第43話 話すことを決める
令嬢たちから離れられてようやく馬車に向かえると思ったのに、今度はどこかの貴族らしき男の声が聞えて来た。
「こんな茶会まで王太子殿下と来るなんて、恋愛しないとい言っていたのは嘘だったみたいだな」
「王太子殿下はあんな馬鹿な女が好みなのか」
「あの令嬢が王太子妃って…未来が心配になるな」
男たちはそう大きな声で言い嘲笑しているが、こちらまで聞こえていることに気づいていないようだ。
それに、彼らには見覚えがある。
前に本屋に行った時に、騎士に変装していた王太子殿下と話していた男たちだ。
(ああいう人は無視して早く馬車に―)
「あいつら懲りてなかったのか」
気にすることなく近くを通り過ぎようと思っていたのだが、王太子殿下が一言発し彼らの元へ向かって行ってしまった。
(え?王太子殿下?)
王太子殿下は私が今まで見たこともない、冷たく鋭い視線で睨みながら声をかけに行く。
「おい。その発言をしたことを後悔するんだな」
「王太子殿下?!わ、私たちは王太子殿下を侮辱するようなことは一言も申しておりません!どうかお許しを!!」
「彼女を侮辱した時点でお前らは終わりだ。しかも、二回もな」
男たちは土下座をして王太子殿下に許しを請うも、全く許してくれる様子のない王太子殿下を見て顔がどんどん青ざめていく。
「言っておくと、俺は馬鹿な女は好みじゃない。そもそも彼女は馬鹿ではないし、自分の好きなものに夢中で一生懸命な姿が好ましいんだ。何かに夢中になれることは素晴らしいことだと前に言ったことも覚えていないのか?」
前に出会った騎士が王太子殿下だったことに気づいたのか、男たちはもう絶望した表情へと変わっている。
王太子殿下は本気で怒ると容赦ないから、男たちは本当にもう終わりだろう。
「家で大人しく処罰が下るのを待つんだな」
そうして王太子殿下は私の元へ帰って来た。
表情はいつもの王太子殿下に戻っているが、纏っている雰囲気がもう不機嫌だ。
「あれくらい気にしてませんから大丈夫ですよ。でも、庇ってくれてありがとうございます」
「言われ慣れているから気にしていないと?」
「まあ、そうですけど…それが何か?」
「やっぱりあの時にもう片づけておくべきだったな…」
王太子殿下が呟いたのを聞いて私はあることに気がついた。
私を二回侮辱したと。そしてやっぱりと今そう言った。
ということは、本屋で話していた時も私のことを庇ってくれていたのだと。
会計が終わって王太子殿下の元へ行った時、聞こえていたか聞いたのもそれが理由だろう。
「前も私を庇ってくれたんですね。…あと、何かに夢中になれることは素晴らしいと前もそう言ったんですか?」
「そう言ったな」
「王太子殿下は私の趣味をおかしく思わないのですか?」
「おかしいと思ったことはない」
さっき男たちとしていた会話で気になることが多すぎて、つい王太子殿下を質問攻めにしてしまう。
「じゃあどう思ってるんですか?」
「お前の夢中になっているその趣味も素晴らしいと思ってる」
(王太子殿下は私の趣味を否定しないんだ…)
色んな感情が込み上げてきて、泣いてしまいそうで私は俯き王太子殿下と逆の方向に体を向けた。
「…ありがとうございます。帰りましょう」
「ああ、そうだな」
そんな私に王太子殿下は何も言わなかった。
絶対にいつも聞かないでいてくれている。
それに凄く救われたし嬉しかった。
でも、何も言わないのはもうやめる。
私の趣味を否定するどころか、素晴らしいと言ってくれたのだ。
王太子殿下に過去の話をすると、心に決めた。
いつか話すと前に言っているから、私が自分から話すのを待っているだろう。
そして王宮に着いて自室に戻ってから、ヨハナにも王太子殿下に過去のことを話すことを伝える。
「ヨハナ、私…王太子殿下に過去のことを話そうと思う」
「話されるのですか?」
「うん。お母様のことも、趣味のことも、私がずっと抱えていたこと全部話すつもり」
「王太子殿下なら大丈夫ですよ。お嬢様のことをわかってくれます」
ヨハナは私を安心させるように微笑んだ。
私に昔から仕えているヨハナが大丈夫と言うのだから、大丈夫なはず。
話を聞いて王太子殿下がどんなことを思い、どんなことを言うのか不安はあるが、私を傷つけるようなことは絶対に言わないと、それだけは確信出来た。
読んで頂きありがとうございました!
次回は火曜7時となります。




