第60話 想像していなかった結婚
窓から差し込む温かい日差しに包まれながら、お父様と一緒にカイトの近くまで歩いて行く。
その間、私はこれまでのことを頭の中で振り返っていた。
今でも婚約を申し込んで来た理由はわかっていないけど、何故か当然にリアン家に送られてきた手紙。
そして仕方なく受ければ放置される毎日。
(愛人でも居るのかと思うくらいの放置だったから、作る気はないって言われた時は驚いたなぁ)
夜会で勝負を受けてから惚れさせるために奔走していたはずだけど、結局成果があったのかもわからないし。
急に決まったデートからカイトの様子も変わって来て、どこに行くにもついて来たり大変だった。
それで助かったこともあるけど、本当に毎回ついて来るのは勘弁して欲しかったな。
カイトには何度も心の内を見透かされて、言葉一つ一つが私の胸に刺さった。
いくら線を引こうとしてもすぐに踏み込んで来るカイトにはどうしても敵わない。
楽しいことばかりじゃなかったけど、これから二人で歩んで行く道が楽しいと幸せが続くことを願って。
思い出も振り返り終わったところで、カイトの近くへ辿り着いた。
「エア、幸せになるんだぞ」
「もう幸せですよ」
お父様の腕から手を離せば、お父様はそう呟いた。
その時寂しそうな表情ではあったけど、私が微笑めばすぐに安心した顔を見せた。
それからカイトと並んで牧師の話を聞く。
「健やかなる時も病める時も、お互いを愛し支え合い続けることを誓いますか?」
「「誓います」」
「それでは誓いのキスを」
その言葉を聞いて私は固まった。
(え?誓いのキス?…そっか!キスあるじゃん!私はどうしてそれを忘れてたの?!)
周りからはわからないだろうが、私は今酷く動揺している。
それをわかっているのはおそらく、目の前にいるカイトだけだろう。
だって、今も笑いそうになっている。
「ふっ…」
「…っ!!」
カイトは柔らかく微笑んでから私の唇にキスを落とした。
体温が伝わって来るし、顔も近くて心臓鼓動がどんどん加速していく。
一度目ではないけど、両想いになってから初めてのキスだから余計に緊張する。
(…てか、長いっ!!)
あまりにも長くて周りが困惑して来ていたので、私はカイトの腕を軽く叩いた。
そうしたら、ようやくカイトは唇から離れる。
「ははっ」
「何笑ってるんですか!」
幸せそうに笑うから、唇が離れたのに速い鼓動が全然収まらない。
とにかく恥ずかしいという気持ちで結婚式は終えた。
それから夜の結婚発表をする夜会の準備だ。
始まるまではカイトと会話をして時間を潰すことに。
「白いドレス姿のエアも綺麗だった」
「ありがとうございます…、殿下もかっこよかったですよ」
式が終わってから数時間経つものの、まだ恥ずかしさが残っていた私は普段通りに話せず敬語になってしまう。
「どうしてあんなにキス…長かったんですか?普通一瞬なのではないでしょうか…」
「そうとは限らないだろ。エアがよく読む小説にはキスは一瞬だと書いてあるのか?」
「うっ…書いてないです…」
小説にはそこまで書かれていない。
だから一瞬だったのか、長いのかは定かじゃなく、普通は一瞬というのはただの私の想像だ。
「でもあんなに長くされては後でお父様の顔を見るのも恥ずかしい!」
「その内慣れる」
「慣れるようになるほどキスするつもりなんですね!?」
「悪いか?」
「悪いです!心臓がもちません!」
「それなら仕方ないな」
そんなことを言いつつも、絶対に頻繁にキスをしてくるような男だと私は知っている。
だからその言葉は信用ならない。
(もっとそういう恋愛要素多めな本を読んで、勉強して耐性をつけておかないと駄目だ…)
そうじゃないと本当にこの先耐えられない。
読んで頂きありがとうございました!
次回は日曜7時となります。




