第47話 ノアの予感
風邪も治ったということで、街に癒しを堪能しに行くことにした。
いつものようにヨハナと出かけるつもりだったのだけれど、ノアから直接会って話したいことがあると手紙が届き、ノアと一緒に街へ行くことに。
「エアが風邪を引くなんて珍しいこともあるのね…」
「色々忙しかったからね」
私だって人間なんだから風邪を引くことだって勿論ある。
でも普段カップルを見て騒いで元気過ぎる私を見慣れているノアからしたら、そう思うのも仕方ないかもしれない。
多分、癒しさえあれば何にも負けないと思われてる。
「そうだ、王太子殿下に私の過去のこと話したよ」
「まだ話してなかったの?」
「え?そうだよ?」
「もうとっくに話していると思ってたわ」
私にはどうしてノアがそう思っているのか理解が出来なかった。
過去の話は私とって辛いことだとノアも知っている。
(もしかして、もう何でも話すような仲だって思ってるんじゃ…)
「ノアって私と王太子殿下の関係についてどう思ってるの?」
「それはねえ、正直に言うと…」
「うん…」
「早くくっついてしまえ!って、思ってる」
「…ん?」
ノアから聞いたことのない口調でとんでもないことを言われたような。
(早く…くっついてしまえ…?)
そう言われても、両想いではないのにくっつくのは無理があるのではないだろうか。
やっぱりノアから見て、私と王太子殿下の関係はかなり密接なものに見えているようだ。
(そんなことはないと思うんだけどな…)
しかしいざ振り返って見ると、毎日お見送りをしている、手を繋いでデートした、長時間抱かれたまま過ごし、王太子殿下の腕の中で寝た。
(あれ?結構密接…?)
考えてみるとおかしい。
勝負が始まった時にはこうなることを思い描いていたわけじゃないのだけれど。
王太子殿下を惚れさせるのが目的だったはず。
いつの間にかただ仲良くなっているだけの気がするような。
「凄く考えてるところ悪いけれど、本題に入るわね?」
「あ、うん」
「近々、隣国の皇女様がこの国に来るみたいなの。恋愛にしか興味ないエアは知らないと思って」
「皇女様が?なんでだろう…」
私が生きている間に皇女様が訪れたことなんて無かったのに。
そもそも名前すら知らない。
「どんな方なの?」
「それは私も詳しく知らないわ。でも、王宮には必ず訪れるからエアは会うことになるわよ」
「大変だなぁ…。やっとゆっくり出来ると思ったのにまた忙しくなる…」
王太子の婚約者なのだから仕方がないけれど、全然気が乗らない。
王太子殿下の両親も見ただけで話したことはなかったから、これまで話した中で自分よりも身分の高い人は王太子殿下だけだ。
その王太子殿下とは、もう結構砕けた話し方をしていてそれに慣れてしまっている。
身分が上の方と丁寧な口調で話すのはかなり久しぶりだ。
ちゃんと振舞えるかも心配だし、気にすることも多い。
何より皇女様のことを全く知らないのだから対策しようにも出来ないし、これから恋愛小説じゃなくて隣国についての本を読まないと。
「それで私思うことがあって…。このタイミングで来るのが何か引っかかるのよね」
「そうなの?」
「だってエアはもうすぐ王太子殿下との婚約期間が終わるでしょう?私はその婚約期間が終わる前に来たがっていたんじゃないかって思うの」
そういった話には疎すぎて、ノアの気になっていることがよくわからない。
でも大事な話で、それは自分に凄く関わる話だということはわかった。
「二人が婚約期間の途中で破棄すると思っていたけれど、なかなか破棄しなくて終わる時が近づいてるから急に来たのかなって」
「う~ん、ノアの考え過ぎじゃない?それだと皇女様は王太子殿下と婚約したがっているみたいじゃん。それだったらとっくに婚約してたと思うけど」
「そうね…。考え過ぎなだけだといいけれど…」
ノアはそう言いながらも心配そうな表情を浮かべていた。
本当にノアが言ったようになった時に私はどうすればいいのだろう。
勝負が決まっていないが婚約者の座を譲るべきなのか。
けれどそれは私だけの判断で決めれるものではないし、そこらへんの判断をするのは王太子殿下だ。
私は王太子殿下の判断に従うのみ。
とはいえそうなることはそうそうない、はず。
その話をしっかりと受け止めておきつつ、時が来るまではカップルを観察することにしよう。
読んで頂きありがとうございました!
次回は木曜7時となります。




