第三話 美味しく食べよう。スライムの肉
しばらく歩いて門の近くまできた。混雑しているかと思ったがそうでもない。まあこれも謎技術なんだろう。門の傍まで寄るとすぐに衛兵さんに話しかけることができた。
「あ、外に出ます」
「おう、魔物が出るから気をつけろよ」
衛兵さんとのやり取りは簡素なものだったが外に出ることができた。そこそこ人がいて魔物と戦っている。わたしも魔物が出るまで歩いてみよう。
ポヨンポヨン
おおなんか半透明の水色のボールのようなものが出てきたぞ。これが魔物かな。鑑定してみよう。
〔『鑑定』結果
スライム Lv1 魔物 正常
半透明の色がついた球体。街の中以外のどこにでも現れる。物理攻撃に多少の耐性があるが殴れば死ぬ。肉は弱い毒があり食べられない。弱い。〕
おお、これがこのゲームのスライムか。弱いみたいだし倒してみよう。
ザクッ!
【チュートリアル クリア 称号『世界に降り立ったもの』を取得しました】
〔スライムを倒した Lvが3に上がった アイテムを取得するには解体する必要があります〕
【チュートリアル 称号を確認しましょう 「称号」と声に出すか頭で思い浮かべてください 行動やクエストの報酬として称号が与えられることがあります。称号には特殊な効果が付いていることがあります 報酬:〈武器強化結晶〉1個】
剣で斬っただけで倒せたな。本当に弱いな。まあ倒せたし解体してみよう。あ、スライムの死体に線が出た。この線に沿って切れば解体できるのかな?
〔〈スライムの皮〉5個と〈スライムの肉〉8個を入手した〕
ふう、なんとか上手くいったがなかなか大変だった。まあいいや。アイテムが手に入ったんだから食べてみよう。まずはスライムの皮からかな。皮っていう割にはたぷたぷしててボリュームが有るけどどんな味なんだろう。いただきます。
ぱくり もぐもぐもぐ ごくん
うーん。食感はプリンみたいだけど味が炭酸の抜けたやたら甘ったるいぬるいサイダーみたいなのがなぁ。あんまり美味しくないや。気を取り直してスライムの肉も食べてみよう。こっちは見た目からしてゼリーなんだよなあ。若干冷えてるし。
ぱくり もぐもぐもぐ ごくん
〔称号『毒味』を取得しました〕
まずい。ゼリーみたいな食感で冷たいくせになんで納豆の味なんだ。粘りとか無いからするする入ってくるけどそれがミスマッチだ。味と食感が合わなくて脳が混乱する。それになんだか生臭い。なんとか全部食べたが割りときつい。これを美味しくするにはどうすればいいのだろうか。とりあえず焼いてみようかな。
【チュートリアル 食材を焼いて料理をしてみましょう 有る程度の調理器具は〈汎用生産セット〉に入っています。生産用アイテムは生産以外のことには使用できない代わりに簡単に使えます 報酬:初級回復液のレシピ】
うわっなんか出てきた。そうか、食べるのに夢中で忘れてたけどこれゲームだった。じゃあ〈汎用生産セット〉、取り出してみようかな。
〔〈汎用生産セット〉R:1 耐久‐/‐ 帰属:イート 譲渡不可 破棄不可
有る程度の生産用のアイテムがまとめられているセット。セットの物を選んで取り出すことができる。以下内訳。
『汎用』〈生産用水生成魔法陣〉〈生産用加熱魔法陣〉
『調薬』〈生産用調薬道具〉
『料理』〈生産用調理器具〉〈生産用食器生成魔法陣〉〈生産用調味料(低品質)生成魔法陣〉
『鍛冶』〈生産用鍛冶道具〉〈生産用屑鉄(低品質)生成魔法陣〉
『錬金』〈生産用錬金魔法陣〉
『裁縫』〈生産用裁縫道具〉〈生産用糸(低品質)生成魔法陣〉〈生産用布(低品質)生成魔法陣〉
『木工』〈生産用木工道具〉〈生産用釘(小)生成魔法陣〉〈生産用枝(低品質)生成魔法陣〉〕
いろいろあるなあ。とりあえずやるのは料理だから取り出すのは〈生産用水生成魔法陣〉〈生産用加熱魔法陣〉〈生産用調理器具〉〈生産用食器生成魔法陣〉〈生産用調味料(低品質)生成魔法陣〉かな。
〔〈生産用水生成魔法陣〉
生産セットに最初から付属しているアイテム。魔法陣の上にコップや鍋などを置いて手で触れると水が満ちる。水量は調整可能。〕
〔〈生産用加熱魔法陣〉
生産セットに最初から付属しているアイテム。魔法陣の上に鍋やフライパン、金床などを置いて手で触れると加熱される。火力や加熱時間などは調整可能。〕
〔〈生産用調理器具〉
生産セットに最初から付属しているアイテム。フライパン、包丁、まな板、鍋の4つ。武器としては使えない。〕
〔〈生産用食器生成魔法陣〉
生産セットに最初から付属しているアイテム。手で触れると任意の食器が魔法陣の上に出てくる。数の制限がある。出てきた食器は食べ終わったら消える。〕
〔〈生産用調味料(低品質)生成魔法陣〉
生産セットに最初から付属しているアイテム。魔法陣の上に器を置いて手で触れると調味料が出てくる。生成可能(塩、油)〕
それじゃあ焼いて食べてみよう。フライパンに油を引いてっと。
ジュウウウ
焼くと普通の肉みたいな音だ。だが味に反して匂いは悪くない。むしろハーブの匂いがしてきた。?なんだか煙が出てきた。まだ色が変わっていないのだが焼きすぎただろうか。
「おいおいおい君、こんなところで毒煙を撒き散らさないでくれ!街の方まで来てしまうじゃないか!」
「衛兵さん!?す、すいません!好奇心が抑えられなくて!」
「とりあえずそれを捨てて詰め所まで来てくれ!」
「ええ!?捨てるなんてそんな、もったいないですよ!早く食べちゃうのでちょっと待っていてください。」
「食べるって君、それは毒だぞ?」
ぱくり もぐもぐもぐもぐ ごくん
熱い!だが焼いたことによってスライム肉の臭みが増している!それに食感もさっきまでのようにゼリーみたいじゃなくてゴムのようだ。なかなか噛み切れないしその間口が生臭いしさらにまずくなった。
「お、おい、大丈夫か!?毒だぞ!?」
「ふう。美味しくありませんでした」
「あ、ああ。そうか。まあ大丈夫そうならよかったが。それじゃあ詰め所まで付いてきてもらおうか」
「はい」
◇◇◇◇◇
詰め所まで連れてこられた。詰め所は門の横に入り口があるようだ。詰め所ではそこそこの数の衛兵さんがいた。
「お?グレン、その子どうしたんだ?さっき出てった子だろ」
「ああ、門からちょっと出たところでスライムを焼いて食っていたんだ」
「どういうことだ?スライムを?焼いて食ってた?何言ってるんだ?」
「そう思うよな。だが本当なんだ」
「えぇ...お前がいうなら本当なんだろうが。何を思ったらそんなことするんだ」
「それをこれから聞くところだ」
衛兵さんたちの話がひと段落したようだ。グレンと呼ばれていたほうの衛兵さんが話しかけてくる。
「まず自己紹介をしておこうか。俺はグレンだ」
「私はイートといいます」
「それで、なぜあんなことをしたんだ。あんなことというのはスライムを焼いていたということだが」
「スライムを生で食べたら美味しくなかったので焼いたら美味しくなるかなって」
「そ、そうなのか。スライムが毒をもってるって言うのは知っていたのか?」
「はい」
「焼いたら煙が出てくるかもとかは思わなかったのか?」
「思わなかったです、すいません」
「はあ、だがまあいいさ。反省もしているようだしな。それにスライムが持っている毒なんぞ喰らっても一瞬立ちくらみする程度のものだ。食べたらどうなのかは知らないが。今後は気をつけてくれよ」
「はい、考えが足りなかったです。すいませんでした。」
聴取が終わったと見たのか先ほどまでグレンさんと話していた衛兵さんが話しかけてくる。
「それで、焼いたスライムって言うのはどんな味だったんだ」
「ウィリアム、何を言っているんだ」
「だってスライムだぞ?気になるだろ」
焼きスライム肉かあ。
「すごく美味しくなかったです。生より生臭いし噛み切れないし」
「わはははっ!生より生臭いってどういうことだよ!意味わからん!面白れぇ!」
「おいおい、もう聴取は終わったんだ。あんまり変なことは聞くなよ。ああ、イート。終わったしもう出ていいぞ。もう衛兵の世話になるようなことはするなよ」
「はい、もうしません。ありがとうございます」
衛兵さんが親切な人でよかった。それじゃあ口直しに何か食べに行こうかな。