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前編

※前編部分を大幅に修正・変更しております。

 おおよその流れは一緒です。

おめでとう(・・・・・)ございます。これで、お2人の婚約関係は解消となりました」

「うむ。ご苦労」

「…………」


 おめでとう。


 婚約関係を半ば一方的に解消……破棄しておきながら出てきた言葉がこれだった。


 第三者の言葉ではあるが、言われた方の片方は嬉々としてその言葉を受け入れたのだから一緒だろう。


 そもそも、この婚約解消を言い出したのは私ではないのだから。


 言い出したのは、目の前の男。

 カルメル・リマルディスク第二王子。


 伯爵家の娘である私、スザンナ・ヴェーラの『元』婚約者になった人……。


 カルメル殿下は、金髪碧眼の絵に描いたような美形の王子様だ。



 彼と私の婚約期間は10年ほど。

 そこには愛など当然なく、まごうことなき政略結婚だった。


 それも、ただの婚約ではなく、第二王子の立場を、第一王子の王太子・アトキンス殿下よりも下とする為の『ハズレ婚約者』だった。


 カルメル殿下は、きっと最初から不満だったのでしょうね。

 笑えるぐらいに彼は私を蔑ろにしてきた。

 同様の理由で彼の母である側妃様も。


 更にそれだけでなく、早くに王宮に移り住んだものだから、私と家族との絆はとても薄かった。


 ほとんど共に過ごさなかった両親は、私に娘としての愛情など育たなかったのだろう。


 兄も居るが、物心ついてからは家で過ごした記憶よりも、王宮で過ごした記憶の方が長い。

 その為、兄への親愛も育たなかった。

 それはお互い様だったが……。



「では、失礼致しますわ。カルメル殿下」


 私は殿下に、形ばかりのカーテシーで返す。

 これで彼とはお別れね。


「待て、スザンナ」

「……何でしょうか?」


 私は凍てつかせた表情で、カルメル殿下が呼び止めるのを聞く。


「……何か言う事はないのか?」


 言う事? 私は首を傾げる。


「何か、とは?」

「……以前から、お前は僕に意見を言う事もしないが、こちらが言っている事を理解しているかも示さない」


 彼は何を言っているのだろう。

 返事、返答はしっかりしているのだけど。


 カルメル殿下に意見?

 ……不満に思う事はあれど、こちらはしがない伯爵令嬢なのだ。


「婚約破棄……、解消の書類には、しかと署名致しましたが?」

「それはそうだが」


 では何が不満なのだろう?

 この婚約破棄は殿下から言い出した事だし。

 その上で私に何を言えと?


「ああ」


 そこまで考えて、ふと気付いた。

 ああ、あれがあったわね。


「この次は、公爵令嬢とご婚約されるのですよね? おめでとうございます、殿下」


 祝いの言葉が欲しかったのだろうと当たりを付けて、私はそう述べる。


「……それは皮肉か?」

「皮肉? 公女様を紹介してくださったのはカルメル殿下ですが」


 何度も告知なしで、キャンセルされてきた月1回の婚約者同士のお茶会。


 ある日、珍しく茶会の席に現れたカルメル殿下は、あろう事か隣に公爵令嬢を侍らせていた。


 聞けば彼女とは良い仲だという。

 当てつけのような不貞行為。

 ただでさえなかった彼への評価は、さらに底が割れた。



 ……私が社交界で蔑ろにされる原因は、その立場もあるが、婚約者であったカルメル殿下の態度の影響が大きい。


 彼は友人、側近には絶えず私の事を見下す発言をしていた。

 私自身がそれを耳にした事もある。


 10年来の婚約者なのだが、宝飾品なども贈られた事はない。


 思い出だってロクなものがなかった。

 夜会では最低限エスコートするが、本当に最低限。

 ファーストダンスだけは踊り、その後で私を置いてすぐにどこかへ向かうカルメル殿下。


 ひとりで残され、壁際に立つ私に嫌味を言いに来る貴族は一人や二人ではなかった。


 婚約者として開いてた毎月の茶会は、成長する程に彼の参加率は下がっていった。

 私は義務として茶会の席に出る。

 だが彼は来ないのだ。


 そのくせ、何ヶ月とその有様だったからと、私も茶会に出ない事を表明したら怒る始末。

 まったく意味が分からなかった。


 そうして、件の茶会では良い仲なのだという公爵令嬢を紹介してきた。



「僕とサリナの仲に嫉妬しているのか?」

「……嫉妬?」


 キョトンとして、私は首を傾げた。

 サリナとは例の公爵令嬢の名前だ。


「サリナ様はカルメル殿下と良好な関係を築いていらっしゃるのでしょう?

 なのに何故、私が嫉妬するのですか?

 カルメル殿下に嫉妬するほど、私はサリナ様を慕う関係は持っておりませんが……?」


「……僕に、嫉妬だと?」


「違うのですか? 他に嫉妬という言葉に該当する要素に思い至りませんが」


「……! お前は、いつもそうだ!」

「おや」


 何故か癇癪(かんしゃく)を起こした殿下は、その場にあった筆を投げつけてきた。


 私は素早く避けつつ、パシリとその筆を手に取った。


「っ……」


 私の身のこなしに少し驚いた様子ね。


「何をお怒りですか。カルメル殿下」


 私はあくまで冷静に返す。

 直接的な暴力はまだ受けていない。


「もういい! 早々に立ち去るがいい! もうお前は僕の婚約者じゃないんだ。

 王宮の部屋も出ていって貰うぞ!」


「はい。その点はご心配なく」


 既に部屋の荷物は引き払っている。

 私の行く先は決まっていたからだ。


 まったく最後まで彼は何なのだろう……?



◇◆◇



「……スザンナ。それは、きっとアレだな。カルメル殿下は、何気にキミの事を好きだったんじゃないか?」


 と。

 婚約解消の場で起きた出来事を教えると『彼』はそう言った。


「カルメル殿下が私を? それはまた斬新な解釈ね……」


 婚約者としての義務は最低限。

 公の立場がある時だけ取り繕う関係。


 お茶会は毎回すっぽかし。

 宝飾品は贈らない。

 口を開けば私を貶め、蔑ろにする罵倒。


 夜会はファーストダンスだけ踊り、すぐさま離れて放置。

 挙句に婚約中にも関わらず恋人を侍らせる始末。


 ……これで私を好きだったと言うんなら、相当なねじくれ具合だろう。

 ないない。


「そもそも婚約破棄を突きつけてきたのはカルメル殿下なのだから」


「引くに引けなくなった、と俺は思うね。あの王子、キミを気にしてはいたんだから」


「……根拠があるのね?」


「バッチリと。好きな子の前でだけは素直になれない性格らしいよ。

 後悔する姿も見てきた」


「……そう」


 そんな事を言われてもね。

 だから、と言って婚約解消を撤回させるつもりもない。


「私は私なりに彼を支えられる技術は磨いてきたわ。

 どんな事情であれ、彼の態度は好意を向ける女性にする態度じゃない。

 そこにどんな想いがあっても知らないわ」


「……ま。そうだね。それで、どうする?」


 と。彼が尋ねた。


「……今の陛下、側妃様は無理。ヴェーラ家は王家からの資金を貰い続けたらしいけれど、それらが私に反映された事はない。

 私利私欲ではなく、領民に還元した事だけは評価点。

 でも私の10年を犠牲に領民だけを救ってきた家に帰る気はないわ」



 表向き、私は学園での成績を上位で卒業した。

 だが、立場が立場だった。

 それは私の将来を輝かしいものにはしなかった。


 こなす技能はあるのに文官としては雇われない。

 成人間近まで婚約関係で縛り付けられてきた私は、令嬢としては完全な行き遅れ。


 ……本当に笑えるぐらいの境遇よ。


 でもね。

 いいの。


 私は望む私を手に入れた。

 強制的な王子妃教育も、触れてきた執務も、体罰に近い指導も、古臭い礼儀作法も。


 すべて意味と価値を持つ未来。


「じゃあ、俺と行くか」

「ええ」


 私はもう何年も心の中で求めてきた彼の手を取った。


 そして。




 ──スザンナ・ヴェーラは、第二王子との婚約解消をした日に自ら命を絶った、という報せが王国中に広まった。


※ご迷惑をお掛けしてます。

主人公の境遇は、おおよそ一緒ですが、かなり変更しております。


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