第6話 次のデート先
次に訪れたのは二階にあるカフェ。
ただし、普通に飲食をするわけではない。
何故ならば…
「ここの窓際から見える反対側のカフェは、カップルしか入ることのできないカフェなんです!なので私は中に入ることが出来ないので、仕方なく反対側から中を覗いているんです…」
そう言って私は、自分の鞄から双眼鏡を取り出しカフェの中を覗き始める。
「その鞄に何が入っているのかと思えば…そうか…」
「双眼鏡はどこに行く時も持ち歩いていますよ?」
「…抜かりが無いな」
「当たり前です!どこでもカップルに遭遇する可能性がありますから」
それ以上は王太子殿下も何も言って来ることはなく、黙って紅茶を飲みながら私の反応を眺めている様だった。
今は私が王太子殿下を放置している状態になっているが、後で私には考えがある。
だから今は許してもらえると助かるんだけど。
とは言っても、完全放置ではなくてカップルを眺めながらも、王太子殿下の方を時々気にしてはいる。
(私の視線には気づいているみたいだけど話しかけて来たりしないしなぁ…)
「あぁ、中に入れたらどれほど幸せか…!」
「なら入ればいいだろう」
「無理ですよ!!今イアンは変装してるし、そもそも私は結構有名人なんですよ?!カップルじゃないってすぐに気づかれます!」
そんな簡単に入れたら苦労しないんですよ!
私の噂がなかったらカップルを装って入れたのかな…。
「変装していない時に入るのは?」
「王太子殿下が入ったら皆が堂々とラブラブ出来なくなるので駄目です」
「じゃあ二度と入ることは出来ないな」
「…そうです」
王太子殿下が婚約を申し込んで来なければ入れた可能性があったのに…!
でもどれだけ嘆いても仕方がない…。これが現実だ。
「そろそろ移動しますか」
「…分かった」
時刻は昼過ぎ。このデートの残り時間は後半分というところだろうか。
私たちはカフェを離れ、始めの噴水のところへ戻って来た。
「ここへ来てどうするんだ?」
「ここからは、イアンの行きたい場所へ行きましょう。私の行きたい所は済みましたから。それに、いちようデートですから私だけ楽しくても意味が無いでしょ?」
後ろをついて歩いていた王太子殿下の方へ振り返り、私はそう言った。
「イアンはどこに行きたい?」
私はその時、初めて王太子殿下に自然な笑顔を向けていたと思う。
作り笑いではなく、純粋な笑顔を。
「…そうだな、行くぞ」
「え?!ちょっとイアン?!」
少し沈黙の間があったのが気になるが、王太子殿下は私の手を取り歩き出した。
顔はこちらを向いておらず、表情は一切窺えない。
(手を繋いで歩くなんて完全に恋人みたいじゃん?!)
いや、婚約しているからあながち間違っていないかもしれないけど、でもお互い恋愛感情もない。
手を放そうにも、全然手が抜けない。
どれだけ固く手を握っているんだ。
そして手は繋がれたまま道を進んで行き、着いたのは装飾品を売っているお店だった。
(うん…そんな気がしてた)
小説でも大体街に出た時に連れて来られるのはこういうお店だ。
女性が皆着飾ることが好きな訳ではないんだけど…。
でも、王太子殿下はデートでどこに行けばいいか分からないみたいだし、こうなるよね。
「好きなのを選べ」
「…でも、ここ…めちゃくちゃ高いんですけど…?」
いつも私が買っているお店と桁が全然違う。
さすがに良いと思ったものがあっても、値段によっては欲しいと言えない。
「どうしても買うんですか?」
「この先夜会がどれだけあると思っているんだ」
「それは分かってますけど…」
これは出来るだけ値段の安いものを選ばないと。
(私こういうのには疎いし、自分の色のものしか買わないんだよね…)
杏色や薄緑色ってあまり宝石はないし、高級な宝石がたくさん着いた装飾品しか売っていないこの店ではほとんど見かけない。
「そんなに迷うならこれにするか?」
「え!それですか!?」
王太子殿下が提案してきたのは真っ赤な宝石のついたもの。
(前のドレスといい…、どれだけ私を赤色に染めれば気が済むんだー!!)
そこは似合う色とか提案して欲しいと思ってしまう。
さすがにずっと王太子殿下の色ばかり着飾りたくない。
(でも、イアンの行きたい所に行くと言ったのは私だし…、振り回したのを少しは申し訳ないと思っているというか…)
「…じゃあそれにします」
「そうか」
(ちょっと嬉しそうなのは一体…?)
悩んだけど、王太子殿下が嬉しいのなら良かったのかな。
後で値段を見て血の気が引いたけど、王太子殿下が提案したものだから見なかったことに。
読んで頂きありがとうございました!
次回は日曜7時となります。