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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ショク

作者: 草間保浩

 ふと気づいた事があったんです。


 仕事の関係で片道1約時間を運転した帰り道には、いつもどこかに動物の死骸があって。


 近くに高速道路はあるし、法定速度60キロの道だから、轢かれやすいんだとは思うんですけど。


 最初は何の気無しに死骸を避けて道路を通った時のことです。


 そこそこの片田舎だから狸とかキツネとか、そういうのをよく見かけるんですよね。


 最初に気づいた死骸は鳥でした。


 カラスか、黒っぽい鳩かもしれないその死骸は、最初に頭部が破裂していて、そこを別のカラスに(ついば)まれていて。


 ピンと空に向かって立った一本の足が印象的で、運転中に見ただけなのに、変に記憶に残っています。


 実際、動物の死骸なんかは良く見かけるから、ショックを受けることも少ないとは思っていたんですが。


 それでも何故か目に焼きついたあのカラスから、始まりました。



 その日から連続して1時間の道程を行き来する事になって。


 なんかの資格を取るための講習だったのかもしれないし、関係会社への視察だったのかもしれない、よく覚えていません。


 カラスの死骸を見た次の日、今度は道端で死んでいる猫を見つけまして。


 SNSで見かける、警戒心の無い猫がお腹を上に向けて寝そべったような体勢で死んでいました。


 首が半分千切れかけていて、そこに一回り小さな猫が噛み付いて肉を食っていて。


 小さな猫は痩せていたし、腹が減っていたのかもしれないですし。


 もしかしたら親子なのかもしれませんが、確認のしようはないでしょう?


 可哀想だとは思いますが、社会人の悲しいところで、手助けもできず、用事のために急ぐことしかできませんでした。


 市かどこかの役員が死骸を回収しに来てしまったら、またあの猫はひもじい思いをするかと思うと、晩飯は喉を通らなかったし、寝る時にはその猫たちの姿を瞼の裏に見てしまいました。



 その次の日は少し遅くなって、辺りがやや暗くなってしまって。

 遠くには赤く光る太陽が見えているから、車のライトを点けるかどうか迷うくらいの明るさです。


 そんな赤い世界の中に、変な物を見かけて目を向けてしまいました。


 普通の犬って想像してみたら、口から下が白くて上が薄い茶色のハチ公?みたいなイメージですよね、そんな感じの犬が歩いていました。

 

 でも、口元が変に黒いんです。


 液体が固まったみたいな感じで張り付いていて、それが首輪のところまで滴っている感じで。


 最初は変な毛色の犬だと思ったけど、そうじゃ無いことに後で気づきました。


 その犬を見かけた所から50メートルくらい走ったところにあったんですよ。犬の死体が。


 歩道と車道を隔てる縁石に首が乗っかるような体勢で死んでて、流血が路側帯まで伸びて固まっていましたね。


 よくは見えなかったけど、やっぱり首とかお腹が怪我をした感じだったのかな。


 そこから数分走ったところで、あの犬の口元のことを思い出して、首輪をしていたこととか、そんなことを思い出してしまって、かなり気分が悪くなりました。


 

 その次の日には、猪が死んでいました。

滅多に見ない黒い塊と、それにぶつかって大破した車の事故現場に遭遇して、ぞくっと背筋が凍って。


 ウリボウがその猪に群がっているんですが、遠くから見ていた時はただの黒い塊だったのが、だんだん赤い物を流し始めて、避けようとした所を右車線の車にぶつかりそうになりました。


 しかも、そのせいで減速したから、その塊をまじまじと見てしまって。


 見たのは、そのウリボウと猪の他に、別の子供猪がいたことです。


 その猪は妊娠していたみたいで、その腹が水風船みたいになって、まだ猪になりきれてない赤い塊が、ウリボウたちに食われていました。


 それを見てしまってから、少し先のコンビニに駆け込んで盛大に嘔吐しちゃいました。



 その次の日には、わざと遅くに帰ることにして、辺りが暗くなるのを待ちました。


 月明かりと電灯と、車のライトだけが視界をまともに機能させるから、怖くは無かったんですけど。


 道以外は見えないですからね。


 でも、そんな甘い想定は裏切られてしまうんです。


 べちゃっ


 水気を含んだ固いものが当たる音。

助手席側のフロントガラスに、大きな水が降ってきました。


 それが何なのか気にする前に、目が合って。


球の形を失った目でした。


 何の動物のものかは分からないが、今はもうどうでも良い。


 ワイパーを動かすこともできず、法定速度も頭に無いくらいのスピードで家に帰りました。


 帰った時にはもう固形物は無かったけど、赤いシミがフロントガラスを汚していて、ホースで水を掛け続けたまま寝ました。



 あれから数日。

 

 休みの間はどこにも行かず、ひたすら家の中で本を読んだりネットを見たりで、少しでも連日のあれこれを忘れようとしていたんですが、月曜日にまた同じ道で同じ場所に行かないといけないわけです。


 ですからその日も用事を済ませて、なるべく早く帰ってしまおうと思っていました。


 そのせいか、車もかなりスピードを出していたと思います。


 はい、結局私は対向車と正面衝突してしまいました。


 あの時、対向車の人と目が合って、人の顔があそこまで驚きで歪むのかと本当に驚きましたよ。

 

 相手から見たら私もそういうふうに見えたんでしょうね。


 蛇足も多かったと思いますが、これが事故の原因です。


◇◆◇


「どう思います?」


「事故の影響で錯乱してるのかもしれないな。市の管理に連絡したり事故の記録を探ったが、猪なんか轢いた話は無かった。」

 

「やはり錯乱しているのか、嘘をついているのか。」


「運転していた目的については嘘をついていたな。」


「はい、山田〇〇、32歳、無職。受講中の資格も無く、そもそも運転免許以外の資格無し。そんな男が車で連日遠出です。」

「二週間ほど前から妻と子供三人は職場にも学校にも来ておらず、それにもかかわらず失踪届は無し。」


「結局目的地は言わなかったが、聞き出せる状態じゃ無いだろう。」


「はい。事故による全身の強打と両手足の複雑骨折。眼球破裂と頭蓋骨骨折。エアバッグの点検不足によるものらしいです。」


「事故の相手は父親母親息子の三人家族で全員即死。何故か全員の口からは山田の手足の肉片が入っていた。」


「山田の話だと、死んでいた動物は同じ種類の動物の肉を食べていたんですよね。」


「……」


「もしかして、なにかの呪いだったりして……」


「馬鹿なことを言うな。我々はそんな非現実的な事は考えない。それより、山田の車の後部座席にあった古い血痕について、調べはついたのか?」


「あっ、はい、それがですねーーーー」

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― 新着の感想 ―
後から考えると怖いな。 いい具合に。
[良い点] カラスならあり得る「親の死骸を子供が食う」が哺乳類で起こったら、確かに怖い訳で、猫、犬と大型化するにつれて、最後に来るべき人間を想像してしまいました。 そういう想像をさせた段階でホラーとし…
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