第63話 初夜への準備が始まった
楽しかった時間は過ぎていき、これで夜会はお開きだ。
「はぁー、やっと王宮に帰って来た!」
今日はとても長く色々な出来事が詰まった一日だった。
身体も疲労が溜まって休息を取りたいけど、そうはいかない。
帰って来て早々浴室に連れて行かれた私は、いつもはヨハナだけなのに今夜は他の侍女も一緒に私を綺麗にしてくれている。
いつも以上に肌の手入れもされ、身体はしっかりと洗われた。
(うぅ…気が重いなぁ…)
そこまでされる理由はもちろんわかっている。
カイトと結婚したのだから初夜が訪れるのは当たり前だ。
たくさんの恋愛小説を読んで来たのだから、どんなことをするのかは知っているが、自分とは無縁のことだと思っていたために、いざその時が来るとどうすればいいのかわからない。
実際に見たこともあるわけがないから、文字を読んでその通りに想像するだけではちゃんと理解していないことも多いだろう。
考え事をしていれば、長い肌の手入れも終わり他の侍女は部屋を出て行った。
ヨハナだけになり、少し安心するような気がする。
「お嬢様、今夜はこちらをお召しにならなければいけません」
「ん…?っなにそれ?!」
ヨハナが見せた服はほとんどがレースで作られた服で、大事なところは隠れてはいるものの、他のところは透け透けだ。
(カップルたちはみんな初夜にこんな服を着るの?!)
「お待たせするわけにはいきませんので、早く着替えましょう」
「ほ、本当にこれを着るの?」
「はい」
そしてされるがままに服を着せられてしまった。
この服は紐を数か所結んだだけで着替え終わる。
これはなんて脱がしやすそうな服だ。
自分の姿を鏡で見てみるが、鏡で見るだけでも恥ずかしい。
これを来てカイトの寝室に自分の足で向かわなきゃいけないなんて。
「お嬢様、これは私からの助言です。困った時は全て王太子殿下にお任せしましょう」
「そ、そうね。私から特に何かをしようとせず、身を委ねればいいんだよね」
「そうです。ではいってらっしゃいませ」
ここまで手際よく準備をしてくれていたヨハナだが、見送る時には心配そうな表情を浮かべていた。
私の気持ちを察してくれているのだろう、両手で応援の仕草をしてくれている。
「…行って来ます」
部屋の外に出れば、配慮してくれているのか人が全くいなかった。
おかげでこの恰好でも歩く恥ずかしさが軽減している。
婚約期間の間でもカイトの寝室には訪れたことがないため、どんな感じなのか実は気になっていたり。
部屋は執務室のように綺麗に片づけられているだろうが、べルティーナ様の部屋を準備したこともあって、内装とか何色を貴重とされているのかとか、考えてしまう。
寝室は執務室よりも更に奥に配置されていて、足を踏み入れることも初めてだ。
近づいていくほど緊張で速くなっていた鼓動が、扉の前に着いたことで過去最高の速さで鼓動する。
(深呼吸…深呼吸…)
落ち着かせるために深く呼吸を何度もしてみるが、治まる気配は全くない。
扉の前に立ってどれくらい経っただろうか、なかなか中に入る勇気が出ない。
「いつになったら入って来るんだ?」
「うわあぁ!!…っ!」
下を向いていたところ急に上から声がして、思い切り大きな声を出してしまい、すぐにカイトの手で口を塞がれた。
「そんな得体の知れないものを見たような反応をされると少し傷つくのだが」
「…ごめんなさい」
(驚き過ぎて心臓が破裂するかと思った…)
カイトが部屋から出てきたことで、その流れで中に入ることに。
至って内装は白くシンプルなもので物も少なく、忙しいカイトがただ寝るためだけの部屋という感じだ。
「さっきから気になっていたんですけど…、何でバスローブなんですか?」
私はこんなにも透けた服で、いかにもこれからそういうことをしますといった格好なのに、カイトはバスローブだなんて。
(そっちの方が透けてないから、私もバスローブが良かったなぁ…)
「男にはそういう服はないからな。まあでも、脱ぎやすくはあるだろう」
「…そうですか」
会話をしながらも、とりあえず私は寝台に腰を下ろした。
さて、これからどうしようか。
(いや!私からは何もしない!)
自分から言い出すのは恥ずかしいし、ヨハナの助言通りカイトが動くのを待つだけでいい。
私が座ってから、その後にカイトがすぐ傍に腰を下ろしてきて、再び心臓が跳ねる。
(み、密着してる…!)
服の生地が薄いから、カイトの体温をすごく感じて動揺を隠しきれない。
「そんなに緊張してるのか」
「してます!さっきから鼓動が速すぎて苦しいですよ!」
「…俺も結構緊張してるんだ」
「え?カイトも緊張してたんですか?というか緊張することあるんですね」
カイトが緊張しているなんて思ってなくて、それを聞いてお互い様なのだと本当に少しだけ心が落ち着いた。
「俺だって緊張することはある。お前を前にすると大切だから、緊張して接し方がわからなくなる時もあるんだ」
「だからいつも意地悪なことばかり言ってたんですか?」
「…そうだな」
とても意外だった。意地悪だったことにそういった理由が隠されていたことが。
結婚式で堂々と長いキスをしてくるくらいだから、部屋に入って速攻脱がされるかもしれないとも思っていたのに。
私の心情を察してか、落ち着かせるために普段は言うことのない自分の話をしたのだろう。
そう考えると、本当に愛されて大切にされているんだなと強く感じた。
読んで頂きありがとうございました!
次話は初夜の話になりますが、全年齢対象のためあまり期待はしないで下さい…。
けれども、ギリギリのラインを攻めて行こうと思います!
次回は日曜7時となります。




