外伝10話 彼女の笑顔は美しく
彼女が見守りに行くという日がやって来て、待ちきれなかったカイトは今回も早い時間から外で待っていた。
前のデート違って出かけるまでに期間があったため、レイに服を借りることはせず、カイトの体にあった騎士団の服を仕立てた。
「お待たせしました!」
「…元気だな」
「早く行きましょう!」
準備が終わった彼女は前のような気まずい表情は一切なく、今まで見て来た中で一番元気だ。
ものすごく上機嫌で彼女が嬉しそうなので、カイトも自然と嬉しくなり表情も気持ちも和らぐ。
カイトは行き先を知らなかったものの、今日が来る前に行きそうな場所を調べており、彼女に協力出来ればいいなと思っていた。
調べた中に入っていたシュモックは、人気が高いぶん訪れる人が多い。
彼女も来たことがなさそうな様子だったし、離れないようにいつも以上に気をつけなければ。
着いてからも彼女の機嫌は変わらず良く、隠れる場所を探すと喜々として散策を始める。
(今日はずっと彼女の笑顔が見れそうだな)
それはシュリヒトの告白が上手くいけばの話でもあるが。
とはいえ、彼女が相談に乗ったのだから上手くいくんだろうなと、詳しく知らないのにカイトは確信していた。
「王…じゃなかった、イアン!」
「…なんだ?」
急にこちらに振り返って何を言うのかと思えば、嫌な予感がしてならない。
「草むらの中に隠れていい?」
嫌な予感が当たっていたという気持ちと同時に衝撃が走る。
(草むらに隠れる…?)
そんなこと、幼かった頃でもしたことがない。
自分が王太子だからしてこなかっただけで、他の人はそう簡単に草むらに入ったりするものなのかと驚いた。
けれど嫌というわけではないし、経験しておくのは有りだろう。
今日は彼女に協力するためにも来ているのだ。
彼女の意見を尊重したい。
それに、上目遣いであんなに可愛く言われたら、誰でも了承してしまうだろう。
これはもしかしたら彼女の作戦なのかもしれない。
惚れさせるための作戦。
既に惚れているカイトにとって、強烈な攻撃だ。
(おかしくなりそうだ…)
「……好きにしろ」
「やったー!!」
(…彼女と居れば新しい体験がたくさん出来そうだな)
満面の笑みで草むらに入って行く彼女を微笑ましく見つめていた。
シュリヒトが来るまでの間も彼女はずっと楽しそうにしている。
「そんなに楽しみなのか」
「楽しみですよ!!だって告白シーンを見られるなんて滅多にないんです!それを近くで見れるなんて…!あぁ…最高!!」
カップルや恋愛関連になると、彼女はよく喋ってくれるのでそんな姿を見られて嬉しい。
シュリヒトの恋が成就した後は一体どれほど嬉しそうな表情を見せるのか。
「おめでとう!そして本当に最高!!!」
感極まっているのか目を潤ませて、幸せだというようにシュリヒトたちの方を見つめていた。
カイトは彼女がどんなアドバイスをしたのか知らないし、どこまでシュリヒトの告白計画に携わっているのかも知らない。
それでも彼女も頑張ったんだろうということは見ていてわかった。
「頑張ったな」
「へ?!べ、別に私はちょっとアドバイスしただけで…頑張ったのはシュリヒトですし?!」
「ははっ、動揺し過ぎだろ」
「動揺じゃないです!驚いただけで…!」
カイトは無意識に彼女の頭を撫でていた。
反応が可愛くて、自分が撫でていることに気づいてもしばらくは手を離せなかった。
これ以上は怒りそうだなというところまで撫で、ちょうどシュリヒトたちも場を離れたことで自分たちも草むらから出る。
彼女が何を考えているのかわからないが、顔を赤く染めながらシュモックの景色を楽しんでいた。
(あいつの告白のことを思い出してるのか、俺が撫でたことを思い出してるのか…)
後者だったら嬉しいなと思いつつ、ひたすら彼女を見つめていた。
彼女が景色を見終わった後、この後はどうするかと聞かれたが、正直このまま王宮に帰るのは惜しく、彼女も言っていたし今度は喜ぶだろうと本屋に行くことを提案する。
そうすれば彼女は嬉しそうに返事をしてくれて安心した。
(やっぱり恋愛に関する場所が一番喜ぶんだな)
これからは彼女と出かける時に行く場所を間違えることはなさそうだ。
今なら彼女と出かけるのに、服や装飾品を売っている店に連れて行くのは間違いだとはっきりわかる。
恋愛小説がたくさん売っている本屋か、カップルが見られる場所に連れて行けばいい。
きっと最初から彼女についてもっと知っていたら、初めてのデートで間違えることをなかっただろうに。
後悔してもどうしようもないが、思い出したくない失態になってしまったなと思う。
読んで頂きありがとうございました!
次回は木曜7時となります。




