外伝23話 カイトとレイの絆
彼女を自室へ帰し、それからはレイと二人で細かい作戦を練ることにした。
当日、朝は普段通り公務に出かけたふりをする。
そして馬車が周りから見えない所で降り、カイトは王宮に引き返す。
これが彼女が居る時に決まった話だが、ここから先は彼女は知らない話だ。
「レイには俺と一緒の馬車に乗ったもらい、俺が降りた後に俺の変装をしてくれ」
実際に仕事先に現れておかないと、どこにグロース公爵の目があるかわからない。
すぐに気づかれることは出来る限り避けたいところ。
「これはレイにしか頼めない」
レイはカイトと体格にあまり差がないため、唯一カイトの変装をしても気づかれにくい人物だろう。
それにグロース公爵はカイトの命を狙ってくる可能性もあるなら、自分の身は守れる人間でなければ。
剣の腕前が国の二番目で騎士団長を務めているのだから、グロース公爵はレイに勝つことは出来ない。
例え他の手段を取ってきたとしても、事前に対処の仕方を考えておけばいい。
グロース公爵がレイを見つけられない可能性もあるのだから。
「レイに危ない役目を任せることにはなるが…」
「大丈夫ですよ。絶対に負けることはありません。ですからカイトは安心してエーアリヒ様を傍で守ってあげて下さい」
「ああ、任せた」
レイが外で時間稼ぎをしている間に、カイトは彼女とグロース公爵家の屋敷内を捜索する予定だ。
彼女には屋敷を案内してもらう体で使用人を部屋から離してもらい、カイトが動きやすいようにする。
カイトは人に見つからないよう気をつけて部屋へ入るか、外から部屋の中へ入るかのどちらかだ。
探りたい部屋はグロース公爵の執務室、あれば宝物庫や資料部屋、後は前当主の部屋。
これらの部屋を調べれば何か情報が得られるに違いない。
それから決行日まで公務と平行に念入りに準備を進めて行った。
当日になりいつものように彼女に見送ってもらい、馬車に乗り込んだ。
馬車の中で着替えながらレイと最後の打ち合わせをする。
「グロース公爵は屋敷居られるので、この後は変装後グロース公爵家に向かって下さい」
「なら移動に時間が掛かるように、少し遠い場所まで行ってくれ」
「わかりました」
時間を出来る限り稼いでもらった後は、レイにもグロース公爵家へ向かってもらう。
すぐにどこからでも向かえるよう、色々な位置からグロース公爵家までの最短の道も調べておいた。
カイトは服だけ着替え、髪などは王宮に戻ってから変える。
レイは馬車の中で変装を済ませ、王太子に仕立て上げた。
「何か変な気分だな…」
「そんなに似てますか?」
「遠くからでは全くわからない」
よく知っている者が見てもカイトが少し痩せたようにしか見えないだろう。
出来が良過ぎて鏡を通して自分を見ているようで何だか落ち着かない。
「これなら俺の代わりに仕事をさせても気づかれないな。たまに代わってもらうのもありだな」
「その間にエーアリヒ様と一緒に過ごそうとか考えてますよね
?」
「よくわかってるな」
「冗談ですよね?!」
「どうだか」
「カイト!」
親しい間柄であるレイと久しぶりにそんな会話を交わしながらも、カイトが降りる場所まで近づいて行く。
降りてしまえば作戦が終わるまでカイトはイアンだ、という心持ちで過ごす。
「じゃあ頼んだぞ、気をつけてな」
「はい、カイトも気をつけて下さいね」
カイトは馬車を降り、自分に似たレイを見送った。
馬車で通って来た道を戻って、急ぎ足で王宮へと向かう。
(ここからは気を引き締めないとな)
油断は出来ない、作戦は一度きりだ。
王宮に着いてからカイトも本格的に変装をしていく。
髪は灰で汚し色を暗くする、騎士が王太子のように綺麗な水で丁寧に洗っているわけではないから、これぐらいが丁度いいだろう。
目の色は薄い色付きの硝子を乗せ、わかりやすい海のような瞳も隠す。
ここまですれば王太子と気づかれることはないはずだ。
彼女もカイトの変わりように驚いていた。
「これで準備完了だな」
「はい。行きましょう」
別の質素な馬車に二人で乗り込み、今度はグロース公爵家へ向かう。
彼女は不安なのか、表情が固くなっている。
「…なんだか緊張してきました」
「安心しろ。必ず上手く行く」
「よくそんなに自信満々に言えますね…」
「お前が考えた作戦を俺は信じているからな」
「そ、そうですか…」
あれほど念入りに準備したんだ、失敗するわけにはいかない。
いや、絶対に失敗はしない。
読んで頂きありがとうございました!
今まではエアと会話していた時のカイトの気持ちといった話が多かったですが、グロース公爵が深く関わるようになるため本編に無かった会話が今後たくさん登場します。
今回のカイトとレイの会話がそうでしたが、グロース家の前当主との会話や、グロース家親子が捕まった後の話がこの先読めます。
次回は日曜7時となります。




