第7話 恋愛物語的な展開
次に連れて来られたのは洋服屋。
やはりこういう場所しか選ばないのか。
(あ、でもカップルが見れる場所しか行かない私が言えたことじゃないかも…)
お店の中に入ると色々な洋服が並んでいるが、私にはさっぱり分からないものばかり。
ヨハナに自分に合う形を聞いておくべきだったと少し後悔。
「服は好きなように何着でも買えばいい」
「ちょっ…!そんな買える訳ないじゃないですか!」
「お金の心配は要らない」
「そういう問題じゃなくて…」
(私はよく外出するし、王太子殿下の婚約者が夜会とかで毎回新しいドレスを着ないといけないけど…。それでもさっきなぁ)
やっぱりどうしても先ほどのとんでもない値段が脳裏に浮かんでくる。
けれど何かは買わなければ王太子殿下は店を出なさそうだ。
(これも仕方ない…)
「私…服とかよく分かりませんよ?」
「ああ…確かにそうだろうな」
「事実ですけど納得されるのは嫌なんですけど…」
私は拗ねて口を尖らせた。
それを見た王太子殿下は面白そうに笑っている。
「と、とにかく!服は買いますけど、ここは来たことないお店だから採寸とか時間掛かりますけどいいんですか?」
「構わない」
「ならいいですけど…」
私はお店の人と共に奥の方へと入って行く。
その途中で王太子殿下の方を見たが、中から外を眺めているようだった。
(退屈じゃないのかな…)
そして王太子殿下の方から私の姿は見えなくなった。
「シンプルに動きやすい服を私に合う色で何着か作って頂けますか?」
「かしこまりました」
採寸とどんな服の形にするのか話し合い、王太子殿下の元へと戻る。
「思っていたより早かったな」
「こだわりとか無いから早いんですよ…」
「そうだったな」
その言葉に無性に腹が立ち、本当に惚れさせる気があるのかと思うが、何か忘れている気がする。
(あ!私も惚れさせないと勝てないんだった…!)
このデート、私は好感度を上げるような行動を全くもってしていない。
「そろそろ帰るか」
「え?あ、はい。そうですね」
勝負が長くなりそうだと動揺していて、話を全然聞いていなかった。
馬車に乗ってからも心ここにあらずという感じで、ずっとこの先どうしていくのかを考えて。
そうしていたら馬車が石を踏んだのか大きく揺れ体が前に。
「わっ!」
目を開けると王太子殿下の胸が目の前にあるではないか。
こんな恋物語ではよくあるような場面。
普通ならドキドキする場面なのだろうが、私にそんな気持ちはない。
「ごめんなさい。怪我はないですか」
私はすぐさま離れようとしたが、腕を掴まれて離れられなかった。
「怪我がないか聞くのは俺の方だ」
「どっちが聞いても同じだと…」
「―こんなに近づいても顔色一つ変えないのだな」
前髪が触れそうなくらいの近距離で真剣に見つめられるも、何も感じないものは感じない。
「それが私です!」
「誇るものなのか?それは…」
「私だって手強いですよ?簡単に感情が変わったりしません」
「そうみたいだな。思ったより上手く行かなそうだ」
掴まれていた腕は離され、元の位置へと座りなおす。
それから沈黙が続いて何だか気まずい雰囲気に。
やっぱりちゃんと話すのが初めてだと、相手のことについてほとんど知らないから何を話せばいいのかわからない。
(でも、何か話題を振らないと……、あ、そうだ!)
さすがに帰るまでこの沈黙が続くのは嫌なので、気になっていたことを聞くことに。
「そういえば、私に婚約を申し込んだ理由って何ですか?」
「気になるのか?」
「当たり前です!誰とも婚約したくなかったんですから」
申し込んだ理由で自分にとって得なことが一つでもあればいいのだが。
「聞かない方がいいこともある」
「何ですかそれ!教えてくれないと納得出来ません!!」
「聞いたら絶対後悔する」
(え…それって私に全く得ないと言われているようなものでは……?)
「…じゃあ私が勝った時に聞くことにします」
「それがいいかもな」
そう言いながら王太子殿下は笑っていて、嫌な予感しかしなかった私は本当に聞かない方がいいのかもしれないと思った。
先ほど勝負が長くなりそうだと考えていたが、まだ勝負は始まったばかりだ。
そんなに焦らなくても婚約期間を終えるのはかなり先。
(今日はとにかく王太子殿下が意地悪だということを改めて実感したことだし、家に帰ってからじっくり作戦を練ることにしようかな)
今後のことを考えれば案外急なデートは悪くなかったなと、行く時よりも全然気持ちが晴れていた。
読んで頂きありがとうございました!
恋愛についてものすごく詳しいけど恋愛経験がないエアと、恋愛について全く知らないし同じく恋愛経験がないカイトのいきなりお忍びデート編でした^^
次回は火曜7時となります。