第64話 思う存分愛して欲しい
緊張も解けてきて、今素直になっているカイトに夜会で聞いたことを問うことにした。
「カイトはいつから私が好きだったんですか?」
そう言えば明らかに戸惑う様子見せ、訝しんだ目を向ける。
「なぜ今更それを聞くんだ?」
「夜会でノアがかなり前から私に熱い視線を向けていたと聞いたから」
溜息を吐いて頭を抱えるカイトに更に言葉をかける。
「それからシュリヒトが嫉妬も凄かったと言ってましたし?」
「あいつ…」
それをシュリヒトに言って欲しくなかったのか眉根を寄せて、もう一度深く溜息を吐いた。
そこまで困るほど答えるのが難しいということは、本当にかなり前から好意を抱いていたのではないかと容易に想像がつく。
もう今となっては結果として良かったのだから、いつ好きになっていたとしても気にしないのだが、ガイドには気にかかることがあるらしい。
「それを聞いてどうする?」
「どうもしないですよ、ただ気になって」
怯えたようにも思える表情にどうしてそんなに戸惑っているのかと、質問に笑わずに答えることは出来なかった。
「言いにくいのなら私から言いますよ。私は気づいたのはベルティーナ様がカイトを好きで婚約を申し込んだと聞いた時です。だからその前からどんどんカイトに惹かれていたと思うので、明確な時期はわかりませんけどね」
そう答えてから、カイトはわからないとい答えは駄目ですからね、と付け加えればそれはもう見たことのないほど困っていた。
その姿がおかしくて笑うことを我慢出来ず、ついつい顔がニヤけてしまう。
「…エアに対して気持ちが変わっていったのは、初めてデートしてからだ」
「早っ!!思っていたよりも遥かに早かった!」
「そう言うと思った」
答えを聞いてすぐに驚きの声を上げた。
確かに言われてみれば好きではない人にキスなんてしないだろう。だからもっとちゃんと考えれば執務室でキスされた時に、すでに好意を持たれていたと気づけたのではないかと思った。
あの時はあまりの恥ずかしさに思い出すのも憚られ、キスした意味を聞くことをしなかった。
聞いてしまえば自分が余計に恥ずかしい思いをするとわかっていたから。
けれど、そこで聞いていれば素直にカイトだって好意を認めていたかもしれない。
過去に私は婚約を破棄出来る機会があったのだと、結婚してから気づくとは本当に自分は恋愛に詳しいと言っておきながら、実は疎かったのだと痛感する。
「よくここまで隠し通せましたね」
「エアが気づかなかっただけだろう」
「それもそうですけど…」
「俺の行動の全てがエアを落とすための行動だと思っていたのが駄目だったな。俺はだたそうしたくしてしていただけだから」
「そ、そんな…」
どうして自分はそれほど勝負のための行動だと思い込んでいたのだろう。自分を好きになる人はそう居ないと思っていたからか、あるいはもうどうしょうもないほど鈍感だったのか。
きっと両者だと少し悔しい気もした。
先に惚れた方が負けという勝負には間違いなく勝っているというのに、気づけなかった自分は負けたと言っても過言ではない。
だから、やはりこの勝負は引き分けなのだ。
「ずっと嘘をついていて悪かった」
「結果として良かったからカイトもそこまで気にしなくていいんですよ」
「許してくれるのか?」
「え?許すも何も怒ってすらないですけど。それはもちろん好きになって結婚に至らず、破棄した後に聞いていたら怒ったと思いますよ?」
「そうか、ありがとう」
先ほどからずっと困った表情をしていたカイトは、ようやく心底安心した顔を浮かべた。
そんな時、ふとある疑問が脳裏をよぎった。
(あれ?結局カイトが私に婚約を申し込んだ理由は何だったの?)
初めてデートした時に聞かないほうがいいと言われ、ずっと聞かないでいたことだ。
そういうことなら自分は聞かないようにしようと聞かなかったし、カイトもそれ以降その話題に触れることをしなかったからすっかりそんな会話をしたかとは抜け落ちていた。
好きになった時期は困惑しながらも答えてくれたが、やはり申し込んだ理由は教えてくれないだろうと、直感でそう感じる。
気にはなっても聞かない方がいいなら、そうするのがきっと自分のためだろう。
申し込んだ時すでに好意を持っていたわけじゃないのなら構わない。
「カイトは相当わたしのことが好きなんですね」
からかうようにそう言えば、カイトは頬を紅く染め照れながらヤケになって言い放った。
「そうだよ、好きだ。愛してる。悪いか?」
「いいえー」
その姿がとても愛しい、と思ったことは口に出さなかった。
自分を好きなってくれる人はいないと言われ続けていた私を唯一愛してくれる存在。これほど嬉しいことはないとも言える。
私のドレス姿が早く見たくて拗ねる姿も、嘘をついていたことで怒られるのではと心配している姿も、全てが愛しく感じられる。
こんな感情を持てる私は今、本当に幸せの絶頂だ。
自分からは何もしないと決めていたのに、もう透けた服を着ていることの恥も完全に消え、カイトの唇に自らキスをした。
カイトは驚いて大きく目を見開いている。
「っ…!」
「私からするなんて思わなかったでしょう」
挑発のように意地悪なことを言えば、カイトもその気になったようだ。
「エアの心の準備が出来ていないなら、出来るまで待つつもりだったが、こんなことをされてはもう後に引けないぞ?」
「わかってます」
押し倒され真剣な表情で聞いて来るカイトに、私は微笑んで言葉を返した。
「俺がどれほどエアに触れたかったかわからないだろう。それを思い知る覚悟が出来ているということだな」
先ほどの真剣な表情とは変わって、意地悪な顔を浮かべ私の髪を優しく持ってはそこにキスをした。
その行動だけで色気がとてつもなく、一気に恥ずかしさに押されそうになるが先に自分から動いたのだ、覚悟ならもう出来ている。
「はい。思う存分これから先も私を愛して下さい」
「約束する」
始めは優しいキスだったのが徐々に深く激しくなっていき、キスも触れるところも下の方へと変わっていく。
部屋に響く音や、自分の口から発せられる甘い声と吐息に恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
「カイトっ…!」
私は何度も愛する人の名前を口にした。
それに答えてカイトも自分の名前も愛の言葉もたくさんかけてくれ、幸せ過ぎて涙が溢れるほどに。
何回達しても終わることはなく、疲れ果てて眠るまでそれは続いた。
カイトの気持ちは今夜だけでも十分伝わったが、朝起きた時に再び実感することになるだろう。
読んで頂きありがとうございました!
前作は初夜のところを全く書かなかったので、今回は本当に出来る限り頑張りました^^
正直どこまでがいいのかは人によって違いますが、私は細かくは書かずに、でもどんな風に愛し合ったのかは書く、という考えでこうに至りました。
次作は年齢制限をつけて連載しようかな、と物語を考えていたりします。
次回は火曜7時となります。




