることができる〕
また確認することが増えた。
〔『英雄(武器選択)』(未熟) 選択した武器の扱いを上手くする。
攻撃力上昇(大)→(小)
魔法攻撃力上昇(大)→(小)
魔力上昇(大)→(小)
L技:(使用不能)〕
〔『限界突破』(未熟) 限界を突破する。
発動時魔力を消費して一定時間(30分)全能力上昇(大)→(5分)(小)
効果終了時行動不能(3秒)付与→(10秒)
クールタイム24時間〕
強い。それしか言うことがない。本来の性能から見るとだいぶ弱体化しているがそれでも十分すぎるほど強い。こんな職業が料理食べただけで手に入るなんてインフレが激しすぎるだろう。このゲームの上位層ってどうなっているんだ。さて、偶然強い職業になる権利を得たわけだが...これはもう転職しないほうが失礼というものなんじゃないだろうか。
【チュートリアル 転職してみましょう メニューから職業をタッチしてください 報酬:称号『転職者』】
じゃあ転職しよう。
〔名前:イート
Lv:3
種族:人間
職業:英雄(未熟)
スキル:メインスロット:『料理(強化)』『火魔法』『水魔法』『鑑定』『採取』『釣り』『狩り』『解体』『毒耐性』『味覚上昇』『デイナムート』『英雄剣』(未熟)『限界突破』(未熟)
サブスロット:〕
うん、なんか力がみなぎってくる。
【ワールドアナウンスを流しますか? ワールドアナウンスとは全プレイヤーに届くアナウンスです 了承する場合ははいを了承しない場合はいいえを押してください {はい}{いいえ}】
はい?なにこれ。ワールドアナウンス?英雄ってワールドアナウンスが出るくらいの職業なの?じゃあ料理食べただけでなれるようにするなよ。うーん、それにしてもワールドアナウンスか。どうしようかな。まあ私にも有名になりたいって気持ちがないわけじゃないし。流しちゃおうかな。
【はいが選択されました。プレイヤーネームを公開しますか?{はい}{いいえ}】
プレイヤーネームか。まあここは勢いのままいっちゃいますか。はいで!
【はいが選択されました。ワールドアナウンスが流れます】
【ワールドアナウンス 人勢力プレイヤー『イート』が『英雄』(未熟)に転職しました】