第8話 癒し堪能の予感
先日のデートを終えてから、私はもっと王太子殿下のことを知るためにあることを提案していた。
「これから時間がある時は一緒に食事をしませんか?その方が相手のことを知れて作戦も考えやすいですし、勝負のためです!」
王太子殿下が会いに来ないなら自分から行動するしかないと、私は積極的に動くことにしたのだ。
「それはいい考えだな」
「むしろ今までがおかしかったと思いますけど…」
二人で話し合って主に夕食を一緒にすることが決まった。
朝は王太子殿下が起きるのが早いことと、昼間は王宮に居ないことが多いから一緒に食事をするのは難しいとのことだった。
今朝、そんな話をして今は部屋でヨハナと作戦を考えている。
「私、気づいてしまったの…」
「何にですか?」
「王太子殿下を惚れさせないといけないのに、私自身恋愛経験が無いからわからない!」
大抵の恋愛物語は両想いなことが多いし、女性側から男性を惚れさせるのは珍しいと思う。
ヒロインが特に何もしなくても、純粋さや明るさで気付けば好かれていた、なんて展開をよく読んだ。
(後は悪役とか邪魔者が居るから成立するパターン)
「ですがお嬢様は恋愛には詳しく、よく他のご令嬢方にアドバイスをされているではありませんか」
「そうなんだけど!アドバイスするのと自分がするのは違うの!」
「どういったところがですか?」
毎日恋愛の話や読んだ物語の感想を話しているヨハナにも、どうやら理解しづらいらしい。
「その子の魅力を見つけて、その子と相手の性格に合った行動を考えるの」
例えば、相手が少し素っ気ないと感じたなら、いつもと違うことをして気を引いてみるとか。
鈍感な相手なら、これでもかというほどストレートにアピールするとか。
「私は自分磨きなんてしてないでしょ?恋をしている令嬢たちは特に身だしなみを気にしているけど」
「でしたら今日からお嬢様もおしゃれをしてみてわ?」
「え?!絶対嫌だ!」
カップルの観察に小説を読み漁るには楽な服装でないと。
腰がきつく締まった服では動きづらいし普通に苦しい。
「そもそも好きでもないのに惚れさせるのが難しいの!」
「確かに…それはそうですね」
「自分に好意があると知ったら男性も意識し出すの。好意がないとお互いわかり切った上で好きですアピールなんて出来ないし、褒められるようなところも見つからない」
本当に今のところ王太子殿下に対して意地悪のイメージしかなくて、褒められるところといったらいちようデートで私のわがままに付き合ってくれたくらい。
友人のノアはさすがにあそこまで付き合ってくれないからだ。
「これから食事を一緒にとることでいいところが見えるといいんだけど…」
「そうですね。その時は私も一緒に居りますから何かあればサポートしますよ」
「ありがとーヨハナ!」
頼れるのはヨハナしか居ないと抱き着こうとすれば、華麗に避けられてしまった。
「そういえばお嬢様に手紙が届いております」
「え?手紙?」
行き場を失った手を戻し、ヨハナから手紙を受け取る。
(誰から?)
開いて読んでみるとシュリヒト子爵から恋愛の相談をさせて欲しいとのこと。
「よし、この話受けよう!」
「お嬢様?王太子殿下との勝負はどうするのですか?」
「どっちも大事なことでしょ?私に恋愛相談がしたいなんて望んでくる人は珍しいのよ?!しかも男性!」
男性の恋愛話が聞ける機会はほとんどなく、基本的に女性しかいないお茶会で自ら恋愛話に首をつっこむか、たまに令嬢が相談してくるくらい。
「彼に男性側の恋愛観を聞いて、王太子殿下との勝負に生かすの!」
「なるほど…、では便箋を取りに行って来ます」
「ありがとう」
ヨハナが部屋を出て行き、私は腕を大きく広げそれはもう大層喜んだ。
(やった!久しぶりに恋愛の話が出来る!!)
王太子殿下の婚約者となってから、前のように頻繁にお茶会に参加することが出来なかったため、癒しが足りていない。
お茶会の招待が来たら全て参加していたというのに、現状一通も招待が来ないとは本当に困る。
「…って、喜んでる場合じゃない!彼に何を聞くか決めておかないと!」
すぐさま椅子に座り紙とペンを用意して、私はひたすら考え始めた。
読んで頂きありがとうございました!
次回は木曜7時となります。