王宮主催パーティー another side
俺の名は、ルカート・タングランドだ。タングランド王国の王太子である。
俺の幼馴染であるサティはすごく愛らしい。揶揄えば、可愛らしい反応を見せてくれる。華やかな見た目に反して、中身は意外とおとなしい。だから、モテそうに見えて、モテないのだ。
王宮主催パーティーが行われた。いつも高貴な印象を抱かせるサティが珍しく、周囲に笑顔を向けていた。
「サティ。今日はどうしたんだ? 機嫌がいいな」
そんな風にこっそりと、周囲には聞こえないように声をかけると、ぷいと顔を背けたサティにこう返された。
「王太子殿下には関係ありませんわ?」
そんな膨れっ面も可愛く、思わず揶揄ってしまう。
「ふーん。そんなこと言っていいんだ? サティの失敗談話しちゃおうかな?」
「べ、別に、王太子殿下にしか、そんな姿、お見せしませんもの」
そんな姿を見せるのは俺だけだと聞いて、優越感にゾクゾクとしてしまう。ただ、機嫌のいい理由が知りたくて、表の顔でも、声をかけてみた。
「サティーナ嬢は、今日は機嫌がいいんだな?」
「王太子殿下もそう思われます? 私もサティーナ様がご機嫌に思いましたの。……もしかして、素敵な方にでも出会われたのかしら?」
ミチルダ・マルティーニのアシストに感謝する。マルティーニ公爵令嬢は食えない女性だが、俺の気持ちを知っていると思う。
「うぇ!? こほん。な、なんのことでしょうか?」
「あらあら、当たりだったのかしら?」
楽しそうに笑うマルティーニ公爵令嬢と反対に、サティの返答を聞いた俺は焦りを感じた。
「サティーナ嬢に想い人が? 一体どんな者なのだろうか?」
取り繕って、詳しく話を聞こうとすると、サティはあっさりとボロを出した。
「べ、別にその話はいいではありませんか!」
そう言ってサティが顔を背けた先に、近衛の騎士がいた。あいつは確か、スエルプ伯爵家の三男シリウスだ。そうか、あいつか……サティの可愛い顔を見て、あいつも少し照れくさそうな顔をしている。早めに手を打っておかないといけなさそうだ。
サティが離れて行ってから、そっと従者であるルカに声をかけた。
「スエルプ伯爵家の三男シリウスについて調べろ」
「はっ。殿下の女神が接触を図っているようですからね」
「は!?」
ルカにそう言われて、慌ててシリウスを探すと、その横にいる、照れたように微笑むサティの姿が目に入った。思わず二人の間に割り込みたくなる気持ちをそっと抑える。
その代わりに、微笑みを浮かべたまま、集中して二人の話を聞き取ろうとする。
「今度…………街に……」
「あいつ、殺す」
「落ち着いてください、殿下。グラスにヒビが入ってますよ」
「あ」
ルカとそんなコントのような会話を繰り広げていると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。
「まぁ殿下。お飲み物が溢れてしまいそうですわ」
「……マルティーニ公爵令嬢」
「ふふ、殿下はサティーナ様のことはお名前でお呼びするのに、私のことはミチルダと呼んでくださらないのですね」
「いや、それは、サティーナ嬢は幼馴染であって……」
「言ってみただけですわ。ただ、殿下の恋を応援する仲間として“ミチルダ”とお呼びくださいませ」
「……わかった。ミチルダ嬢。はっきりと問おう。君は何が狙いだ?」
「あら、人聞きが悪いですわ、殿下。私はただ、殿下のお力になりたいだけですのに」
そう言ってくすくすと笑うミチルダ嬢は、正直信用ならない。腹の底で何を考えているのかわからないタイプだ。
「ミチルダ嬢」
「わかりましたわ。私は人の恋路を見守ることが好きなのですわ。ただ、殿下の恋が叶った暁には、見返りに欲しいものがございますわ」
「なんだ、それは」
公爵令嬢という立場ですら手に入らないものと言うと、嫌な予感が少しする。
「お耳を。それはーーーーですわ」
「……わかった。できる限りのことはしよう」
「ありがとうございます、殿下」
ミチルダ嬢に近づいて話を聞き、顔を上げた瞬間、憧れの騎士様と話しているはずのサティと、なぜか一瞬目が合ったような気がした。
サティへの想いが叶った暁には、ミチルダ嬢の無理難題を叶えなくてはならなくなった。まぁ、ミチルダ嬢自身でもきっと努力するのだろうが。