第67話 想像する二人の未来
半分ほど開封し終わった頃、カイトが部屋に戻って来た。
「ただいま。…部屋がすごいことになっているな」
「おかえりなさい。ごめんなさい、まだ片づいてなくて」
「いい、俺も手伝うよ」
「ありがとうございます。でもカイトにもたくさん届いてるんじゃ…?」
私に届いているのだから、カイトにも届いていることだろう。
それも、私より遥かに多いはず。
むしろ私が手伝ってあげた方がいいんじゃないかと思う。
「多いだろうな。まあそれは人に任せるから大丈夫だ」
「そ、そうですか?」
(自分のは人に任せて、私のは手伝うの…?)
カイトは忙しいから開ける人でも雇っているのだろうか。
人に、と言っていることからエリアスではないと思われる。
きっと私の知らない人のことを指していると考えた。
(きっと大変だろうなぁ…)
王太子への品を開けるなんて、傷をつけたり汚したら大変だ。
慎重に開けなければいけないから、開ける側が神経をものすごく使うだろう。
それから黙々と三人で開け続け、片付いた頃には日が落ちそうになっていた。
「終わったー!!」
「お疲れ」
「ありがとうございました。カイトもお疲れ様です」
ヨハナはというと、終わって速攻部屋を出て行ってしまった。カイトと二人にさせるのがとにかく早い。
私の家が雇っている侍女なのだから、私の気持ちを尊重して欲しいのだけれど。
すぐ二人にさせるのを見ると、カイトの味方なんじゃないかと思ってしまう。
(こんなにずっと二人にされたら心臓が保たないよ…)
こうなったら夕食を食べてお風呂に入った後、先に寝てしまえばいい。
(ああでも、自分一人じゃまともに歩けないんだった…)
その事実を思い出し、項垂れた。
「どうした?」
「今日は本当にカイトに付きっきりになってもらわないといけないんですね…」
「嫌なのか?」
「嫌なわけじゃないですよ!ただこんなにずっと誰かと一緒にいることに慣れてないというか…、落ち着かなくて…!」
カイトに悲しそうな顔を向けられ、私は慌てて否定した。
家では基本的にヨハナと二人か一人でしか過ごしたことがなかったため他の誰か、ましてや男性と一緒にいること自体ほとんどなかったことだ。
ちゃんと話したことがある男性といえばお父様ぐらいだろう。
そもそも結婚する気がなかったとはいえ、免疫などあるはずがない。
今まで男性と近い距離になっても無反応だったのは、恋していない男性など興味がないからだ。
「じゃあ早く慣れないとな」
「なっ…!」
カイトは意地悪に微笑んだ。
これは今日に限らず、これから先慣れるまで前よりももっとついて来るつもりかもしれない。
頻繁に部屋に訪れるとか、そういうことが今後増えるとカイトの表情が物語っている。
(私がこんな甘々な結婚生活を送ることになるなんて…)
自分も変わったが、カイトの変わりようもすごいなと改めて実感した。
これから先、一体どんな夫婦になるのだろうか。
そうしてカイトと一緒に食事もお風呂も済ませ、もう眠る時間になっていた。
「本当に一日中ほとんど一緒でしたね」
「その予定だったからな。毎日こうやって暮らすのもいい」
「そんなことをしたら国が傾きますよ」
私はカイトの両親、つまり両陛下にお会いしたことはない。
それほど重くないらしいが国王陛下は病に伏せっているそうだ。女王陛下は付きっきりで看病をしているらしく、カイトが公務を九割ほど担っていると聞いた。
カイトが毎日忙しくしているのはそのせいだ。
国王に即位するのはそう遠くないだろう。
「そうだな。だが本当にそうやって暮らせたら良かったのに」
「王族に生まれたから仕方ないですね。でもいつか私たちの子供に国を任せて、老後は二人でそうやって暮せばいいんじゃないですか?」
私が言った言葉にカイトは驚いているようだった。
私自身も自分で言っておいて驚いた。
特に考えることもなく思ったことをそのまま口に出したのだが、自分がそんなことを言ったことに驚いたのだ。
「エアがそこまで俺との未来を考えてくれていたなんてな」
「えと、まあ結婚したんですからそれは…」
自分も思っていたことをカイトに言われて恥ずかしくなって言葉を最後まで言えなかった。
いつの間にか私が考えるこの先の未来に、当たり前にカイトがいると思えていたようだ。
「〜っ、とにかく!明日からリアン家の事業を本格的に引き継ぎますから早く寝ましょう!」
「ふっ…おやすみ」
「…おやすみなさい」
今はカイトの顔を見ていられず、背を向けて私は眠りについた。
読んで頂きありがとうございました!
次回は火曜7時となります。




