第55話 友人との別れ
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもの。
ベルティーナ様が自国に帰る時が来てしまったのだ。
「ベルティーナ様、今日まで本当にありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました!離れるのがとても惜しいです…、お手紙をたくさん書きますね!」
「それは嬉しいです、私も書きますね。またいつでも来てください!」
ベルティーナ様は深くお辞儀をし、馬車に乗り込み見えなくなるまで手を振っていて、私も手を振り返していた。
(寂しいなぁ。でも、手紙でやりとり出来るし、王太子殿下が居るから寂しさを感じることは少なくなりそう)
あと数週間で王太子殿下と結婚する。
結婚の時にベルティーナ様にも来て欲しかったし、ベルティーナ様もそれを望んでいたが、滞在がこれ以上伸ばせないようで仕方なく帰ることになったのだ。
だから、自国に戻ってまたこの国に来ることも難しく、ベルティーナ様は私たちの結婚に同席することは出来ない。
すごく残念がっていたので、結婚の時について詳しく手紙に書いて送ろうと思う。
「見えなくなりましたね…」
「中に戻ろう」
見送りも終わり、王宮の中へと入って行く。
ベルティーナ様が帰ったあとにもするべきことはたくさんある。
隣国の方たちが帰っても、結婚の準備があるためまだまだ忙しい日々は続く。
これからドレスを仕立てたり、ほとんどの貴族に招待状を書かなければいけないのだ。
「やることが山積みですね」
「そうだな。だが今日くらいはゆっくりしよう」
「根掘り葉掘り聞くつもりですか?」
「そのつもりだ」
王太子殿下は意地悪な顔を浮かべた。
聞きたいことがたくさんあるとは思っていたけど、私にも聞きたいことはたくさんある。
これまでベルティーナ様とずっと話していたから、王太子殿下とも話せなかったぶん話したい。
「いつの間に皇女と仲良くなってたんだ?」
「それは王太子殿下と話せなかった間に仲良くなったんですよ。趣味をわかり合える貴重な友達です!」
「そうか…良かったな」
一瞬複雑そうな表情を見せた王太子殿下だったが、すぐに安心したような柔らかい表情で笑っていた。
「もしかして私の趣味をわかり合える友達になれなかったこと残念に思ってます?大丈夫ですよ、王太子殿下はこの先私の趣味を隣で支えてくれる夫になるんでしょ?」
夫婦になるのに友達になれなかったことを残念に思っている王太子殿下が可愛く見えて、笑いながらそう言った。
「隣に支えてくれる人が居るからこそ、私は存分に趣味を楽しめるんです。大事な役目ですからね?」
「そうだったな。ちゃんと支えられるよう精進する」
そうは言ったものの、結婚したあとは今よりも仕事が増えて忙しくなるはずだから、私がカップルを見に街へ行くのについて来るのは難しくなるだろうけど。
でも二人の時間は増えるから、その時に私の話をたくさん聞いてもらおうかな。
「出会った頃は好きならないとあんなに豪語していたのに、ここまで変わるもんなんだな」
「そ、そうですけど!私でもいまだに自分が王太子殿下を好きなったことが信じられないんですよ?だからどうすればいいかよくわからなくて…」
触れてほしくない話題に触れられてしまった。
よく絶対に好きにならないと自信満々に言えたものだ。
封じ込めたい黒歴史になってしまったが、広まり過ぎた話を無くすことは出来ない。
今度は好きにならないと言っていた人が、王太子殿下に惚れたという話があっという間に広がるだろう。
何故こんなにも自分の話が広まるのかわからないが、とにかく広めるのはもう勘弁して欲しい。
そんなに面白い記事だとはとても思えない。
「本当に勝負を受けて正解だったかな…」
「正解だろ?悪いことなど何一つ無かったじゃないか」
それは至極真っ当な意見だ。
恋愛相談に加え友達も出来て、結果的に望んでいたものは全て手に入った。
「王太子殿下が私の理想的な人だと知っていたら受けなかったのに…!」
「…?理想?」
「あっ!」
浮かれていたからか、余計なことまで口走ってしまった。
理想の人だってことは言わないつもりだったのに。
「いや、昔の話です!今はもう違います!だって王太子殿下は私の趣味に何も言わずに、私を放っておくなんてことしないじゃないですか!だから違います!」
「なるほど…。それは本心じゃないな?」
「な、何のことでしょう?」
今まで誰に話しても本心に気づかれることは無かったというのに、どうしてこの人は気づいてしまうのか。
「本当はありのままの自分を受け入れてくれて、理解してくれる相手が良かったんじゃないのか?それを諦めた結果の理想だろ?それは」
「何でそこまでわかってるんですか…。むしろ怖いですよ」
「お前のことをよく見ているからわかる」
それだけでここまで予想出来るものなのか怪しく思う。
さては人の心を読めるのではと疑ってしまうほどに。
「じゃあ私も王太子殿下のことをよく見てればわかるかな…」
「それは頼むから止めてくれ」
私はそう言って王太子殿下を凝視すれば、照れた顔をして断った。
「嫌です」
「嫌なのか?」
「だって見てると癒やされるから」
「じゃあもうカップルを眺める必要はないんじゃないのか?」
「それとこれは別です」
カップルを見ている時と同じように、心が満たされて行く。
私はずっと愛を欲していたのかもしれない。
母親からはもらえなかった愛、友人愛とはまた違う、本当の愛。
これからは眠るのが惜しくなるほど、楽しく幸せな時間が続いて行くことだろう。
読んで頂きありがとうございました!
二人の勝負は終わり、結婚した両想い編が始まります。
ですが、この物語の本編はすでに終盤で、五月中に本編は完結する見込みです。
残りも読んで下さっている皆様が楽しめる話を書けるように励んでいきたいと思っておりますので、どうか最後まで読んで頂けると嬉しいです。
次回は火曜7時となります。




