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第1回作戦会議

「知ってらっしゃる? スチュワード公爵家のサティーナ様のお話」


「もちろんですわ。噂の騎士様だけじゃなくて、平民の大商人まで手玉に取ってらっしゃるらしいわよ……」


「お母様のスチュワード公爵夫人にそっくりね」




 くすくすと話される私の噂話が、嫌でも耳に入る。聞かなければいいものの、自分の名前が聞こえてくると気になって耳をすませてしまうのが私の悪癖だ。



「王太子殿下の婚約者の座を狙っていらっしゃるとか」


 そんな話が聞こえて、思わずそちらを振り向いてしまった。違うわ、あんなクソ王子の婚約者の座なんて狙ってないわ。外面はいいけど、私に対してだけはいい加減な態度なのだもの。


「わ! もしかして、聞こえていたかしら?」


 噂話をしていたご令嬢は、私と目が合った瞬間逃げていった。










ーーーー

「ただいま、ルル! 聞いてー!」


「おかえりなさいませ、お嬢様。まずはお着替えをしましょうか? そしたら、お話を聞かせていただきます」


 私の専属侍女のルルに、今日のパーティーでの話を聞いてもらおうと飛びついた。

 いつものように軽くいなされて、まずは着替えに向かう。



「お嬢様。ミルクティーをご用意いたしましたので、どうぞお話しください」




「あのね、私が騎士様と大商人をたぶらかせていて、クソ王子の婚約者の座を狙っているんだって!」


「それはいったい……どこのご令嬢のお話ですか?」


 ため息をつきながら、ルルはミルクティーのおかわりを注いでくれる。


「皆様の話を聞くと、お母様そっくりのモテモテ令嬢のようよ?」


「お嬢様は見た目だけは傾国の美女と言われてもおかしくない見た目ですが、中身はとても……男を誑かすことができるようなタイプではいらっしゃいませんよね」


「どうしたら、お母様のようにモテモテになるのか知りたいわ……」




 私がそう呟いた瞬間、私の部屋のドアが大きく開いた。


「呼んだかしら? サティちゃん!」


「お母様!?」


「お母様がサティちゃんをモテモテ令嬢にしてあげるわ!」


「ありがとうございます! お母様!」



 そんな私たち親子の姿を、ルルが呆れた目で見つめていた。







ーーーー

「まず、サティちゃんは気になっている殿方はいるのかしら?」


「えっと、実は……近衛の騎士様のことが……」


「あら素敵! 近衛の騎士なら……サティちゃんが関わるとしたら、次のパーティーかしら?」


「か、関われるでしょうか?」


「自分からいかないとダメよ? でも、グイグイ行くのではなくて、さりげなく、ね?」


「わかりましたわ! お母様!」


「あと、ドレスね? サティちゃんのドレスは、よく言えばお上品で女性受けがばっちり。悪くいうと、隙がなさすぎるわ!」


「す、隙ですか? でも、公爵令嬢として……」


「そうよ? 公爵令嬢に相応しい装いは大切ね? でも、モテるご令嬢の服装……意識したことがあって?」


「モテるご令嬢の服装? 皆様そこまで変わらないと思いますが……」


 私が思い浮かべるご令嬢たちのドレスは、多少の違いがあるものの、そこまで露出の多い服装の方はいらっしゃらないように思える。


「サティちゃん。例えば、お母様が若い頃は、きっちりとしたドレスから、動いた時にだけちらりと足首やデコルテが見えるものを選んでいたわ」


「そ、そうなのですか? でも、言ってはいけませんが、お母様の時代と今の時代は……流行が違うのではないでしょうか?」


「そうね。流行は違うけど、殿方の好みはそんなに変わらないわ! 清楚で女の子らしくて、チラリズムよ!」


「ち、ちらりずむ?」


「今は、首元までしっかりしまってるドレスが流行っているでしょう?」


「は、はい」


「しまっててもいいの。でも、そこがレースだったらどうかしら?」


「隠されているのに、肌が見えてドキドキする……?」


「そうよ! よくわかったわね、サティちゃん」


 お母様に褒められると、嬉しくてニコニコしてしまう。つまり、隠されたものが少し見えるのがいいのね。



「では、そのようなドレスを着ていれば、モテモテなのですね?」


「違うわ! サティちゃん! 甘い、甘いわ! 見た目と地位で、ある程度の殿方からお声掛けいただくとしても、それではモテモテに程遠いわ!」


「見た目だけじゃ足りないのですか?」


「そう。隙が大切なの」


「また隙ですか?」


「話しかけていいですよ、私はあなたに興味がありますよ、という空気ね?」


「し、しかし、公爵令嬢として、常に完璧でいなくては……」


「マナーは大切よ? 違うわ。うーん、例えば、微笑みを浮かべてる人と無表情の人。どちらに好感を持つかしら?」


「微笑みを浮かべている人……でしょうか?」


「そうね」


「で、でも! 殿方たちにニコニコしていたら、節操なしに見えますわ!」


「違うのよ、サティちゃん。殿方はもちろんのこと、皆様に微笑みを浮かべるの。ただ、狙っている方には“もしかして、僕だけ特別?”と思わせることが大事だわ」


「お母様。すみません。難しすぎて、よくわかりませんわ」


「皆様に愛想をよくしてごらんなさい? サティちゃんは可愛いのだから、嫌がる人なんていないわ。だけど、気になる人にだけ“騎士様にしかお願いできないのですが”とか言って、何か頼んだり、“あなただけ”を匂わせるの。もちろん、上品に頼めばいいのよ?」


「なるほど……わかりましたわ! 私、やってみます!」


「まぁ、まずはこの辺りかしら? あとは、パーティーとかで騎士様に毎回挨拶して、少しずつ距離を縮めていきましょうか?」


「はい! お母様! モテるということは想像より大変なのですね……」


「ふふっ、そうね。やっかみの代わりも大変だわ?」


 そう微笑むお母様の姿は、絶世の美女であった。







ーーーー

 ついに、お母様の教えを生かす時がきた。


「ふふ、ごきげんよう?」


 私は積極的に皆様に挨拶をし、笑顔を浮かべた。


「まぁ! サティーナ様。いつもより一段と輝いていらっしゃいますわね?」


「あら? ありがとうございます。嬉しいわ!」


 私が笑顔を向けると、少しは効果があるようでよかったわ。


「サティーナ様。よろしければ、ご一緒に王太子殿下にご挨拶に参りませんか?」


「……え、えぇ……」



 同じ公爵令嬢のミチルダ様に誘われたからには断れないし、確かに王家主催のパーティーで王太子殿下に挨拶しないわけにはいかない。

 近衛の騎士様を見つめながら、王太子殿下の元へ挨拶に向かうこととなった……見つめすぎたのか、騎士様と目が合ったわ! 嬉しくて笑顔になってしまい、そのまま王太子殿下の元へ向かう。



「王太子殿下においては、ご機嫌麗しゅうございます。私、マルティーニ公爵が次女ミチルダがご挨拶申し上げます」


 ミチルダ様のカーテシーに釣られて、私も挨拶をする。


「王太子殿下においては、ご機嫌麗しゅうございます。スチュワード公爵が長女サティーナがご挨拶申し上げます」


「ありがとう。楽しんでいってくれ」


 そう微笑む王太子は、中身と違って穏やかな王子だった。と思ったのも束の間、こそこそと他の人には聞こえないように話しかけてきた。



「サティ。今日はどうしたんだ? 機嫌がいいな」


「王太子殿下には関係ありませんわ?」


「ふーん。そんなこと言っていいんだ? サティの失敗談話しちゃおうかな?」


 そう言って笑う王太子の腹黒そうな笑顔は、私にしか見えないように工夫されている。


「べ、別に、王太子殿下にしか、そんな姿、お見せしませんもの」


 私がそう言い返すと、なぜかご機嫌になった王太子が、王子スマイルを貼り付けて話しかけてきた。


「サティーナ嬢は、今日は機嫌がいいんだな?」


「王太子殿下もそう思われます? 私もサティーナ様がご機嫌に思いましたの。……もしかして、素敵な方にでも出会われたのかしら?」


 笑いながら、話しかけてきたミチルダ様の言葉に、私は思わず顔を赤くした。


「うぇ!? こほん。な、なんのことでしょうか?」


「あらあら、当たりだったのかしら?」


 ふふふ、と笑うミチルダ様と、同じように笑っているはずなのに冷風が吹いているように感じる王太子殿下。さらに問いかけられる。


「サティーナ嬢に想い人が? 一体どんな者なのだろうか?」


「べ、別にその話はいいではありませんか!」


 そう言って顔を背けた先に、騎士様がいらっしゃった。思わず、目が合ってしまったことで顔が赤く染まる。




「……ふーん」








ーーーー

「お嬢様。結局、騎士様にはお声かけできたのですか?」


 そんなこんなでパーティーが終わり、帰宅したところ、ワクワクした様子のルルに話を聞かれた。騎士様とのお話を聞いて欲しくてたまらなかった私は、思わず語ってしまった。


「ええ! 聞いてちょうだい!」






「あの、騎士様……今よろしいでしょうか?」


「えぇ。どうなさいましたか? スチュワード公爵令嬢」


 綺麗な礼をして、穏やかな微笑みを浮かべて話を聞いてくださる騎士様は、私の理想の紳士であった。


「き、騎士様にしかお願いできないことがございまして……」


「なんでございましょう?」


「きゅ、休憩室まで案内してくださらないかしら?」


「もちろん、その光栄なお役目、拝命させていただきます。私で申し訳ございませんが、お手をどうぞ」


「あ、ありがとうございます……」



 大きくて少しゴツゴツした手に、私の手を重ねて休憩室まで案内していただいたわ。ドキドキして死んでしまうかと思ったわ。


「こちらでございます、スチュワード公爵令嬢」


「あ、ありがとうございます……では、また……」





「とても紳士的で素敵だったの!」


「話は聞かせてもらったわ! サティちゃん!」


 またまたドアをバーンとしながら、お母様が部屋に入ってきた。


「お母様!?」


「よく頑張ったわ! 次からはもう一押ししましょう?」


「もう一押し……ですか?」


「せっかく2人きりになれたのよ? それなのに無言だったの?」


「え、えぇ……だって……緊張してしまって……」


「なんでもいいから話しかけて、興味津々で話を聞くのよ! そして、“すごく素敵ですわ”とか褒めるのよ!」


「そ、そうなのですか?」


「理想を言えば、“素敵ですわ……今度ぜひ見にいってみたいです……どなたかエスコートして下さらないかしら?”くらい言ってデートに繋げて欲しいけど」


「で、で、デート!?」


「まぁ、近衛の騎士でしょ? それなら、大体公爵令嬢を誘える身分なのかしら?」


「伯爵家の三男でいらしたはずですわ」


「あら、ちゃんと調べてあって偉いわね? 次は、誘わせてみましょう?」


「えぇ! お母様!」


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