第62話 レープハフト候爵令嬢に謝意を
二人と話している内に少し疲れもとれたことだし、レープハフト侯爵令嬢と話をしに行かないと。
「じゃあ、私話さないといけない人がいるからそろそろ行くね。残りの時間も楽しんで!」
「いってらっしゃい、気をつけるのよ?」
「大丈夫だよ」
ノアは私が誰に話しかけに行くのかわかっているようだ。
「また何かあったら手紙を送って下さい」
「うん、そうする。シュリヒトもまたね」
そう言って私は椅子から腰を上げ、レープハフト侯爵令嬢の元へ向かった。
きっと彼女は両親と一緒に居るか、いつもの令嬢と一緒に居るだろうから探しやすい。
心配されるだろうから、カイトが戻って来る前に話を終わらせないと。
(あ、いた!)
会場の真ん中の方で令嬢たちと話している彼女の姿を見つけた。
一直線に彼女の方へ歩き出し、声をかける。
「レープハフト侯爵令嬢、お話があります」
「あら、あなたから声をかけて来るとは思わなかったわ」
「ここではあれなので…少し離れましょう」
そして彼女だけを連れ、会場の端の方へとやって来た。
初めに向けられた視線は鋭いもので、やっぱり怒っているのだろう。
「私たちの間にあなたが入る隙を与えるはずだったのに、何も出来ないまま結婚することになってしまってごめんなさい!」
「そうですね、あなたは喜んで!と、言ってましたものね」
「はい、その通りです…」
その会話をした夜会の後、シュリヒトやグロース公爵、ベルティーナ様、そして自分のことばかりで忘れてしまっていた。
シュリヒトの婚約発表の時にも彼女とは話したものの、その後も結局忘れてしまっていたのだ。
カイトは毎日忙しそうにしていたが、それでも二人が会うように手引き出来たかもしれなかったのに。
「結婚することになった理由をお聞きしても?」
「それは…その…、最初は確かに婚約を破棄するために奮闘していたのですが、私はカイトを好きなってしまって、ありがたいことにカイトも私を好きになってくれて、結婚することになりました…」
私の方が身分は上なのに、立場が逆転しているようだ。
申し訳ない気持ちでいっぱいで、砕けた口調では話せない。
「そう…。まぁ、あんなことを言っていたあなたですから、好きになれる人が見つかって良かったと安心している私がいます。不思議ね…失恋したはずなのに」
「レープハフト候爵令嬢…」
彼女は確かに悲しい気な表情を浮かべている。
でも私の好きな人が見つかって良かったと言ってくれた彼女は、とても優しい人だったのだと気づいた。
どんなことを言われるのかとビクビクしていたことが、本当に申し訳なく思えてくる。
「…実は少し前から気づいていたのです。街へ出かけた時に二人が平民に扮して歩いているのが見え、王太子殿下のあなたを見る目が変わっていました。その時に王太子殿下の眼中に私は居ないだろうと」
「気づかれてたんですね…」
「私がどれだけ王太子殿下をお慕いしていたとお思いで?」
「そうでした、知ってます、ごめんなさい」
彼女がどれだけカイトが好きかは、婚約前に自分から聞きに行っていたからよく知っている。
変装していても彼女なら気づかないわけなかった。
(レープハフト候爵令嬢もカイトの視線が変わってたのに気づいてたの?私以外みんな気づいてるなら、気づかなかった私はどれだけカイトを見てないんだ…?)
「けれど、好きなのならあなたに頼むのではなく、もっと自分から行動すべきだったと思うのです。だからもう気にしないで下さい。私も新しい恋を見つけて幸せになります」
そう言った彼女の瞳は潤んでいたけど、さっきの悲しそうな表情とは違い、前向きな表情だったから私の気持ちも軽くなった。
「ではその時こそは困られた時にお力になります」
「そうね、その時はお願いするわ」
何だか彼女と仲良くなれたような気がする。
友人と呼んでいいのかはわからないけど、婚約してから友人が増えているから、婚約していい事尽くしだ。
昔はあんなに嫌がっていた婚約と結婚だったけど、今は胸を張ってして良かったと言える。
「お迎えが来たわよ」
「え?」
彼女が視線を私の後ろに向けたから、私も後ろを振り返ればカイトが食べ物と飲み物を持って立っていた。
「探した」
「ごめんなさい、話が終わったら戻るつもりだったんだけど遅かったね…」
「令嬢と一緒だったんだな。まぁお前が他の男と居るなんてあいつ以外あり得ないか」
(ん?あいつって…シュリヒトのこと?)
そんなことを考えていれば、レープハフト候爵令嬢が話し出す。
「王太子殿下、ご結婚おめでとうございます。では私は二人の邪魔にならないよう、これで失礼します」
「あっ待って!」
私はお辞儀をして立ち去ろうとする彼女を引き留めた。
「ありがとう!」
「何も感謝されるようなことはしていませんが…、でもそのお気持ちは受け取っておきます」
そして今度こそ彼女はこの場から離れて行った。
(ちゃんと話せて良かった)
気がかりだったことも無くなり、これでカイトだけに真剣に向き合える。
私は再度カイトの方へ振り返り、笑顔を向けた。
「持って来てくれてありがとうございます。頂きましょうか」
「ああ、エアの好きそうなものをたくさん取ってきたから」
そう言われてカイトの持っている皿を見てみれば、甘いものがたくさん乗っている。
「ふふ、よくわかってますね」
「当たり前だろ」
それから私が座っていたところへ戻り、二人で食事を楽しむのだった。
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次回は木曜7時となります。




